ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Politics 黒船MMTと参議院選挙の行方 (columns)
  2. The Cinematic Orchestra & Floating Points ──ザ・シネマティック・オーケストラとフローティング・ポインツがサマソニに出演 (news)
  3. Flying Lotus ──衝撃を与えた映画『KUSO』がまさかの再上映決定 (news)
  4. OGRE YOU ASSHOLE ──3年ぶりのニュー・アルバムをリリース、全国ツアーも決定 (news)
  5. Seba Kaapstad - Thina (review)
  6. yapoos ──地球最後のニューウェイヴ・バンド、ヤプーズが再始動する (news)
  7. Pasocom Music Club ──パソコン音楽クラブがセカンド・アルバムをリリース (news)
  8. Andrew Weatherall ──アンドリュー・ウェザオールが来日 (news)
  9. special talk : ISSUGI × CRAM 特別対談:ISSUGI × CRAM (interviews)
  10. New Order - ∑(No,12k,Lg,17Mif) New Order + Liam Gillick: So It Goes.. (review)
  11. Koji Nakamura - Epitaph (review)
  12. SCARS ──復活が話題のSCARS、オフィシャルTシャツが限定発売! (news)
  13. Kenmochi Hidefumi - 沸騰 沸く ~FOOTWORK~ / Xiangyu - はじめての○○図鑑 (review)
  14. Politics 黒船MMTが来航、開国を迫る。その時、日本の与野党は (columns)
  15. interview with Jordan Rakei 人間性を忘れてはいけない (interviews)
  16. 子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から - ブレイディみかこ (review)
  17. James Ferraro - Requiem For Recycled Earth (review)
  18. Kokoroko - Kokoroko / Various - Untitled (review)
  19. Steve Lacy - Apollo XXI (review)
  20. 編集後記 編集後記(2019年7月9日) (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > ダニエル・クオン- ノーツ

ダニエル・クオン

Indie PopPsychedelic

ダニエル・クオン

ノーツ

Pヴァイン

Tower HMV Amazon

増村和彦松村正人   Nov 30,2015 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
12

Ha Ha, Just notes 増村和彦

 ──『ノーツ』というアルバム・タイトルが象徴する掌編的小曲は、集合体となって、永遠に未完のまま無限に続く可能性を燻らせている。

 Pヴァインのオフィシャル・インフォにも「ポピュラーミュージック症の重篤患者」とある通り、彼の音楽的な素養には驚くばかり。アルバムに収録された小曲はトラック数の数倍に及ぶというメロディ・メイカーぶりはビートルズを彷彿させるほどであるし、奇抜でありながら普遍性を身に纏うアレンジやミックスにキース・オルセンやカート・ベッチャーを重ね合わせるかもしれない。その手のことは、枚挙に暇がないが、裏側から対象を眺めるような観察観の鋭さは、言わば「aに対するa´」を勝ち得ている。作品からaを探し出すことは簡単かもしれないが、さまざまな音楽遺産の中から彼のa´を見出した時一つの幸福感を味わえるに違いない。それは同時に、音楽遺産の上に新たな視点を提示してくれる。
 そのような経験的な音楽の領域に説得力を持たせているのが、詩的な領域だ。何もコンセプトや歌詞のことではない。各曲は物語としては掌編的に完結していくが、そこにカタルシスはない。不満なき完結はある意味では死を意味する。はちきれんばかりのリビドーが(#5“mr.kimono”の頭のローズ・ピアノなんて手で掴めそうだ)、浄化されることなくアルバム全体を流れつづけることによって、長編のようないつ終わるとも知れない味わいを持たせている。タイトルの「note」と「複数形」の意味をそこに見た気がした。

 彼にそんなことを言ってもきっと「haha, just notes」と言うはずだ。それはそうにちがいない。矛盾するように同居するムードの気楽さが作品をしてベタつかせていない。各所に散りばめられたフィールド・レコーディングが、自己の中に入り込もうとするものでなく、映画の1コマのような効果を与えていることも象徴的だ。時に顔を出すシニカルな側面にも深刻さはない。これもタイトルが示すところであろう。

 たしかに、このアルバムにハイライトやメッセージ性はないかもしれない。彼の場合は、さまzまな倒錯や幻想の形態化自体がユーモアや物語を帯びながら音楽をなしていくところがあるように思う。それは、自己満足の空しい作業かもしれないが、閉ざされた空間で日曜日にしか愛好されない音楽の中にあって、稀有な存在であり、われわれはそのようなものに心酔するはずだ。

 ……なんだか難しいように書いてしまったかもしれないが、最後に一つ。ここまで歌が聴けるアルバムもなかなかないだろう。

増村和彦

» NEXT 「呪われたようにポップ」松村正人

12