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Album Reviews

LUSH

ShoegazeUK Indie

LUSH

CHORUS

4AD

Tower HMV Amazon

久保正樹   Jan 15,2016 UP Old & New
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 ジーザス&メリー・チェインから始まり、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、チャプターハウス、スワーヴドライヴァー、スロウダイヴ、ライドら、甘いメロディと壁のような轟音ギターの波とともに80年代末〜90年代頭を駆け抜けたUKバンドの再結成が相次ぐなか(ele-king的に言うところの「UKオヤジロックの逆襲」ですね)、かつてのシューゲイザー界隈(ハッピー・ヴァレーでもテムズ・ヴァレーでもいいけれど、いまや誰もそんなふうに呼ばない……)においてもっとも華々しい輝きを放っていたバンド、ラッシュがついに再始動した。

 当時「あなたミキ派? それともエマ派?」なんて浮かれた議論が飛び交うほどにスペシャルなスター性を備えていたフロントの女性ふたり、赤髪のミキ・ベレーニ(ギター&ヴォーカル)と黒髪のエマ・アンダーソン(ギター&ヴォーカル)。音楽性云々よりも彼女たちの立ち振る舞いに異様なまでの注目が集まっていたのは懐かしくもうなずける話だが、そんな輝きとは対照的に、97年に起きたクリス・アクランド(ドラム)の自殺という何とも悲劇的で後味の悪い事件を後にシーンから静かに去っていったラッシュ。その後、フィル・キング(ベース)はメリー・チェインに加入。エマはリサ・オニールをヴォーカルに迎えたユニット=シング・シング(筆者は運良くエマと連絡を取り、数少ない彼女たちのライヴをロンドンで目撃しているがもちろん最高だった!)を結成し、フレッシュなギター&エレポップを聞かせる2枚のアルバムを残すもすでに解散。そして、ミキはいくつかの作品にゲスト参加していたものの、その後、雑誌の編集者として働くなどしてほぼ音楽シーンから離れてしまっていた。そんなこともあり、ラッシュだけは再結成とは縁のない存在だと思ってある意味ほっとしていたのだが……世のなか何がどうなるかわからない。

 そんな折に古巣〈4AD〉からリリースされたのが、彼女たちの歩みを完全網羅したこの5CDボックス・セットだ。デビュー・ミニ・アルバム『スカー』のアートワークをあしらった豪華ブック仕様のゴージャスな装丁から香る、美しい歪みとデカダンスな危うさを秘めたオリジナル〈4AD〉臭に、往年のファンは鼻をかぐわし目頭を熱くするにちがいない。ヴィジュアル面において初期〈4AD〉のカラーを決定づけたデザイン・ユニット〈23エンヴェロップ〉のデザイン集としても楽しめるこの感じ。いまのスタイリッシュでイケてる〈4AD〉とはどこか様子が違うこの感じ──そうなんだよ。つまり耽美なんだよ! 耽美!!

 そんなことはともかく内容の話をしよう。まずディスク1は、コクトー・ツインズやディス・モータル・コイルとの仕事でもお馴染みのジョン・フライヤーがプロデュースした前述の『スカー』(1989)と、コクトー・ツインズのロビン・ガスリーがプロデュースしたEP『スウィートネス・アンド・ライト』(1990)、そしてEP『マッド・ラヴ』(1990)を寄せて集めたプレデヴュー・アルバム『ガラ』(1990)である。いまだに後のアルバムよりこの作品を好むファンが多いことからもわかるように、コクトー・ツインズ直系の透明感とニューウェイヴの洗礼(ミキとエマは14歳の頃からの知り合いで、学生時代にいっしょにニューウェイヴのファンジンを作っている!)がぷんぷんと香り立つ。コーラス成分多めの空間的なアルペジオに、美しくもときにエッジーなコード・ストロークが織りなすツイン・ギターの響き。艶やかに重なる自由でナチュラルなミキとエマの声とハーモニー。それらを屋台骨として支える男ふたりの安定感抜群のリズムのコンビネーションがこの時点で見事に完成している。ラッシュを語る上で欠かせないインディ・ダンスな名曲“スウィートネス・アンド・ライト”ほか、“ブリーズ”“デラックス”“ソートフォームス”“エスリール”はこのアルバムに収録。さらにボーナス・トラックとして、熱心なファンにもうれしいさまざまなBBCセッション音源が収録されている。

 続くディスク2には待ちに待たれたデヴュー・アルバム『スプリット』(1992)を収録。切ないメロディに乗る「可愛い女の子が輝いてるわ 若さに笑みがこぼれる」なんて可憐な歌い出しが印象的な“フォー・ラブ”ほか、“ナッシング・ナチュラル”“スーパーブラスト!”などの代表曲。さらに、“タイニー・スマイルズ”“オーシャン”“ローラ”などの隠れた名曲にも清らかに湧き出る泉のようなアイデアを聴くことができる。ロビン・ガスリーによるプロデュースということで『ガラ』の延長線上にありながらも、アルバムとしての統一感がはっきりと表れた内容だ。ボーナス・トラックには、EP『フォー・ラブ』のカップリング曲“スターラスト”(後に『スプーキー』に収録されるヴァージョンよりも断然カッコいい!)や彼女たちが敬愛するワイヤーの名曲“アウトドア・マイナー”のカヴァーほか、ケヴィン・シールズとDJスプーキーによるリミックス曲なんかもばっちり入っている。

