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野田努   Jul 11,2016 UP
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 初めてシカゴのハウス・ミュージックを聴いたときに誰もが感じたのは、そのいかがわしい光沢である。ときに露骨なまでの性欲、避けがたい淫靡さを前にするとドナ・サマーでさえも清純に思えたものだった。スエーニョ・ラティーノにいたっては貴婦人だ。
 ところが、こうしたセックス文化に関しては、日本のほうが寛大だという意見を外国の方から言われたことがある人も少なくないだろう。いくら浄化されたといっても歌舞伎町は歌舞伎町だ。コンビニでエロ本は堂々と売られているし、アイドルが幼児ポルノに見えてしまう外国の方も当たり前のようにいる。ドラッグには厳しく、セックスにはゆるい。だからなのか、リアーナ良いよね、と軽く言える。この調子で、ぼくは数年前にリアーナって良いよねと、あるアメリカ人に言ったら、口を聞いてもらえないほど軽蔑されたという経験がある。広いアメリカのいち部の人たちにとって、彼女はビッチのなかのビッチなのだ。大人の男を怒らせるのに充分なほどの。
 ゲットー・ハウス/ゲットー・エレクトロ、ゲットー・ダンス・ミュージックにも、大人の男を怒らせるほどの猥褻なものがある。本作は、ブルックリンのDJ、LSDの2014年のアルバム『w h o r e c o r e』に続く、セカンド・フル・レングスのミックステープ。基本はもちろんサンプリングで(ゲットーが生演奏であるはずがない!)、カニエ・ウェストの曲も餌食にされている。
 この音楽は、まあLSDという名前からもわかると思うが、まずはどれほどアホをやってられるかという、ゲットー・ハウス(ヒップ・ハウスの極端な展開)や、かつてディプロが引用して世界中にばらまいたボルチモア・ブレイクという淫らなダンスのスタイルの延長線上にあり、近年話題のジャージー・クラブやボールルームの系譜にある。ゲットーであり、ゲイ・カルチャーであり、手法はヒップホップであり、BPMはハウスである。
 〈Fade To Mind〉が昨年出した MikeQ & DJ Sliinkの「Mind To Mind」もニュージャージー発のそのトレンドをキャッチしたもので、聴けばわかるが、細かく、ときに不規則な現代的チョップによるゲットー・ハウス/エレクトロだと説明できる。ダーティーな言葉が飛び交うものの、なんともクリエイティヴで、間違いなくパワフルで、しかもファッショナブルな〈Fade To Mind〉からリリースされたことからも察することができるように、いまはこれがクールなスタイルであり(かつてモ・ワックスがDJアサルトを出したようなもの)、同時にこのスタイルが音楽的にさらに面白くなる可能性も感じないわけにはいかない。
 だが、高尚なゲットー・ミュージックなどはそもそもゲットー・ミュージックではないという矛盾があるように、むしろ生々しいから魅力があると言える。本作『Fuck Marry Kill』はただ淫らなだけではない。微妙な緊張感がある。それはきっとストリートの緊張感なのだ。(この原稿は先週書いたものだが、その数日後、ダラスでの銃撃事件が起きた。大統領選前のアメリカのなんたる殺気。こうした黒人vs警察の模様については、次号の紙ele-king vol.18で三田格が書いている)

 本作と違って、ほとんど年齢的な理由から、実生活のぼくはストイックである。このレヴューは現代のトレンドを紹介してるだけであって、決してぼくが好きな音楽ではない。しかし、オバマ大統領の最大の功績と言われるLGBTへの取り組み(アメリカというマッチョな国の、しかも経済危機のなかで、ゲイの結婚を認めさせることがどれほどのことか……)がアンダーグラウンドの祝祭ムードを盛り上げたことは間違いないだろう。ストーンウォールは観光名所になり、ヴォーグは流行、ボールルームは栄える。そして音楽も熱気を帯びる。これがいまクールなんだよ。

野田努