ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Saito テクノ夫婦 (interviews)
  2. Sam Prekop - Comma (review)
  3. Shintaro Sakamoto ── 坂本慎太郎が新曲を7インチで2ヶ月連続リリース (news)
  4. Jun Togawa ──戸川純のユーチューブ再開 (news)
  5. interview with Diggs Duke 偽りなきソウルを追い求めて (interviews)
  6. ZOMBIE-CHANG - TAKE ME AWAY FROM TOKYO (review)
  7. Cuushe ──クーシェ、5年ぶりのソロ・アルバムが完成 (news)
  8. Bruce Springsteen ──ブルース・スプリングスティーンが急遽新作をリリース、発売日は大統領選直前 (news)
  9. Idris Ackamoor & The Pyramids - Shaman! (review)
  10. interview with galcid インダストリアル・レディ登場 (interviews)
  11. Opinion 政治で音楽を救う(音楽で政治を救う?) (columns)
  12. 電気グルーヴ ──完全復活! 新曲 “Set you Free” をリリース (news)
  13. RMR - Drug Dealing Is A Lost Art (review)
  14. ralph ──気鋭の若手ラッパーがファーストEPをリリース、プロデュースは Double Clapperz (news)
  15. interview with Phew いまは本当に、日常を繰り返すこと。それを自分に決めています (interviews)
  16. Special Interest - The Passion Of (review)
  17. WATERFALL ──吉祥寺で、アシッド・ハウスやデトロイト・テクノをモチーフにした服を販売中 (news)
  18. interview with Trickfinger (John Frusciante) ジョン・フルシアンテ、テクノを語りまくる (interviews)
  19. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第11回 町外れの幽霊たち (columns)
  20. Various Artists - Music In Support Of Black Mental Health / Various Artists - Nisf Madeena (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Marian McLaughlin- Dérive

Marian McLaughlin

FolkPsychedelic

Marian McLaughlin

Dérive

Beyond Beyond Is Beyond

Amazon

橋元優歩   Sep 24,2014 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 『dérive』と名づけられた美しい(アシッド・)フォーク・アルバム── 「dérive」とは英語で「drift」、漂流の意である。シンプルな弾き語りを基本スタイルとし、スペースのある音づくりのなされた本作には、たしかに身ひとつで漂白するような自由さを感じる。ただし、このタイトルはギー・ドゥボールの「漂流」から採られたということだから、ニュアンスとしては気ままな放浪というのとはすこしちがうようだ。おそらくは能動的に何かを見つけ、動き、展いていくためのひとつの方法、活動、もしくは実験というような意図があるのだろう。だから自由といってもただ束縛がないという状態のことではない。『dérive』には、なにかが生まれる前のような柔軟なエネルギーがたっぷりとふくまれている。そう、このジャケットの写真のように。

 ボルチモアで活動する女性ギタリスト/シンガーソングライター、マリアン・マクラフリン。クラシック・ギターを修め、現在はミュージシャンや詩人や画家などさまざまなアーティストたち集うコミュニティ・スペースで暮らし、音楽活動を行っている。アーティスト同士の共同生活を行ったり「漂流」の概念を引いていたりするからといって、ことさら政治性や運動性を帯びていたりするわけではない。ニック・ドレイクと比較されたりもしているが、どこかブリティッシュ・トラッドな雰囲気の旋律とアレンジには森と霧の匂いがあるし、それに誘い込まれるようにして幻想的な景が広がりさえもする。ときおり感じられるバロック風も、フリーフォークを通過した感性のなかで、一種独特のサイケデリアを築いている。よく聴けばテクニカルなのだろうけれど、なにか太い感覚やイメージの帯のようなものがあり、それにひきずられてぐいぐいと聴いてしまうというところが素晴らしい。
 “ホース”などバンドがバックをささえる曲でも、あくまでマクラフリンの単独の世界はくずれずに、録音のライヴ感とは裏腹に、まるで宅録のごとき趣がある。そしてそのすべてが彼女のギターによって先導される。彼女のアートの芯のようなものに火を点す楽器として、ギターはまるで生き物かなにかのようにふるまう。ギターはマクラフリンにとって、イメージをぶつけ、それを描きこむためのキャンバスのようなものだというが、ただ黙っているキャンバスではない。彼女にたいしてもきっとギターからの応答があるのだろう。そんなふうに、どこかしらにひっそりと生けるものの息吹がまつわりつくようなところも、フリーフォークと呼ばれたアーティストたちの幾人かを思い出させる。マクラフリン自身も特定のものからインスパイアされるわけではないとしながら、ジョアンナ・ニューサムやラーキン・グリムの名を挙げている。もちろん、そこには同時にニック・ドレイクやペンタングルの名も並ぶ。組み立てるのではなく弾き、歌い、イメージに流されることなくそれを操る技量を持つ──シンガーソングライターとして、ギタリストとして、そのどちらの強さも持ち合わせた本当に自由なアーティストだ。

橋元優歩