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Celer & Hakobune

AmbientElectronic

Celer & Hakobune

Vain Shapes and Intricate Parapets

PURRE GOOHN


Tower HMV Amazon

デンシノオト   Jun 15,2015 UP
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 音を流しはじめた瞬間に時間の流れが変わる。そんなアンビエント/ドローンがごく稀にある。まるで空気を変えてしまうような音響。そのような音を聴くと、体調も変わってくる気がする。体に効くアンビエント・ミュージック。

 この『ヴェイン・シェイプス・アンド・イントリケイト・パラペッツ (Vain Shapes and Intricate Parapets)』は、まさにそんなアンビエント/ドローンである。アルバムには長尺のトラックが2曲収録されており、ふと耳をかたむけるだけで、わずらわしい世界のあれこれを忘れさせくれるほど。聴き込むほどに耳と体に効く。そんな印象だ。
 このアルバムは、いうまでもなくセラーとハコブネという世界的なアンビエント・アーティストによる共作である。ふたりともカセットからレコード、CDまで、いくつものメディアを横断・駆使し、膨大な数のアルバムや音源を世に送り出している。どの作品も高品質で、世界のアンビエント・マニアの耳を捉えてはなさない。まさにアンビエントの「匠」ともいえるアーティストだ。
 セラーは日本在住のアメリカ人、ウィル・ロングのユニットである。2000年代中盤より活動を初めており、現在はソロ・ユニットとして活動している。ソロ作品のみならず、コラボレーション作品も多数をリリースしており、小野寺唯との『ジェネリック・シティ』がよく知られている。また、ソロの近作では2014年に〈スペック〉からリリースされた『ジグザグ(Zigzag)』を強くおすすめしたい(バンドキャンプで氏のさまざまなアルバムの試聴・購入が可能となっている。http://celer.bandcamp.com/music)。
 ハコブネこと依藤貴大も数多くのリリースを行っているが、そのどれもが大変に質が高く、アンビエント・マニアから絶大な信頼を得ており、そのリリース作品がリリースされるとマニアの争奪戦(?)が起きるほどだ(氏のバンドキャンプでも作品を試聴・購入ができる。https://hakobune.bandcamp.com/)。2014年に〈ホワイト・パディ・マウンテン〉(〈White Paddy Mountain〉)からリリースされた畠山地平とのコラボレーション・アルバム『イット・イズ、イット・イズント』も名盤であった。また6月末に、福岡のカセットレーベル〈ダエン〉よりダエンとのスプリット作品『スプリット』がリリースされるという。こちらも要注目だ。

 さて、本アルバムは、もともとは英国の〈ケミカル・テープス〉(〈Chemical Tapes〉)から2013年に限定リリースされたカセット作品である。アンビエント界の「匠」ハコブネとセラーのコラボレーション作という「音の旨み」に満ちた作品をマニアたちが見逃すはずがなく、あっという間に完売になったという。
 そして今回、その「幻」の名作を復活させたのが日本の〈ピュール・グーン〉(〈PURRE GOOHN〉)だ。〈ピュール・グーン〉はAORやハチスノイトなど、傑作のリリースを立て続けに行っているレーベルである。現在リリース数は本作をいれて4作品ほどで、そのどれもが圧倒的にすばらしい。まさに現在注目のレーベルなのだ。本作は、その〈ピュール・グーン〉が世に送り出す初のアンビエント/ドローン作品である。当然、悪いはずがない。今回のリリースにあたってリマスタリングがなされている。

 じっさい、この作品を聴きはじめたリスナーは、1曲め“マージズ・オブ・ヒステリカル・エクスヒラレーション(Merges of Hysterical Exhilaration)”の冒頭から静かに音響世界に引き込まれていくはずだ。どこか芯のある持続音。それが凍結された記憶の中に眠るイメージを刺激し、そして解凍するように静かに鳴る。かすかに揺れ動く音響が、耳に触れるように震える。ときに静寂になり、いくつもの音響が、ひとつの波のように生成と変化を繰り返す。19分28秒に及ぶ音響の持続は、ノスタルジックな記憶を再生し、同時に、世界を反転させて、時の流れを変えてしまうアンビエンスを形成している。それはどこか日本の雅楽を思わせる響きだ。
 続く2曲め“コンプリート・ポゼッション・オブ・フル・タメリティ(Complete Possession of Full Temerity)”は、“マージズ・オブ・ヒステリカル~”よりもやわらかな持続音で幕を開ける。前曲の芯のある音にくらべ、まるでサウンドのカーテンに触れているような感触。そのシルキーな持続音に、高音域の持続がレイヤーされていくさまは、まるでロマン派のアダージョのような美しさ! 1曲め“マージズ・オブ・ヒステリカル~”が時間の凍結ならば、この曲は時間が溶け出すような感覚か。
 2曲とも「硬質」と「柔らかさ」という正反対の質感でありながら、時間の流れを変えてしまうという点においては共通している。ふたりの個性はときに拮抗し、ときに溶け合う。まどろみのように。時間の融解のように。さすがとしか言いようがない。

 セラーもハコブネはすでに膨大なリリースをおこなっており、これからも多くのアンビエント/ドローンの傑作を生み出していくだろう。だが、この「時間の結晶」のような全2曲39分のアルバムは、彼らのディスコグラフィのなかでも、美しい記憶のように、大切な記憶のように、やさしく、やわらかく、そして強く輝きつづけるはずだ。その幽玄で繊細な音のつらなりは、まさに環境音楽の結晶である。未聴のアンビエント・マニアならば絶対必聴、もちろん、アンビエント・マニアならずともぜひとも聴いていただきたい作品。豊穣な音響的時間がここにある。

デンシノオト