Home > Reviews > Album Reviews > Veronique Vincent & Aksak Maboul- Ex-Futur Album
夏頃だろうか。突然、アクサク・マブールの新作が出る! なんて噂を耳にしてそわそわしてしまったのだけど、それがヴェロニク・ヴィンセント(元ハネムーン・キラーズの紅一点ヴォーカル)&アクサク・マブール名義のものと知り、「……ていうか、これってアクサク・マブールというよりもハネムーン・キラーズでしょう?」と考えこんでみたのもつかの間、名義の後ろにしっかり「with ザ・ハネムーン・キラーズ」と書かれていて納得。そもそも、アクサク・マブールの頭脳であり〈クラムド・ディスク〉首謀者でもあるマーク・ホランダーは、同時にハネムーン・キラーズのメンバーでもあるんだから、そんなことはどうでもいいのだ。そして、内容のほうはというと、新録ではなく1980〜83年に録音されていたもので、本来ならアクサク・マブールの3枚めとしてリリースされる予定だったはずが、何がどうしたのやら完成を待たずにお蔵入りになってしまったブツで、30年越しに陽の目をみるというんだからもう……おもしろくないなんて言わないよぜったい!
出身はベルギーなのに、母がポーランド人、父がドイツ人。生まれがスイスで幼少期をイスラエルで過ごす、というホランダーの特殊な生い立ちが影響しているとしか思えないキッチュでストレンジでプログレッシヴなコスモポリタン・ポップが炸裂するファースト『偏頭痛のための11のダンス療法』(1977)。フレッド・フリス、クリス・カトラー、カトリーヌ・ジョニオーらレコメン系の精鋭たちとの必然的出会いが産み落としたチェンバー・ロックの最高峰であるセカンド『無頼の徒』(1980)──NWWリストにも掲載されていて、いまや泣く子も黙るアヴァンギャルド古典2枚を残して消滅したアクサク・マブールのその後を知るにはうれしすぎる作品が世に出たわけだが、これがじつに肩ひじ張らないゆかいつ〜かいエレポップな仕上がりでびっくり!
トレードマークともいえる、ぽんつくぽんつく拍子を刻むリズム・ボックスを土台に、光輝くエキゾチックなシンセ/キーボードのフレーズが次から次へと飛び出し、まるでテクノ歌謡のごときノスタルジアにかられるかと思いきや、東西ヨーロッパを横断するオリエンタル急行のようにパンクでロマンチックな疾走感をもったナンバーがピコピコ駆け抜ける。しかも、ホランダーによるヘンテコなアレンジが随所に仕掛けられているので、ドタバタ蛇行しながら全力疾走を強いられたりして異様にスリリングなのだ。ホランダーと同じくアクサク・マブールの創設メンバーであり、ハネムーン・キラーズにも在籍していたヴィンセント・ケニスやファミリー・フォッダーのアリグ・フォッダーらが参加しているのもうれしいけど、やっぱり結局のところ、そこにホランダーの妻でありモデルでもあるヴェロニク嬢のフレンチロリータ風イエイエ・コケティッシュ・ヴォーカルがのるんだからたまらない。エレガントなくせに舌ったらずで憎いぜこのヤロー! 聞き惚れるぜこんチキショー!!
楽曲のどれもがダンサブルでキヤッチーなフックをあわせもち、さらにヴェロニク・ヴィンセントの存在感ありまくりのヴォーカルがフィーチャーされているがゆえに、ハネムーン・キラーズ寄りの作風に思われるこの作品。しかし、チャルメラ風のシンセリフ、トロピカルなギター、奇妙なダブ処理のほか、アコーディオン、クラリネット、シロフォン、サックスなどの音も聞こえてきたりして、一曲のなかにさまざまなアイデアを放りこんで巧みに楽しむワケのわからなさはアクサク・マブールの実験室内楽そのもの。ボーナス・トラックに収録された、一段上のレベルをいく異様にエネルギッシュなライヴ演奏を聴いてほしい。いまの耳で聴いても辺境最先端をいく、緻密にして野蛮でエスプリの効いたあざやかなグルーヴが魔法のように紡がれて──そこにはるか昔という感慨はない──まるで、ついさっきの出来事のようなけざやかさに度肝をぬかれてブチのめされるはずだ。
久保正樹