MOST READ

  1. Alan Vega - IT (review)
  2. interview with Subarashika この素晴らしか世界 (interviews)
  3. Okada Takuro ──岡田拓郎が思考を重ねに重ね、その果てに完成させたソロ作品とは? (news)
  4. Cigarettes After Sex - Cigarettes After Sex (review)
  5. 電気グルーヴ - TROPICAL LOVE (review)
  6. デイヴィッド・トゥープ(little fish訳) - フラッター・エコー 音の中に生きる (review)
  7. Loke Rahbek - City Of Women (review)
  8. Adam Rudolph's Moving Pictures - Glare Of The Tiger (review)
  9. Random Access N.Y. vol.93:ブルックリンのインディ・ロックは死なず Pill, Bambara, Weeping icon, Hubble @Alphaville 7/15/2017 (columns)
  10. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインが新曲“korg funk 5”を公開 (news)
  11. Washed Out - Mister Mellow (review)
  12. ドメニコ・ランセロッチ/Domenico Lancelotti - オルガンス山脈 (review)
  13. Arca - Arca (review)
  14. interview with Shingo Nishinari 大阪西成人情Rap (interviews)
  15. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  16. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  17. ele-king vol.20 ──夏だ! 踊るにはいい季節。紙エレ最新号はThe XXと「クラブ・ミュージック大カタログ」 (news)
  18. special talk : BES × senninshou特別対談:BES×仙人掌 (interviews)
  19. 打楽器逍遙 1 はじめにドラムありき (columns)
  20. Father John Misty - Pure Comedy (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > El Mahdy Jr.- Ghost Tapes

Album Reviews

El Mahdy Jr.

Cut upDubGrimeWorld

El Mahdy Jr.

Ghost Tapes

Discrepant

Amazon iTunes

野田努   Aug 19,2015 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王

 イスタンブールでスクリューされたラップとノイズが掻き回され、ベースがうねりを上げながら風景をゆがめる。政治的激動に晒された死せる街の強力なサウンドトラックとはこのことで、読者が初めてブリアルやシャックルトンを聴いたときのような凄まじいインパクトをお探しであるなら、ここにある。しかしエル・マーディ・ジュニア……アルジェリア生まれの、ガンツの盟友でもあるこやつは何者か。

 ロンドンのレーベルからリリースされた本作『ゴースト・テープス』は、USはポートランドの〈Boomarm Nation〉から発表された『いかれた場所の精神(The Spirit Of Fucked Up Places)』以来、2年ぶりのセカンド・アルバムとなる。その間マーディ・ジュニアは、オルター・エコーとガウルスのリミックスを収録した10インチ「ライ・ダブス」(ベーシック・チャンネルの“ネクスト”。日本のバンド、ゴートおよびそのファンは必聴)や12インチ「ガスバ・グライム」によって評判を呼んで、またガンツの12インチの共作者としても名を広めている。
 しかしながら、ガンツのくだんの「Spry Sinister」収録の“Rising”ような、アラビックな旋律があり、グライムめいたビートが打ち鳴らされるといったアレを想像してもらっても困る。リリース元の〈Discrepant〉とは「矛盾/食い違い/不具合」を意味する言葉だが、マーディ・ジュニアの音楽では、国境は溶解され、国籍は失われる。ターキッシュな要素(アラベスク、地元ラジオないしは地元ヒップホップ化したライ)がカットアプされてはいるものの、それらはサンプラーを通して異様なものへと姿を変えている。いったいこれは何なのか……トルコ、知られざる音楽の宝庫だ、などというワールドなオチとは別の、むしろトルコ文化がないがしろにしてきたサブカルチャーを引っぱり出すことが目的でもあると、実際そんなようなことを彼は語っている。
 結果、『ゴースト・テープス』はブリストルのヤング・エコーとほぼ同じ地平にいる。アナログ盤ではA面1曲、B面1曲という構成で、下手したら90年代末のゴッドスピード・ユー・ブラックエンペラー!をも彷彿させる。“デッド・フラッグ・ブルース”のダブ・ヴァージョン? いや、この音が渦巻く空間たるやダブとは言いたくなくなるような独自なものがある。

 「もしダブがアルジェリアや中近東で生まれていたら」というのが彼のもうひとつのコンセプトである。父親のレコード棚にはジャマイカのダブのコレクションがあったというが、彼のダブ解釈はリー・ペリーでもキング・タビーでもなければアラビックな旋律にエコー効かせるだけのものでもない。音が回転するかのようなダブ的感性の背後にはスーフィーの影響があるのでは、と中東好きの友人は言う。
 さらにもうひとつ、東西の境目でもあるイスタンブールのありのままの衝突を描くこと。そう、この音楽はいま起きている何かを懸命に伝えようとしているわけだが、冒頭に書いたように、まずはその圧倒的な迫力と斬新さという点において素晴らしい。つまり、この作品の国籍がどこであれ、『ゴースト・テープス』は1枚の突出したエレクトロニック・ミュージックなのだ。

野田努