MOST READ

  1. Alan Vega - IT (review)
  2. interview with Subarashika この素晴らしか世界 (interviews)
  3. Okada Takuro ──岡田拓郎が思考を重ねに重ね、その果てに完成させたソロ作品とは? (news)
  4. Adam Rudolph's Moving Pictures - Glare Of The Tiger (review)
  5. Random Access N.Y. vol.93:ブルックリンのインディ・ロックは死なず Pill, Bambara, Weeping icon, Hubble @Alphaville 7/15/2017 (columns)
  6. 電気グルーヴ - TROPICAL LOVE (review)
  7. Loke Rahbek - City Of Women (review)
  8. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインが新曲“korg funk 5”を公開 (news)
  9. interview with Shingo Nishinari 大阪西成人情Rap (interviews)
  10. 打楽器逍遙 1 はじめにドラムありき (columns)
  11. WWWβ ──これは尖っている! 渋谷WWWの最深部に新たな「場」が誕生 (news)
  12. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  13. Mount Kimbie ──マウント・キンビーがニュー・アルバムをリリース (news)
  14. ドメニコ・ランセロッチ/Domenico Lancelotti - オルガンス山脈 (review)
  15. interview with IO - KoolBoyの美学 (interviews)
  16. Washed Out - Mister Mellow (review)
  17. Special Talk:OLIVE OIL×K-BOMB - 福岡ー東京、奇才語り合う (interviews)
  18. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  19. 〈The Trilogy Tapes〉 ──C.Eショップだけで買えるTTTのTシャツ (news)
  20. ele-king vol.20 ──夏だ! 踊るにはいい季節。紙エレ最新号はThe XXと「クラブ・ミュージック大カタログ」 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Jake Bugg- On My One

Album Reviews

Jake Bugg

Rock

Jake Bugg

On My One

Virgin EMI/ユニバーサル ミュージック

Tower Amazon

ブレイディみかこ   Sep 16,2016 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 EU離脱を決める国民投票で、英国の若者たちの約75%が残留に票を投じたことは世界中で報道された。貧しい北部の労働者階級が離脱に、豊かな南部のミドルクラスが残留に多く票を投じていたことも話題になった。
 つまり、こういうことだな。と世界の人々は考えた。
 下層のバカな中高年が、ありもしない「英国の栄光」みたいなものにすがって、右翼のプロパガンダに騙されて排外主義に走ってしまったのだ。だが、彼らの愚行の最大の被害者は若者たちである。バカな大人たちが若者たちの未来を奪ったのだ。と。

 しかし、英国ではその後、もう一つのファクトも明るみに出ている。
 全国における18歳から24歳の若者の投票率はわずか36%だった。「投票に行った若者たち」の約75%が残留に票を投じたのは事実だが、それは36%のうちの75%に過ぎない(つまり、若者全体の26%が残留派という計算になる)。

 18歳から24歳までの英国の若者たちの64%は、投票にさえ行かなかった。
 北部の貧しい地域では、若年層の投票率が特に低かったこともわかっている。

             ******

 わたしがジェイク・バグを初めて見たのは、2011年、BBC「News Night」のカルチャー・レビューで彼が歌ったときだった。最近アーカイヴを見ていてわかったのだが、それは識者たちが「ロンドン暴動とユース・カルチャー」についてディベートした回だった。
 評論家や学者の議論が終わった後で、まるでうちの近所にいるティーンの一人のような少年がギターを抱えて出てきて、妙に醒めた目つきで弾き語りを始めた。「公営住宅地のボブ・ディランだ」と思った。

 ロンドン暴動の特集なら、どうしてラッパーを出さなかったのだろう。とも思う。
 が、その疑問を解決するのが、昨年発表されて話題を呼んだカナダの大学教授の研究結果で、それによれば、いまやロック(インディー含む)やレゲエはソーシャル・エリートの聴く音楽になり果て、下層民の御用達ミュージックはラップやカントリーになっているという。
 なるほど。公営住宅地にディランが出てくるわけだ。

             ******

 今年6月リリースのジェイクの3枚目『On My One』は、すこぶる評判が悪かった。あまりにも鮮烈だったファースト、賛否両論だったセカンドの後で、満を持して発表したセルフ・プロデュースの3作目だ。期待は大きかった。が、はずれ感も大きかった。
 「がんばり過ぎた。ラップに挑戦したのはレコード会社の干渉があったからではないか」と『NME』は評し、「『On My One』は、若い青年が暗闇の中で必死で自分のアイデンティティを掴もうとしているような印象で、近年の音楽界で最も不可解な楽曲のセレクション」と『ピッチフォーク』は首をひねった。「愛すべき曲もあるが、いくつかの曲は聴いているほうが恥ずかしくなる」と、本物のワーキングクラス・ヒーローとジェイクを讃え続けてきた左派紙『ガーディアン』も手厳しい。
 各方面からこきおろされている“Ain’t No Rhyme”ではジェイクがラップをやってみた。“Bitter Salt”はボン・ジョヴィで、“Gimme the Love”はカサビアンじゃないかと言われた。“Never Wanna Dance”に至っては、マーヴィン・ゲイのしょぼい田舎のコミュニティセンター・ヴァージョンとまで茶化された。
 正直、わたしも一聴したときには感心しなかった。が、6月17日に発売されたこのアルバムの聴こえ方が、23日のEU離脱投票を経た1週間後にはまったく変わっていた。

             ******

 いまやミドルクラストンベリーと呼ばれるようになったグラストンベリー・フェスティヴァルで、ドラマ俳優夫婦の息子が率いるThe 1975というバンドが、「大人たちが俺たちから未来を奪った」と発言し、貧民街のガキにはとても手の届かない金額のチケットを買って集まった若者たちを沸かせた。
 彼らは英国の若者の代弁者だと新聞に書かれていた。
 わずか26%の声を代表する者がどうして代弁者と表現されうるのか、メディアの偏向はいつだってローカルな真実を黒く塗り潰す。

 むしろ投票に行かなかった者たちこそが英国の若者のマジョリティーであり、その声を代弁するアーティストこそが時代のサウンドを奏でられるのだ。本当はそれができる若きポップスターが何人もいるべきなのに、たった一人しかいないということが、階級が絶望的なほど固定化した現代の英国を象徴している。

 英語圏で暮らす人なら一日に何度も口にしているだろう言葉「On My Own」は、「自分で」「たった一人で」という意味だ。
 英国で最も失業率の高い地域の一つである北部の町、ノッティンガムの方言では、それが「On My One」になるという。

僕はただの貧しい少年
ノッティンガム出身の
夢は持っていた
だけどこの世界では 消えてしまった 消えてしまった
僕はたった一人で こんなにも孤独
“On My One”

 ブレグジット後の英国の若者の歌を一曲あげろと言われたら、わたしは迷うことなくこのアルバムのタイトル曲を選ぶ。


追記:余談になるが、モリッシーは長い沈黙のあとで、ブレグジットについてこう語った。「BBCが離脱票を投じた人々を執拗に侮辱したのは衝撃だった。彼らは離脱派をレイシストで酔っ払いで無責任だと責め、裁いて、有罪にした。その一方で、BBCが残留派の決断を問題視した報道は僕は見なかった」。彼ならこう言うだろうと思っていた。アーティストは風紀委員じゃないということを知っている人の言葉だ。

ブレイディみかこ