 ディスク3にはセカンド『スプリット』(1994)を収録。冒頭の“ライト・フロム・ア・デッド・スター”からストリングスを導入するなど、堂々とした貫禄も感じさせる内容。“ブラックアウト”“ヒポクライト”“ラヴライフ”と続く華麗でダンサブルな疾走も素晴らしいが、“デザイアー・ラインズ”“ネヴァー・ネヴァー”など、ゆるやかにたゆたう長尺曲におけるアレンジ力に、バンドの成長過程を楽しむ要素が多かったこれまでのおもしろさに加え、バンドの洗練もそこここに感じとることができる。ボーナス・トラックにはEPのカップリング曲ザ・ジストのカヴァー“ラヴ・アット・ファースト・サイト”のほか、レアなアコースティック・セッションも収録。

 続くディスク4はサードにしてラスト・アルバム『ラヴ・ライフ』(1996)を収録。冒頭の“レディキラーズ”からストレートでグランジーなギターに、ファルセットではない迫力あるミキの素のヴォーカルが飛び出したりして驚く。また、ストリングスのほかに管楽器も導入されたり、パルプのジャーヴィス・コッカーが参加したり、“500”“シングル・ガールズ”などの60Sテイスト溢れるとびきりのバブルガム・ポップが弾けたりと、ラッシュの大きな転換期をとらえた内容だ。コーラス、リヴァーブ、ディレイなどの深いエフェクト空間に包まれていた靄が晴れ渡り、当時隆盛していたブリットポップに接近したとかなんとか言われたりして、かつての物憂げなラッシュを期待したファンからは賛否両論な作品。だが、いま聴くと何てことはない……時流に乗るどころか、この先何年経っても色あせることのない王道ポップが並べられた(でも、どこかにそれに対するわだかまりもある)挑戦的なアルバムだったことがわかるはずだ。

 そして、最後のディスク5は日本来日記念盤として発売されていたコンピレーション作品『トポリーノ』(1996)。『ラヴ・ライフ』に収録されていたシングル“レディ・キラーズ”と“500”のカップリング曲をまとめた1枚で、とくにマグネティック・フィールズ、ザ・ルビナーズ、ヴァシュティ・バニヤンの秀逸すぎるカヴァーに心踊らされる。その後、グー・グー・ドールズとのアメリカ・ツアーを余儀なくされたりして、本人たちがまったく望んでなかった「メインストリームでの成功」というプレッシャーは相当なものだったのだろう。そんな居心地の悪さからの解放感がサウンドに表れた楽しい内容となっている。クリスが手掛けた唯一の曲“パイルドライヴァー”ほか、ボーナス・トラックに、ミドル・オブ・ザ・ロードの“チピチピ天国”、エルヴィス・コステロの“オール・ディス・ユースレス・ビューティー”、ワイヤーの“マネキン”、さらにイギリスの子供番組「ルパート・ザ・ベアー」のテーマ曲など、彼女たちの目からウロコすぎる選曲眼とカヴァー・センスをこれでもかと味わうことができる。

 ミキのお母さんが日本人で、いとこがハナレグミで、またいとこがコーネリアスで……なんていまさらそんな情報を語るのも野暮だけれど、日本にゆかりがあるラッシュの作品がこぞって廃盤状態にあるいま、この6時間半にもおよぶボックス・セットは、彼女たちが後のシーンに与えた影響をどうのこうの考えるよりも、彼女たちが残したきららかな魅力を変わらぬ鮮度で伝えてくれて素直に楽しむことができる(ちなみにクレジットにはないが、音も丁寧にリマスタリングされていて心地よさもアップしている)。また、その反面、恐いもの知らずの夢見るニューウェイヴ少女があれよあれよという間に注目を浴びてシーンからはみ出るほどの人気者になり、それゆえに与えられた苦悩と大親友の自死の末にバンド解散という影のストーリーも抱えていただけに、今回の再結成はじつに感慨深く晴れやかで頼もしいかぎりである。なんとも……歳月が薬なんていうけれど、彼女たちは20年もかかったってわけだ。

 ちなみに、ドラムに元エラスティカのジャスティン・ウェルチを迎えたラッシュの再結成ライヴは、いまのところ今年4月のマンチェスターを皮切りに、5月にロンドン、9月にNYでの開催が決定している。さらにこれから新作EPのリリースも予定されているというから本格的だ。もうこうなったら、ブラーもダイナソーJr.もマイブラもメリー・チェインも現役バリバリでいることなんで、そこにラッシュも加えて92年の再来〈ローラーコースター・ツアー2016〉なんか仕掛けて日本に来てくれい! お願い!!

久保正樹