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Susanna / Jenny Hval

Susanna / Jenny Hval

Meshes of Voice

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橋元優歩   Aug 19,2014 UP
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 ノイズこそわがキャンバス──ノイズを生み出すことに目的があるのではなく、それをキャンバスとして空白のかわりにするというのが、イェニー・ヴァル(Jenny Hval)の音楽でありノイズ観だ。ハーシュ・ノイズを筆頭に、アルバムにはくまなくさまざまなノイズが敷き詰められている。ラーガ調のドローンに、ゴシックな世界観と女声二声によるエクスペリメンタルな歌唱が交差する“アイ・ハヴ・ウォークト・ディス・ボディ”は、そうした彼女の音楽のありようを冒頭において高らかに宣言する、素晴らしいトラックだ。なんて静かな、そしてなんと熱くたぎる……。

 ノルウェーのシンガー、ソングライター、小説家としても活動する女流アーティスト、イェニー・ヴァル。昨年リリースのアルバム『イノセンス・イズ・キンキー』が高い評価とともに注目されたため、気になっていた方も多いだろう。しかし、今作は同じくノルウェーのシンガーであるスサンナを迎えたことでさらに水際立った存在感を放っている。これはヴァルが「異なるふたつの声がどのように互いをきたえ、溶けあうのかという実験」だと述べるように、十分に意識された取り組みであることがうかがわれる。

 たとえばファースト・エイド・キットの、わがままで強気なロリータ・ヴォイス(妹)と優しい透明感をもったソプラノ(姉)との対照。ココロージー姉妹の妖しくゴシックなたたずまい。グルーパーの深淵を思わせるリヴァーブ感。俗っぽさを取り除いたプリンス・ラマ(といっては失礼だろうか)。遠くフリー・フォークの記憶をよみがえらせながら、新たな魔女たちがノイズの炎たつ原野に降り立った、そんな強烈なインパクトを持つコラボレーションだ。

 まあ、「魔女」なんて符号をつけるのは乱暴で安直かもしれない。ある種のドレスに身をつつんで一丁あがりというようなゴシック趣味は、ジェンダー観においても進歩的なヴァル自身が否定している。しかし上品で正確な表現で紹介していてはつかまえそこねるような鋭く速い何かが彼女たちにはあって、筆者はむしろ誤りなき言葉によって彼女たちが埋もれてしまうことをおそれる。スタイルにおいて、スタンスにおいて、表現内容において、特別な力に通じているがゆえに、境界的な場所を見据えるがゆえに、迫害もされてしまいかねないような強烈な輪郭をヴァルとスサンナは見せてくれる。

 サン(Sunn O))))にも比較され、プルリエントにも範を得るような彼女の音にはまた、2000年代を通じたノイズの流行も消化されている。そして「ノイズがキャンバス」であればこそ、ピアノとヴォーカルのみの“メドゥーサ”のような楽曲がむしろノイズの顕現であるようにも錯覚する。同曲中盤において彼女たちがめいめいに大きくブレスをおこなうとき、その息というノイズはもっとも印象的な乱調となってあらわれてくる。さながら、いくつもの世界を切り裂いてわたっていく風のようだ。つづく“ランニング・ダウン”がそれをさらに増幅させるだろう。
 ヴァルはまだうんと若い頃にブラック・メタルのシーンにいたということだが、彼らの同胞がときおり召喚するような、ヴァイキングの亡霊たちが徘徊する世界、その冷たい海と廟から吹いてくる風に、彼女たちの呼吸は同調しているのかもしれない。ヴァルはまた、本作においてふたりの声の競合が、「人の精神と肉体が自然的なものの神秘とともに抱合するという近代の寓話になるかもしれない」とも語っている。

橋元優歩