ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with FINAL SPANK HAPPY メンヘラ退場、青春カムバック。 (interviews)
  2. FilFla - micro carnival (review)
  3. KODAMA AND THE DUB STATION BAND - かすかな きぼう (review)
  4. interview with Kode9 〈ハイパーダブ〉15周年記念 (interviews)
  5. 羊とオオカミの恋と殺人 - (review)
  6. BUSHMIND ──ニューエイジ/アンビエントのミックスCDをリリース (news)
  7. Mark De Clive-Lowe ──マーク・ド・クライヴ=ロウがライヴ盤をリリース (news)
  8. Columns 元ちとせ 反転する海、シマ唄からアンビエントへ (columns)
  9. interview with Kazufumi Kodama 不自由のなかの自由 (interviews)
  10. ブラック校則 - (review)
  11. Burial ──ベリアルの新曲が公開、〈Hyperdub〉の新コンピもリリース (news)
  12. Gang Starr - One Of The Best Yet (review)
  13. Jagatara2020 ──80年代バブル期の日本に抗い、駆け抜けた伝説のバンド、じゃがたらが復活! (news)
  14. Columns FKA Twigs スクリュードされた賛美歌 (columns)
  15. じゃがたら新世界2015〜Reborn of a ravel song - @西麻布「新世界」 (review)
  16. Fat White Family ──次世代のスリーフォード・モッズ!? ファット・ホワイト・ファミリーが〈Domino〉から新作をリリース (news)
  17. Moor Mother - Analog Fluids Of Sonic Black Holes (review)
  18. Burial ──ベリアルがコンピレーション盤をリリース (news)
  19. interview with Kikuchi Naruyoshi デート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンの復活 (interviews)
  20. OGRE YOU ASSHOLE - 新しい人 (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Marian McLaughlin- Dérive

Marian McLaughlin

FolkPsychedelic

Marian McLaughlin

Dérive

Beyond Beyond Is Beyond

Amazon

橋元優歩   Sep 24,2014 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 『dérive』と名づけられた美しい(アシッド・)フォーク・アルバム── 「dérive」とは英語で「drift」、漂流の意である。シンプルな弾き語りを基本スタイルとし、スペースのある音づくりのなされた本作には、たしかに身ひとつで漂白するような自由さを感じる。ただし、このタイトルはギー・ドゥボールの「漂流」から採られたということだから、ニュアンスとしては気ままな放浪というのとはすこしちがうようだ。おそらくは能動的に何かを見つけ、動き、展いていくためのひとつの方法、活動、もしくは実験というような意図があるのだろう。だから自由といってもただ束縛がないという状態のことではない。『dérive』には、なにかが生まれる前のような柔軟なエネルギーがたっぷりとふくまれている。そう、このジャケットの写真のように。

 ボルチモアで活動する女性ギタリスト/シンガーソングライター、マリアン・マクラフリン。クラシック・ギターを修め、現在はミュージシャンや詩人や画家などさまざまなアーティストたち集うコミュニティ・スペースで暮らし、音楽活動を行っている。アーティスト同士の共同生活を行ったり「漂流」の概念を引いていたりするからといって、ことさら政治性や運動性を帯びていたりするわけではない。ニック・ドレイクと比較されたりもしているが、どこかブリティッシュ・トラッドな雰囲気の旋律とアレンジには森と霧の匂いがあるし、それに誘い込まれるようにして幻想的な景が広がりさえもする。ときおり感じられるバロック風も、フリーフォークを通過した感性のなかで、一種独特のサイケデリアを築いている。よく聴けばテクニカルなのだろうけれど、なにか太い感覚やイメージの帯のようなものがあり、それにひきずられてぐいぐいと聴いてしまうというところが素晴らしい。
 “ホース”などバンドがバックをささえる曲でも、あくまでマクラフリンの単独の世界はくずれずに、録音のライヴ感とは裏腹に、まるで宅録のごとき趣がある。そしてそのすべてが彼女のギターによって先導される。彼女のアートの芯のようなものに火を点す楽器として、ギターはまるで生き物かなにかのようにふるまう。ギターはマクラフリンにとって、イメージをぶつけ、それを描きこむためのキャンバスのようなものだというが、ただ黙っているキャンバスではない。彼女にたいしてもきっとギターからの応答があるのだろう。そんなふうに、どこかしらにひっそりと生けるものの息吹がまつわりつくようなところも、フリーフォークと呼ばれたアーティストたちの幾人かを思い出させる。マクラフリン自身も特定のものからインスパイアされるわけではないとしながら、ジョアンナ・ニューサムやラーキン・グリムの名を挙げている。もちろん、そこには同時にニック・ドレイクやペンタングルの名も並ぶ。組み立てるのではなく弾き、歌い、イメージに流されることなくそれを操る技量を持つ──シンガーソングライターとして、ギタリストとして、そのどちらの強さも持ち合わせた本当に自由なアーティストだ。

橋元優歩