ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Meitei 海外で評判の新進電子音楽家、日本文化を語る (interviews)
  2. interview with Oneohtrix Point Never(Daniel Lopatin) OPNはいかにして生まれたのか (interviews)
  3. Wool & The Pants ──ウール&ザ・パンツのNTSラジオでのミックスショーが格好いいので共有させてください (news)
  4. Oliver Coates - Skins n Slime (review)
  5. Richard Spaven & Sandunes - Spaven x Sandunes (review)
  6. Planet Mu's 25th anniversary ──プラネット・ミュー、25周年おめでとうございます (news)
  7. Bill Callahan - Gold Record (review)
  8. Bruce Springsteen ──ブルース・スプリングスティーンが急遽新作をリリース、発売日は大統領選直前 (news)
  9. さよひめぼう ──ネットを拠点に活動、ヴェイパーウェイヴ系のレーベルからも作品を発表しているトラックメイカーが新作をリリース (news)
  10. R.I.P. 加部正義 (news)
  11. Autechre - Sign (review)
  12. BIM - Boston Bag (review)
  13. Young Girl - The Night Mayor / V.A. - A Little Night Music:Aural Apparitions from the Geographic North (review)
  14. interview with Wool & The Pants 東京の底から (interviews)
  15. 11月7日、川崎の工業地帯での野外パーティ、Bonna Potあり (news)
  16. interview with Trickfinger (John Frusciante) ジョン・フルシアンテ、テクノを語りまくる (interviews)
  17. interview with Saito テクノ夫婦 (interviews)
  18. New Order ──ニュー・オーダー来日公演は2022年の1月に決定 (news)
  19. Wool & The Pants - Wool In The Pool (review)
  20. ralph ──気鋭の若手ラッパーがファーストEPをリリース、プロデュースは Double Clapperz (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Neel- Phobos

Neel

AmbientElectronic

Neel

Phobos

Spectrum Spools

Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Dec 05,2014 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ヴォイシズ・フロム・ザ・レイクとして、イタリア人のDJ/プロデューサーのドナート・ドジーとユニットを組んでいたニール=ジュゼッペ・ティリエッティのファースト・アルバムが、〈エディションズ・メゴ〉傘下の〈スペクトラム・スプゥールズ〉よりリリースされた。〈スペクトラム・スプゥールズ〉はジョン・エリオットにより運営される新時代のシンセ・ミュージック・レーベルで、2013年にはドナート・ドジー『プレイズ・ビー・マスク』も同レーベルからリリースされている。

 ニールは〈プロローグ〉のマスタリング・エンジニアを務めていた人物で、ローマやロッテルダムなどの音楽学校で音楽理論を学んだ逸材である。彼はドナート・ドジーの『K』(2010)でマスタリングを担当していたが、ヴォイシズ・フロム・ザ・レイクにおいてはドナート・ドジーとユニットを組むまでに共同作業を発展。2011年にEP「サイレント・ドロップス E.P.」を発表し、2012年にはアルバム『ヴォイシズ・フロム・ザ・レイク』をリリースするに至る。このアルバム、深海に沈むようなアトモスフィア・サウンドとミニマルなビートの交錯が素晴らしく、リリースから2年を経由した現在でも、その鮮烈さは全く失われていない傑作である。各メディアでの評価も高く、Resident Advisor(RA)では5点満点を獲得しており、いわば『K』と共に、近年のミニマル・ダブにおける最重要アルバムだ。

 そして2014年、待望ともいえるニールのファースト・アルバムがついにリリースされた。本作は、2013年から2014年にローマなどで録音され、マスタリングもローマのエニスラボ・スタジオでジュゼッペ・ティリエッティ自身が行ったという。収録曲は全7曲。トラック分けがなされてはいるが、どの曲もシームレスに繋がっており、いわばアルバム全体で1曲というミックス・アルバムのような構成でもある。
 サウンドは、ミニマル・ダブからビートを抜き去り、アトモスフィアな音響処理を前面化したアンビエント・ミュージック/電子音楽といった趣(より正確にはビートは溶かされ、融解しているというべきかもしれない。とくにラスト・トラック“The Secret Revealed”においては、ビートらしき音の痕跡が鼓動のように音像化している)。
 『フォボス』は、『ヴォイシズ・フロム・ザ・レイク』と比べると快楽指数はやや抑えめで、無調/マシニック、かつ多層的な音響が横溢しており、いわば(インダストリアル・テクノならぬ)インダストリアル・アンビエントとでも形容したくなる雰囲気を醸し出している。アンディ・ストット新譜の横に置いてもいいだろうし、またローリー・ポーターなどと合わせて聴いてみるのもいいかもしれない。火星の衛星である「フォボス」を題材にしているという宇宙的なイメージの援用も、ローリー・ポーターのアルバムと共通しているように思えた。
 事実、レーベルから「ナース・ウィズ・ウーンド 『スペース・ミュージック』とピート・ナムルック&テツ・イノウエによるシェード・オブ・オリオンの間に生まれた空間を埋める存在」というコメントがアナウンスされている。これも宇宙的イメージのアンビエント/ノイズ作品の傑作的系譜に繋がる作品として本作を位置付けているという自信の表れだろうか。個人的にはそこにクラスターの歴史的傑作『クラスターⅡ』を置いてもいいのではないかと思うが、つまるところ本作は、それらのまわりを周回する「フォボス」(=衛星)なのだろう。

 もちろん、そのサウンドが魅力的なのことが何より重要だ。チリチリとした細やかな音の蠢きからカタカタとなる物質的な音(フィールドレコーディングされた環境音、生成された電子ノイズ)までが、まるで大気のように生成し、そこに柔らかくシルキーな持続音がレイヤーされていく。その精密かつ精妙で、しかし曖昧でアトモスフィアな音響の素晴らしさときたら…! その音にはマシニックな虚無感もあり、同時に不思議な物悲しさがある。そう、「日本的な無常さ」とでもいうような何か……(それにしてもイタリア人がなぜこのような感性をわれわれに感じさせるのか?)。
 音響、感覚、空間、感情の生成。本作こそ、歴史性からサウンドの現在性までも内包した2014年におけるアンビエント/電子音楽作品の傑作である。新しいアンビエント/電子音楽をお探しの方に自信を持ってお勧めできる、そんな最高の逸品だ。

デンシノオト