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三田格   Dec 18,2014 UP

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 権力者というのは、政治的な文脈よりも、僕は感情を自由に表現している人ではないかと思ってしまう。独裁者というのは実際の能力よりも怒ったり笑ったりが激しく描かれるものだし、上司がいると自分の感情を押し殺しているのが部下というものだし。そのような上下関係がはっきりしていない場合でも、なぜか感情をストレートに出す人と出さない人はいる。どこでどうしてそれは分かれるのだろうか。人前で自由に感情を表現している人はひとりのときも上がったり下がったりは激しいのだろうか。大体、自分が他人といるときはどのように感じられているかも本当のところはよくわからない。ひとりでいるときもわかっていないことが多い。若いときは感情に振り回されることが多かったので、いつの間にか、できるだけ変化がない方がいいと思うようになってしまった。実際、感情のアップサイド・ダウンはかなり疲れる。つまり、日常的には音楽にあまり影響はされたくないと考えることが多い。たいていの場合、周囲の騒音を消してくれる+αぐらいのBGMを取り替えながら聴くことがほとんどである。喜怒哀楽がはっきりせず、感情の揺れのない音楽となると、モノトーンで少し憂鬱気なものが僕はいい。落ち着いてるときの自分が好きだからでしょう。なんというか、面白味のない人間だよなー。

 90年代後半はそういったレイジーな音楽が当たり年とも言えるほど多かった。エール、アラブ・ストラップ、DJシャドウ、モータベース、ミッシー・エリオット、クルーダー&ドーフマイスター、デミアン・オニール……歌詞がなければフィッシュマンズもそうで、同じく音だけを聴けばエイフェックス・ツイン「ウィンドウリッカー」やTLC「ウォーターフォール」もそうだった。当時はレイディオヘッドがあまりに悲愴感を強調し、どうにも大袈裟だったので、そういった音楽を聴くことで余計に落ち着いていられたともいえる。なかでもターウォーターはそれ以来、これっぱかも音楽性を変えず、しかも、順調にリリースが続いているという意味でも驚いてしまう。前作もまったく同じようなものだったし、「E王」ならぬ「落ち着き王」とかそんな感じ。何度聴いても盛り上がらない。ただひたすら無力感に甘えさせてくれる。「アドリフト」というのは、漂っているという意味だけど、どれだけ時代が変化しても、彼らはいつも定位置にいるという感じがしてしょうがない。

 お花畑のような音楽だけがエスケーピズムというわけではない。フィンランドの孤島に住むAGFとグルジアのTBAが組んだファースト・コラボレイション『アイ・アム・ライフ』もただ単にじとーっとしているだけで、マインド・フルネスとかそういうことから遠ざからせてくれる(近づいているのかもしれないけれど)。瞑想というのが、僕はどうにも嫌いで、それこそ大脳やとくに前頭葉を発達させたのが人類の特異な点だというならば、知能や感情、あるいは他の生物ではあまり認められていない自意識といったものが人類の人類たる由縁ということになるはずだし、感情や自意識といったものがこんがらがってどうしようもない状態から逃れて動物のように平静な気分でいるということは、せっかく手に入れた前頭葉を放棄するようなものではないかと。それではコンピュータが使えないジジババとどこが違うんだろうかと。平常心などというものを手に入れたとしても生産性が上がるだけだろうし、鬱々としている方が僕は大脳を発達させた意味があると思うんですよねー(少なくとも「使ってる」んだから)。

 あるいは、ここで取り上げたドイツ勢はアメリカのニュー・エイジ志向とは好対照に「物質」と観念が結びついていることも興味深い。人種という概念から自由になりたいというアメリカの反物質主義的な感覚もわからないではないけれど、生命について自然科学的なアプローチを用意したところで抽象的レベルでは大して変わらない表現に辿り着くというか、自然科学というのは日常というものがどうやって成り立っているかを明らかにしようとする過程で、オカルティックな要素に出会わざるを得ないというようなものなので、はじめから素通りしてしまうのは「考える楽しみ」を放棄しているようなものだし。ドイツの神秘主義というのも、それはそれで筋金入りだし、それこそAGFやTBAにもそれはどことなく浸透しているのだろう。この宇宙が光だけでできていれば質量(重さ)というものは存在しなかったけれど、「アシンメントリー=対称性の欠如」がそれを生み出し、そうしたインフレーション(=宇宙が膨張すること)の先に命だったり、人間というものも位置づけられるというのが彼女たちのコンセプトのようである。これをすべてサンプリング音源だけで作り上げたのが『アイ・アム・ライフ』。広がった宇宙を回収する作業というか。

三田格