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Panda Bear

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木津 毅野田 努   Jan 28,2015 UP
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野田努

 ホント、たんなる偶然だが、年末帰省したときに入った中古レコード店で見つけて、年明け最初に聴いたレコードがブライアン・ウィルソンの『スマイル』だった。あらためて「あー、つくづくこれってアニコレ……、いやいや、アニコレとはつくづくブライアン・ウィルソンなのだな」と思った。その少し前に初期の大滝詠一を聴いていたことが無意識のうちに自分をその衝動買いへと導いたのだろう。
 そう思えば、ブライアン・ウィルソンを起点に1970年代大瀧詠一とアニマル・コレクティヴは線でつなげることができる。いやいや、できない、いや、でき……まあ、どっちでもいいのだが、いろんな国のいろんな場所にいろんなリスナーいて、いろんな音楽を楽しんでいる現代を生きるアニコレには、良くも悪くも、何が何でもポップ・ソングを作らなきゃならないというプレッシャーも、オブセッションもない。歌を聴かせるというより、彼らは音響を聴かせようとしている。お気楽なものである。

 そして実際のところ、まったく、想像以上に、ずば抜けてお気楽だった。ぜひCDショップで現物を手にとって見て下さい、このアートワーク。黒や灰色やシックな色彩が主流の今日において、かつてのスペクトラムないしはボアダムスを彷彿させるような、目がくらむほどカラフルで発色の良いサイケデリック、時代のなかで浮いている妖しげな別世界への切符──それは見事に『パンダ・ベア・ミーツ・ザ・グリム・リーバー』を象徴している。ようこそ虹色の世界へ。
 もっともこの色彩豊かなオプティミズムは、今日のトレンドと言えない。そもそも彼らは、時代を読むどころか、もう、自分たちの好きなことを徹底的に追求している感じだ。
 また、ソニック・ブームとパンダ・ベアのミキシングのセンス、方向性、コンセプトは、キング・タビー的と言えない(橋元優歩のインタヴュー記事を参照)。タビーは骨組みだけ残すという意味で「レントゲン音楽」と呼ばれたほどの引き算音楽の創出者だ。あらたに音を加え、音に遊んでいる感覚は、むしろリー・ペリー的だ。ことパンダ・ベアは、ポップスとしての体をなすかなさないかのきわどいところにまでリヴァーブをかけるし、ドラッギー・サウンドでありながら歌のパートが多すぎる。

 ……などと書いているとケチをつけているようだが、違う。誤解しないで欲しい。『パンダ・ベア・ミーツ・ザ・グリム・リーバー』は予期せぬ、喜ばしい不意打ちのようなアルバムなのだ。パンダ・ベアとソニック・ブームの浮世離れしたサイケデリック・サウンドは、そんなものには興味はなくしつつある五十肩に悩む中年男もその気にさせるほどの、鮮やかな色味を帯びている。このアートワークのように。灰色の音楽ばかりを聴いていたベッドルームを明るく照らす。子供の笑い声のように、あまりにも明るすぎる。

 ソニック・ブームとの共同作業もよりスムーズになったのだろう。音響的な快楽において、『パンダ・ベア・ミーツ・ザ・グリム・リーバー』は前作以上にパワフルで、スリリングな作品になっている。2曲目の“ミスター・ノア”はハードにトリップするる“サージェント・ペパー~”だし、メロディアスな“クロスワーズ”や“セルフィッシュ・ジーン”、電子仕掛けのシド・バレットと言いたくなる“ボーイズ・ラテン”などなど、チャーミングで、強力な楽曲が並んでいる。悪戯めいた細かい効果音、ソニック・ブームのエンジニアリングも、大胆かつキャッチーでバランスが良い。
 最高の瞬間は、8曲目の“トロピック・オブ・キャンサー”だ。押し黙ってしまうほど美しい、彼にしか歌えないこのバラードを聴くためだけにアルバムを手にする価値はある。とくに初期の、ギターを弾いていた頃の彼が好きなオールドファンにはたまらない曲だが、もう1曲、注目すべきユニークな曲がある。クラシカルなピアノ・ループと電子ノイズが巧妙に交錯する10曲目の“ロンリー・ワンダラー”だ。10年前の陶酔的なチルアウト“ザ・ソフティスト・ヴォイス”が確実にアップデートされている。

 グルーヴィーなベースラインに導かれる“カム・トゥ・ユア・センシス”を聴けば、彼が2007年の『パーソン・ピッチ』のインナーに、ムーディーマンやロバート・フッドといったブラック・ハウス/テクノのプロデューサーの名前を記していたことを思い出す。クラブ・ミュージックからの影響は、“プリンシプル・リアル”のような曲にも表れている。
 アフリカ系のディアスポラは、よく辞書を欺く。与えられた言葉の意味を反転させる。マイケル・ジャクソンの「I'm bad」は「俺は不良」ではない。「俺はいけてる」と訳す。Pファンクの「give up the funk」は「ファンクを諦めろ」ではない。「ファンクは終わらない」というニュアンス。『パンダ・ベア・ミーツ・ザ・グリム・リーバー』は、どこをどう聴いても「死神」ではない。「こんにちわ。天使」だ。悪魔的なまでにアシッディではあるけれど、しかしやはりどうしようもなく、童話的だ。

野田努

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