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Aero Flynn

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木津毅   May 13,2015 UP
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 アメリカ中西部はいったいどんなところなのだろう。ということが気になりすぎて、夏にウィスコンシン州に行くことになってしまった。というのは半分嘘で、たんにボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンが地元で主宰する音楽フェスティヴァルに行くことにしたのだけど、洗練されていないアメリカだといまだに揶揄されるそこを自分の目で見たいのは本音だ。実際フェスティヴァルもボン・イヴェール、ザ・ナショナル、そしてスフィアン・スティーヴンスと中西部が生んだインディ・ロック・スターをラインアップの中核に据えているようなところがあり、その風土が生み出した音楽的な多様さを見せんとする意思が感じられる。ウィスコンシン州に留学してそのまま住みついてしまった友人は「ほんとに何にもない、典型的なアメリカの田舎だよ」と言っていたけれど、スフィアンの新作を聴くほどに、だからこそアメリカのありのままの姿がそこにはあるのではないかと想像している。

 そのフェスティヴァルにも出演する予定のエアロ・フリンことジョシュ・スコットは、ヴァーノンがボン・イヴェール以前にウィスコンシン州オークレアの音楽シーンで売れない時代を共にした仲間のひとりである。ヴァーノンがかつて率いたバンド、デヤーモンド・エディソンがスコット率いたアマチュア・ラヴに猛烈に嫉妬したということはヴァーノンが折に触れて語ってきたことだ。「彼のバンドは僕らのバンドよりも遥かに良いものだった」……それが、やがてボン・イヴェールの世界的な成功とは対照的に沈黙していったのは、何よりもスコットの気難しさと鬱によるものだったとはいえ、皮肉なものである。本作には元デヤーモンド・エディソンのクリストファー・M・ポーターフィールードによる回顧エッセイが添えられているのだが、いきなりヴァーノンが「僕の腕のなかで泣く」場面から始まって僕などはドキドキしてしまった。何と言うか、本当に青春の1コマとして――アメリカの田舎に住むごく普通の青年たちの――そこに音楽があったのだ。
 それが2002年だと記してある。このアルバムは、ヴァーノンがプロデュースや、恐らくは様々な人脈に口利きをしたことによって何とか世に出されたもので、聴くと「その時代」をどうしても想い起させるものがある。つまりはポスト・ロック、エレクトロニカ、それに……エモ。「音響派」なんて言葉でふわっと何でもカテゴライズされた時期を思い出して、その頃をリアルタイムで経験した自分などはむず痒い気持ちもあるのだけれど、たしかにゼロ年代初頭の回顧がいまインになっている感覚はある。トータスをバリバリに意識していた頃のレディオヘッドを彷彿とさせる、複雑に凝っていて、繊細で、それでいてどこまでもエモーショナルなロック音楽がここにはある。エレクトロニクスを前面に置いたクラウトロック調の“Dk/Pi”、生音のバンド・サウンドではあるもののテクノ的反復がグルーヴィな“Crisp”、それに管弦楽を配したチェンバー・フォーク調のナンバーなど案外サウンドは多様だ。ただ、スコットのキャラクターを知ったせいもあるのだろうけど、彼の物憂げな歌が乗ることでそこにフラジャイルな美が貫かれることがエアロ・フリンの凄みだろう。どこか聴き手を緊張させるテンションがつねにあり、アンビエント調の“Brand New”の透徹とした響きには嘆息するしかない。
 『エアロ・フリン』はしかし、繊細で気難しい天才がひとりで生み出したものではない。彼の周りの、彼の音楽的才能を信じる人間たちが世間の耳に入ることを願ったことによって完成したものだ。そこには何か、この10年の中西部のインディ・ロック・シーンのプライドが宿っているように思われる。

 先述したポーターフィールドのエッセイは、かつて彼らが「ブラウン管の前に集まって、ウィルコの映画を観た」ことを思い出して終わっている。「ジェフ・トゥウィーディが、ロックンロールによっていかに打ちのめされ、そして救われたかを歌うとき、僕らはそれを信じていた。」それも2000年初頭だから、いよいよウィルコが音響的な実験とアメリカーナ的叙情の融合を高めていった頃だろう。彼らは……アメリカの田舎に住む音楽好きの青年たちは、そのことにどれだけ勇気づけられたことだろうか。その子どもたちがいま、それぞれのやり方で音楽を続けている。『エアロ・フリン』はその物語の最新話だ。

木津毅