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Isolde Touch

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Isolde Touch

Secretary of Sensation

Entr’acte

Entr’acte

デンシノオト   Jan 18,2016 UP
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 実験の旗色が悪いのか。前衛は死んだのか。あの死なないはずの、もしくは何度も死んでも蘇生したはずのピエール・ブーレーズも死んでしまった。前衛音楽も、実験音楽も、とうの昔に20世紀のフォルダに入れられてしまってわけで、マニアの蒐集欲を満たすブツ=盤としてフェティッシュな欲望の対象になってしまったのだろうか。むろんこれはこれで悪くない倒錯だ。私も大好きな倒錯である。

 では、実験音楽も前衛音楽も死んだ、というかゾンビ化した21世紀において、音楽における実験的な試みそのものも無効化したというのだろうか? いや、そうではないだろう。そもそも音楽とは終わることなき音の実験ではないか。20世紀が終わっても音楽が音楽である限り実験は終わらない。実験とは生の証である。ならば、もっとカジュアルに、もっとクールに、もっとモダンに、もっとモードに、音の実験をすればいい。モダン・モード・エクスペリメンタル。

 そして昨今の音楽的潮流において、そのようなモダンでモードなエクスペリメンタル・ミュージックは極めて重要な存在になっている。ベルギーの実験音楽/サウンド・アート・レーベル〈アントラクト(Entr’acte)〉はその代表格だろう。〈アントラクト〉はグラフィック・デザイナーでもあるアロン・ケイ(Allon Kaye)が主宰するレーベルで00年代から活動を続けている。もはや中堅といってもいいレーベル・キャリアだが、白地+色の新しいアートワーク・フォーマットやヴォイナル・リリースなどを導入して以降は、ノイジーな実験音楽のクラブ的展開という新しい領域へとその活動を拡張しつつある。じじつ、昨年リリースした、イマジナリー・フォーシズ(Imaginary Forces)、ガイ・バーキン&サン・ハマー(Guy Birkin & Sun Hammer)、カイル・ブラックマン(Kyle Bruckmann)などのアルバムは、エクスペリメンタルとロウなテクノをリンクさせた素晴らしいアルバムであった。

 そんな〈アントラクト〉から、イゾルデ・タッチの新作がリリースされた。彼女は南カルフォルニアを拠点として活動をしているアーティストである。イゾルデ・タッチ名義では〈ファーザー・レコード(Further Records)〉からアルバムを発表しており、本作は2作めに当たる。また本名アーシャ・セシャドリ(Asha Sheshadr)名義では、〈グリッド・コンプレックス(Gryd Complex)〉や〈ジギタリス(Digitalis Limited)〉などから作品をリリースしている。

 この〈アントラクト〉という、いまもっとも重要なエクスペ・レーベルからのリリースは彼女に大きな飛躍をもたらすのではないかと思う。じじつ本作はとてもユニークな作品に仕上がっているのだ。どの楽曲も、霞んだ音ならではの、美しくも儚い美が生成されている。アルバム1曲め“スタンダード・デヴィエーション(Standard Deviation)”から、その美的感覚は十分に表出している。クラシカルなピアノのループに、硬い電子ノイズに、ダブィなベース、キックの音、彼女自身と思われる声が、真っ白な空間に漂流する粒子のように交錯していくのだ。

 個人的には2曲め“パセティック・マシン(Pathetic Machine)”、3曲め“スカルペルス(Scalpels)”、4曲め“PVCバーン(PVC Burn)”などに聴かれるビートの音色=テクスチャーに注目したい。柔らかい声の層に、崩れ落ちていくかのようなインダストリアル・ビートが融合し、崩壊直前の美を聴き手に与えてくれるのだ。この感覚は極めて独特である。
 また、どの楽曲においても(彼女の)「声」と「ノイズ」によって極めて独特なアンビエント/アンビエンスな感覚が生成している点も重要だ。この宗教歌曲的/賛美歌的ともいえるクラシカルなアンビエンスは、2010年代以降のドローン/アンビエントを経由した新世代ならではの響きではないかと思う。私見だが、カラリス・カヴァデール(KARA-LIS COVERDALE)のアンビエント作品との近似性も感じられた。

 それにしても2015年において、〈アントラクト〉はついに頭ひとつ上に突き抜けた。ノイジーなサウンドを伴ったエクスペリメンタル・ミュージックでありながら崩壊したようなテクノ・ビートやループも混入されており、00年代の電子音響や10年代初頭のインダストリアル/テクノ「以降」を感じさせる作品を多数リリースしたのだ。とても新しく、モダンなレーベルへと刷新したように思えてならない。
 新年早々〈アントラクト〉のサイトでは、2016年最初のカタログがアナウンスされていた。主宰アロン・ケイの審美眼(耳)はますます冴え渡っているといっていい。今年も刺激的で、クールで、エクスペリメンタルで、モダン/モードな作品をリリースしてくれることだろう。

デンシノオト