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木津毅   Aug 18,2014 UP
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 じつはベックの最新作は発売されてすぐ何度か書こうとした。が、結論から言ってしまうと、どうしてもこのアルバムに入り込めなかった。

 詰まってしまったのにははっきりと理由がある。2008年の前作『モダン・ギルト』が僕の愛聴盤だったからだ。そこで歌われる「現代の罪」は、「何をしてしまったかわからないけれど でもなんだか恥ずかしく思う」もので、それはベック・ハンセンという現代社会に溢れる情報の嵐を編集/再構築してきたアーティストが口にする言葉としては高度資本主義社会の欺瞞が膨れ上がっていた当時、非常に説得的に思えた。その前作は『ジ・インフォメーション』だったので、彼自身なにやら自己言及的なフェイズにあったのかもしれない。あと『モダン・ギルト』は、そのような曖昧なテーマを扱いながらも、コンパクトなサイケ・ロック・アルバムにまとまっていたことも大きかった。メランコリックながらドラムの激しい打撃が聴ける“ケムトレイルズ”や、変拍子が吹きすさぶ“レプリカ”あたりはいま聴いてもなおスリリングだ。

 自身の表現としては、それから6年空いての「フェイズ」は「朝」だというベック。だが、音を聴いても、言葉を聴いても……それが希望と光に満ちた「朝」だとは感じられない。それは「長い嵐の夜」が過ぎたあとに訪れる「朝」であり、「やり尽くした/言い残したことさえない」のにそれでも訪れてしまう「朝」(“モーニング”より)である。ケガで脊椎を痛めていたというベックのこの新作から聴こえてくるのは、老いていくセレブリティが自己セラピー/リハビリのために起きるための「朝」である……というのは、言い過ぎなんだろうか。
 2002年の『シー・チェンジ』のメンバーが集まったという情報を聞けば近いものを感じる瞬間もあるが、あれほどディープなブルーズが聴けるわけではなく、フォーク色で言っても『ミューテイションズ』のような90年代の輝かしい無邪気さは当然ない。特徴的なビートは抑えられ、アンビエント色が増し、そしてレイドバックしている……。サイケデリアで言っても、非常に内的なスピリチュアリズムが全体を漂っていて、アルバムが「発見に何の意味があるのだろう?」、「ああ眠らせてほしい」という、どこか夢見心地でウォームな風合いの“カントリー・ダウン”へと辿り着く頃には、なんだかうなだれた気分になってしまう。ブランクの間に楽譜で発表された『ソング・リーダー』では、まだ演奏者たる「人びと」への視線が感じられた。が、『モダン・ギルト』の終曲で「喜ばされたいだけの人たちにはもう疲れた、だけど僕はまだきみを喜ばせたいんだ」と歌っていた彼の疲弊感はここに来ても覚めておらず、そしてとても内側にこもっている。ラストの“ウェイキング・ライト”でようやく訪れる光は、しかし「もう帰れない」ことを告げるものである。

 はっきりとした手ざわりのないアルバムのなかで、僕がもっとも耳を引かれるのはビートレスで大仰なストリングスが下のほうからやってくる“ウェイヴ”である。「孤立……孤立……孤立……」と繰り返しつつ、「この波と戦わないとしたら/沈まずに ただ流されるんだろう」と呆然と歌う。そこで彼は自ら進んで「人びと」と距離を置き、孤独を異化している。その迫力にうすら寒いものを感じながら、しかし流された先でベックが見つけたものを僕は聴きたい。それがあると思いたい。
 「ひとり」であってもいい。だけど彼らがバラバラに切り離されていていいのだろうか。オバマが大苦戦し、保守反動しかねない緊張感が漂ういまのアメリカで孤立するのは、僕にはとても危ういことのように思える。……言うまでもなく、この国においても。

木津毅

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