ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. K A R Y Y N - The Quanta Series (review)
  2. Columns JPEGMAFIA『Veteran』の衝撃とは何だったのか (columns)
  3. Myriam Bleau - Lumens & Profits (review)
  4. 柴田聡子 - がんばれ!メロディー (review)
  5. 中原昌也 ──作家デビュー20周年を記念し最新小説とトリビュート作品集が2冊同時リリース (news)
  6. Random Access N.Y. Vol.112:北欧SXSW――ノルウェイ、ミュージック・フェスティバル 第3回 ――By:Larm (columns)
  7. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  8. Reeko Squeeze - Child’s Play 2 (review)
  9. The Comet Is Coming ──UKジャズのキイパーソン、シャバカ・ハッチングスのザ・コメット・イズ・カミングが新作をリリース (news)
  10. Sharon Van Etten - Remind Me Tomorrow (review)
  11. talk with Takkyu Ishino × Stephen Morris 特別対談:石野卓球×スティーヴン・モリス(ニュー・オーダー) (interviews)
  12. ポスト・ミューザック考 第二回:俗流アンビエント (columns)
  13. 闘魂 2019 - 出演:cero、フィッシュマンズ (review)
  14. Bibio ──ビビオが新曲をリリース (news)
  15. ビール・ストリートの恋人たち - (review)
  16. Columns 追悼:KAGAMI (columns)
  17. DON LETTS Punky Reggae Party 2018!!! ──6月、パンクとレゲエを繋げたリジェンド=ドン・レッツが来日 (news)
  18. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第2回 マグカップは割れ、風呂場のタイルは今日も四角い (columns)
  19. Vince Staples - FM! / Earl Sweatshirt - Some Rap Songs (review)
  20. interview with IO KoolBoyの美学 (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Shamir- Ratchet

Shamir

HousePopR&B

Shamir

Ratchet

XL / ホステス

Tower HMV Amazon

木津毅   Jul 02,2015 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 2015年はレインボウ・カラーとシャミールのカラフルなポップスの年だったとのちに記憶されるだろう。いま、インターネット上にこれでもかと溢れる虹色に――ブーム化した「性の多様性」――僕などはアンビヴァレントな気分になりもするが、鼻にピアスを開けたこの1994年生まれの若者の(出自はムスリムだという)、かわいくデコレートされたディスコ・ミュージックはあっけらかんと現代のクィアネスを射抜いてくる。その若者、シャミールは自分のジェンダーを定義していないとインタヴューで言っているが、それはたぶん嘘のない発言だろう。フランク・オーシャンのカミングアウトの痛みはそこにはない。ジェンダーとセクシャリティにおいて、時代は本当に変わったのだ。

 しかもシャミールはヴィジュアルの打ち出し方がそれ以上ないほどに巧みだった。アーリー90sを思い起こさせるようなファッションやカラフルすぎてキッチュな色づかい、なによりもファンシーでフェミニンな本人の佇まい。昨年のシングル“オン・ザ・レギュラー”のヴィデオは、シャミールというアイコンのファッショナブルさとキャッチーさをパーフェクトにプレゼンしていた。FKAツィッグスに続いて〈XL〉がプッシュするニューカマーなわけである。

 音のほうもさまざまなトレンドが交錯する地点にいる。90sリヴァイヴァルとしてのハウスにディスコがまずあり、そこにここのところのR&Bブームが合流して……クィア・ラップからもそう遠くないだろう。リヴァイヴァルといっても古さが感じられないのは、カウベルを筆頭としたパーカッションの使い方にゼロ年代の〈DFA〉が取り組んだことの成果が反映されているからで、ということは遠景にアーサー・ラッセルのディスコも見えてくる。だが5分を超えるトラックはラストの“ヘッド・イン・ザ・クラウズ”のみ。前半5曲、なかでも“メイク・ア・シーン”、“オン・ザ・レギュラー”、“コール・イット・オフ”と3分以下のナンバーが続く目まぐるしい展開は、すぐに酔ってしまう高速のメリーゴーラウンドかのようだ。バンシーなビートと子どものイタズラみたいな声ネタ、腰をグラインドさせるベースライン、丸くて太いシンセ・リフと、それに乗っかるおきゃんなシャミールのヴォーカル。そのアンドロジナスなディスコ・サウンドからハーキュリーズ・アンド・ラヴ・アフェアとよく比べられるようだが、ハーキュリーズの暗さや妖しさはここにはない。唯一のスロウなバラッド“ダーカー”でも、陰よりも温かな安堵のフィーリングがある。

 この即効性の享楽をどう捉えるかでシャミールの評価は分かれるのだろう。ただ、これくらいの軽妙さが新時代のポップ・スターにはふさわしいのだろう。ブラック・ミュージックの美味しいところをつまみながら、いまのところ何かの主張を強く打ち出すことはしていない。が、少なくとも3分間は、シャミールのポップスは性の束縛からの自由を約束している。

木津毅