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El Vy

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Return to The Moon

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木津毅   Feb 05,2016 UP
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 アメリカ映画を観ているとメジャー/インディ問わずしょっちゅうザ・ナショナルが流れている。なかでもギャビン・オコナーの『ウォーリアー』では劇中のいちばんいいところで主題歌的に使われているのだが、総合格闘技のガチンコバトルを描いたその映画でトム・ハーディは恐ろしく盛り上がった肩の筋肉を持ちながら、同時に捨てられた子犬のような目を見せてくれる。あの弱さを隠そうともしない目を持っているからこそ、彼はいまのアメリカにおけるアクション映画の主役を張れるのだろう。映画側からすれば「男と男が拳で分かり合う」マッチョな物語にある種の叙情性と知性を与えたかったからだろうけれど、逆側から見れば、そうした古めかしいタフな男の色気みたいなものをアメリカのロック・リスナーはいまマット・バーニンガーのバリトン・ヴォイスに見出しているということである。ゼロ年代後半にザ・ナショナルが浮上したのは当時のアメリカの斜陽とマットが歌詞に綴った疲労感が重なったからだが、ザ・ナショナルの功績はそれをハードボイルドな官能として表現したことである。『ラブ&ピース』、『日々ロック』、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』辺りを観ると日本ではいまもロック音楽は童貞性との親和性を誇っているようだが、どうもアメリカではくたびれた中年のペーソスのほうが合いそうだ。どちらがいい悪いの話ではなくて、求められているものが違うということなのだと思う。

 エル・ヴァイはマット・バーニンガーと元メノメナ/ラモナ・フォールズのブレント・ノップフとのふたりユニットだが、言ってしまえばマットの声と言葉が持つ疲れた男のセクシーさを増幅させるための音楽である。ブラック・ミュージックを意識したゆるいファンクやソウルをロックにブレンドしたサウンドにはザ・ナショナルのような緻密さや重厚さの代わりに脱力感と音の隙間があるため、描かれる悲哀や孤独、閉塞感や厭世感といったモチーフにどこか諦念にも似たリラックス感が漂っている。卑猥な言葉を散りばめる“アイム・ザ・マン・トゥ・ビー”ではどうしようもないエロ中年を演じながら退廃的なファンクで腰を前後させるし、パブ・ロック調の“ニード・ア・フレンド”では錯乱そのものを妖艶な魅力に置き換えている。セルジュ・ゲンズブールのいくつかの作品やブライアン・フェリーを想起させつつ、音楽性以上に彼らが纏っていたイメージを衣装としてここでマットは羽織っているわけだ。セルフ・パロディだとする評もわからなくはないが、それにしても知的で気が効いている。「ハスカー・ドゥやザ・スミスが聞こえていた」時代を思い出す“ポール・イズ・アライヴ”において、オルガンをバックにしつつ低い音域をかすれ気味で歌うマットのヴォーカルの魅力が存分に発揮されているのは、年を取ることへの無条件降伏のように聞こえる。それが諦念なのかある種の肯定なのかは、実感として僕にはまだわからないが……。

 ザ・ナショナルを聴きながらマットの低い声とそれが紡いでいく退廃的な情景に惹かれていると、結局それは自分の趣味以上のものではないのではないかと思えてくることが僕にはある。中年の哀愁なんてものが恐ろしく受けないこの国にいるとなおさらだ。が、若くはないこと自体を上質な生地のガウンに仕立てようとするエル・ヴァイを聴いていると、それは老いていくロック音楽を味わうための叡智のようにも感じられてくる。迸るリビドーや青さをとっくに失ってしまった地点での悪あがきに、どうにも身体を揺さぶられてしまう。

木津毅