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KGE & HIMUKI

Hip Hop

KGE & HIMUKI

LOVE AND BLUES

Fertile Village

Amazon

山田文大   Sep 01,2015 UP
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 今年2015年、キングギドラの1stアルバム『空からの力』の20周年記念盤が出て、合わせてアニバーサリー・ライヴが開催された。Zeebraはみずからのレーベル〈Grand Master〉の動きと連動していまもシーンを率いているし、K DUB SHINEは名実ともに文化人というか、すっかりタレントだ(120%いい意味で)。
 ここで書きたいのはキングギドラについてではなく、20年前に出た『空からの力』の歌詞カードの最後に記されたスペシャルサンクスのクレジットのことで、当時、高校生だった筆者は、リアルタイムで『空からの力』の歌詞カードのZeebraのスペシャルサンクス欄にある日本のヒップホップ・アーティストの名を、ひとつひとつ「これも聴いた」「これも知ってる」とチェックし、そこに挙がったアーティストをほぼ全員を網羅して楽しんでいた。
 そのときの衝撃の延長線上で、現在もヒップホップのアーティストを取材するライターをやっているわけだが、高校生ラップ選手権や全国で開催される数多のフリースタイル・バトル出演者の名前を聞いても、顔触れを一瞥しても、正直もはや誰が誰だかわからない。全部を網羅しているなどとは口が裂けてもいえないし、そもそも網羅したいという願望がない。ただ、この豊穣な状況はまったく喜ばしいことだと傍観者として見ているだけだ。
 だが、もちろん傍観者としてライターに任じているわけではない。
 本題に入ろう。
 すべてを追いきれない以上、自分である程度取捨選択して聴く以外ないわけだが、その基準はひとつだ。単純に良作を求めてるのではなく、凄いアルバム、凄い曲に触れたい。その作品に触れた瞬間、あるいは凄いものが生まれていると確信めいた予感が脳内を突き抜けたときだけ、傍観者でなくなることができる。いわば自分を傍観者でなくしてくれる音源だけを純粋に探していると言えるだろう。傍観者でなくなるとは、突き詰めれば結局スピーカーであったりヘッドホンと自分だけになるということで、そうなったときはじめて、筆者は書きたいとかインタヴューをしたいと思うのだ。そこに曇りはない。
 9月9日リリースされるKGE&HIMUKI の『LOVE & BLUES』は凄いアルバムだ。
 今作でKGE&HIMUKI のタッグ作品は3作目で(1stアルバム『LOCAL FAMILY』、2ndアルバム『2ND IMPACT』)、これまでもシーンでふたりの評価は一貫して高かった。それでも、この豊穣なシーンの中で、このふたりはやはり知る人ぞ知る存在ということになる。
 トピックの多彩さ、フロウ巧者で知られるラッパーKGE、USでも名高いKOOL G RAPやGuilty Simpsonなど(これはほんの一例だ)の海外勢とのコラボを果たし、安定したプロデュースワークを誇るHIMUKIのふたりのタッグで、下手なものができるわけがない。彼らを知っていれば、この専門誌のレビュー的な評価も、自然に頷けるものに違いない。だが、それがイコール凄いかどうかは、また別の話だ。
 これまでも良作を生み出しているふたりがここにきて、本当に凄いアルバムを作った。ワンループ、サンプリング、ドープ、タイト、王道のヒップホップ、太い、黒い、黄色い。評論家や音楽ライターなら、こういった言葉を駆使して、本作の魅力を解説するだろう。そして、そこに書かれたことは、きっとその通りなのだ。だが、このアルバムの聴きどころ(魅力といってもいい)は、そういったキーワードを並べただけでは足りない。
 この作品が一朝一夕では生まれないスキルの結晶というのは一面真実だが、何より素晴らしいのはソウルがスキルや手管を超えていることだろう。クサい言い方だが『LOVE & BLUES』というタイトルを本当に表現するのであれば、ソウルがみなぎっていなければならないのは必要不可欠だった。だが、それを狙ってやるのは簡単ではない。
 ライムと向き合いながら、感情がライムではなく違う言葉を選んだとしたら、KGEは遠慮なくライムではなく感情の言葉を選びとっている。これは同時に、本作のKGEのキレキレのライムには、すべて感情がほとばしっていることを意味している。
 収録曲中でKGEは「流行りにのっかるのは下手くそ」とラップするが、昔からKGEはビートに乗っかるのが超ウマいラッパーだった。意味と無意味のヘアピンカーブのギリギリのラインを縫うように繰り出すフロウは、LOVEとBLUESを唯一無二の形で結晶させている。そして、そのフロウを引き出したのはHIMUKIのビートに他ならない。いや、ほとんどHIMUKIのビートだけが、このラップを引き出し得たというのが正確だろう。
 本作品のただ1人の客演であるGAGLEのHUNGER(この人選が既にタイトで意味深だ)が、このアルバムのプレスに「全てをつぎ込んだKGEくんの気持ちを一回通して聞いただけでは受け止め切れないほどエネルギーと愛に溢れたアルバム」と言葉を寄せているのを読み、なるほどと腑に落ちるものがあった。

山田文大