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Vilod

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デンシノオト   Jul 13,2015 UP

 トニー・アレン参加で話題をよんだモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオの新譜『サウンディング・ラインズ』から間髪をいれず、同グループのマックス・ローダバウアーと、同作にミックスで参加したリカルド・ヴィラロボスのユニット、ヴィロッド のアルバムがリリースされた。
 
 ヴィロッド名義としてはホアン・アトキンスやネナ・チェリーのリミックスを発表しているし、連名表記ではアルバム『Re:ECM』をリリースしているのだが、『Re:ECM』は事実上ECM音源を使ったミックスCDのような作品だったので、本作がオリジナル・トラックによるファースト・アルバムである。
 全編、ヴィラロボス特有のシンコペーションするビートが横溢し、ストレンジかつエレガントなローダバウアーのシンセが絶妙にアクセントを添える。いわば『サウンディング・ラインズ』以降のアフリカン・リズム・テクノの発展形だ……と冷静に書き連ねているが、このアルバム、かなりの傑作なのである。

 1曲め“モダン・ヒット・ミジェット”、その最初の数秒がはじまった瞬間に誰もがそう確信するはずだ。女性のポエトリー・リーディングに合わせて、ほんの一瞬、速いテンポでキックが刻まれ、次の刹那、何事もなかったかのように、ゆったりしたルーズなビートが鳴りはじめる。この見事さ!
 そして、この最初に刻まれた速いテンポのビートが、「鳴っていないリズム」として記憶の中でループしつづけるため、トラック全体のビート/リズムが意識の上では多層化する。さらにベースライン上で自在に刻まれるスネア、柔らかなハイハット、ローダバウアーのシンセなどがリズムを絶妙に「揺らして」いくのだ。これによりリズムやテンポがミニマルな反復性を維持しまま伸縮する。

 このリズムの「多層性」と「揺れ」こそが、本作全曲を貫く最大の魅惑であろう。一定のミニマルな拍子の中で、リズムが自在に「揺れる」こと。マイルス・ディヴィス『オン・ザ・コーナー』に匹敵するリズムの魔法が、このアルバムにはある(とは言い過ぎか?)。
 緊張と融和。反復とズレ。雑踏の多様な猥雑さ。ミニマル・ミュージックの清潔さ。リズムの伸縮と揺らぎ。聴き手の身体の緊張を解きほぐすマッサージのようなビート。まさしく2015年の最新型リズム/ビート・ミュージックであり、ミニマル・テクノ/ミニマル・ダブの領域を拡張する驚異的な作品だ。

デンシノオト