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Vinnie Who

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橋元優歩   Apr 17,2015 UP
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 エール・フランスがエール・フランスのCM曲をやってるらしいぞとききつけて「まさか」と思ったが、はたして真実は真実らしいかたちをしていた。

 スタイリッシュでガーリー、透明感にあふれるこの話題のCMで使用されているのはグラス・キャンディ。まあ、そうですよね。しかし勘違いがもつれてそれがエール・フランスだという誤情報に置き換わったことにはどこか得心がいって、また、それがコンピュータ・マジックではなくてグラス・キャンディだというところには、出資側の感性がアンダーグラウンドに寛容であることを垣間見る思いがする。スウェディッシュ・“バレアリック”・ポップと喧伝され、涼やかなシンセジスに甘くけだるい北欧ポップ節をくるみながら、こっそりと世間に中指をたてていたデュオ、エール・フランス。同郷のザ・タフ・アライアンスやエンバシーなどを挙げるまでもなく、2010年をまたぐ前後数年のインディ・シーンにおいて北欧のエレクトロ・ポップはひとかどの存在感を示していた。折しも、エイティーズ・リヴァイヴァルや、チルウェイヴに象徴されるサイケデリックとチルアウトの大きな機運が交差するタイミングでもあった。
 いまその頃の音を聴くとインな感じよりもむしろ懐かしさを覚えてしまうが、ヴィニー・フーのポップ・ソングにもその懐かしさを、そしてまた、おそらくは時代が経っても変わることのない、インディ・ポップというものが常温的に持っている輝きを感じずにはいられない。それは、彼自身が愛している音楽がそうであるように、だ。

 デンマークのシンガー・ソングライター、 ヴィニー・フーことニールス・バゲ・ハンセン(Niels Bagge Hansen)。本作は2010年のデビュー・アルバムから数えて3枚め、〈EMI〉からの2作に次ぎ、ザ・レイト・グレイト・フィツカラルドスなどデンマークのシーンをリードする〈フェイク・ダイアモンド・レコーズ〉から初のインディ・リリースとなる。女性かとまごうほどのアンドロジニーなヴォーカル(メモリー・テープスを思い出す)がまず印象的だが、丁寧なソングライティングには筋の通った音楽好きの表情がありありとうかがわれる。深めのリヴァーブには、ヴィンテージなフォーク・ロックの響きやソフト・サイケの系譜、あるいはセブンティーズの都会的なシンガー・ソングライターたちの仕事がにじむ。冒頭の“マッチ・マッチ・モア”や“セヴン”などがその嚆矢で、“イマジネーション”のタイトなスネアや小作りなストリングスのアレンジも瀟洒で奥ゆかしい。“ファンタイム”“オンリー・ドリーミング”他は〈クレプスキュール〉などエイティーズのインディ・ギターポップ・マナーに及び、イェンス・レクマンの諸作にも比較したくなるだろう。
 ジャケットのアートワークを並べてみればわかるけれど、声におとらず中性的なその容姿を耽美なアート・センスで過剰に押し出す前2作やシングル(メジャーらしいコレクトネスにのっとっている)にくらべて、本作のそれはよりパーソナルで等身の本人像を写しだすかのように感じられる。楽曲のスタイルやプロダクションについてもそうで、ヒット・ナンバーである“39”や“レメディ”などを筆頭としたエレクトロ・ポップはすっと影をひそめ、『ハーモニー』はその中からソウルやオールドなロック・マナーだけを抽出してきたかのようなたたずまいである。
 どちらがいいという話ではなく、彼にはそのいずれにおいてもブレることのない芯──彼が体現する音が彼の愛する音であるという──があるのだから、われわれは今作のよりロウな感触と表出を楽しむだけだ。飛行機の宣伝になるようなキャッチーなシンセ・ポップでこそないが、後期2000年代インディとして理想的な年の積み重ねがあり、北欧ポップ・シーンが湧出のやまない泉であることをあらためて感じさせる良盤ではないだろうか。

橋元優歩