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久保正樹   Jun 17,2015 UP
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 NAGとMTRというイカしたネーミングのふたりによる日本屈指のインダストリアル・ミュージック・デュオCARRE(ケアル)が、画家である近藤さくらに「絵を描くとき用にミックスを作ってほしい」と依頼されたことからはじまったという〈GREY SCALE〉なる試み。結果、ミックスではなくケアルの新曲が用意されることになったこの試み──いや、「試み」と呼ぶには両作家の表現にはあまりにも秘めたる共通点が多く、近藤のモノクロームの平面作品からゆるやかに見えてくる/聞こえてくる光沢のある陰り、冷たく熱狂する軋みは、まさにケアルの音楽そのものである。
なので、ここに摩擦と衝突のくり返しを期待するのは野暮な話であって、あるのは音の肌ざわり、そして、線と形の膚ざわりにこだわり抜いたケアルと近藤の意識の落ち合い。それが解体するのではなく伸び縮みしながらブレンドされ、目的を追い越してずるずるズレながら行ったり来たりする屈曲の連続にスリリングな醍醐味があるのだ。

 4月に恵比寿のKATAで開催されたエキシヴィジョン〈GREY SCALE〉展オープニング(なんと6時間にも及ぶライヴ+ペインティングを決行!)でのあれこれは倉本諒氏のライヴレヴューに詳しいので割愛させていただくが、いよいよケアル待望の新作であり、この展示の音楽をまとめた作品『GREY SCALE』がリリースされた。もちろんアートワークは近藤さくらによるものである。

 1曲め“Tin Reverb”から堂々たる金属的エレクトロニクスが打ち鳴らされ、ぬーっと目の前に灰色の光景が広がる。つづく“LFTM #1”ではうねるベースマシンの上を不穏なシンセが木霊しながらゆらり行き交い、まるでスロッビング・グリッスルの“20 ジャズ・ファンク・グレイツ”なんかを彷彿とさせる。そして3曲めの“Open”では、モジュラーシンセによるコズミックな音の粒が弾けてポコポコと転がり回り、その艶っぽいユーモアにこちらの耳も悦びの手をたたくではないか。

 ケアルと近藤さくらによる音と絵画の共同作業は、往復書簡という形でやりとりが行われ、3年もの時間を費やして完成されたというが、ここにある線の痕跡と騒音の記録にはその長き時間によって磨き抜かれた美しさと硬度がある。そして、そのインテンシティはアルバムの後半からますます顕著になる。リズムボックスとマシンの空っぽなビートによる立体的な折り重なりに膝をカックンとされる“Tepid Liquid”、カルトでカオティックな音響が妖しくプリミティヴな生命エネルギーを感じさせる密教音楽のごとき“Vertigo”、そして、本作のハイライトである“LFTM #2”では、低周波エレクトロニクスの快感に耳を揉みほぐされてとろとろになるところを、ピントを合わせるようにいぶし銀な旋律が立ち現れ、エッジーなミニマル運動が駆動する。ああ、機械になりたい……。

 ここには、まるで彼らが敬愛するドーム(ワイヤーのブルース・ギルバートとグレアム・ルイスによって創設されたポストパンク〜音響〜インダストリアル・デュオ)を偲ばせる辺境最先端の音楽を奏でつつも、古きよきインダストリアル・ミュージックの焼き直しに終わらない新しさがある。誤解を恐れずに言うと、音の質感こそ金属に付着した赤錆のようにざらついて不適でストレンジだけれど、組み立てられた音楽はまるで流麗なシティ・ポップを聴いているかのようにパーンと抜けがよいのだ。

 かつて、消費社会から産まれた都市の生理のいびつさを象徴した(とかなんとか書くとたちまち文章が大げさになりますよね)インダストリアル・ミュージック。日々アップデートを重ね(都合良く利用され?)、アンチテーゼであったはずの言葉そのものが大量消費されてしまい、いまやその実態を細かく把握することは至難の技である。でも、ケアルの音楽を耳にすると使い古された「インダストリアル」という言葉に、深くて重みのある灰色の光輝が甦るのを見とることができる。そして、どくどく胎動する即物的な機能美と筋の通った電気美学(彼らのステージ中央には、ルイジ・ルッソロのイントナルモーリよろしくメガフォン型の巨大スピーカーがそびえている!)──その粋な風情を漂わせるちゃきちゃきのインダストリアル気質に、退廃的ロマンティシズムの明るい未来を感じとることができるはずだ。

久保正樹