ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Laraaji ──ララージがまさかの再来日、ブライアン・イーノとの名作を再現 (news)
  2. Leo Svirsky - River Without Banks (review)
  3. interview with (Sandy) Alex G 塩と砂糖の誘惑 (interviews)
  4. Columns JPEGMAFIA『Veteran』の衝撃とは何だったのか (columns)
  5. Tohji ──いま若い世代から圧倒的な支持を集めるラッパーが、初のミックステープをリリース (news)
  6. Aphex Twin ──エイフェックス・ツイン最新公演のライヴ・ストリーミングが決定 (news)
  7. interview with Kindness 音楽である必要すらないんです (interviews)
  8. Lafawndah - Ancestor Boy (review)
  9. Squarepusher, Oneohtrix Point Never & Bibio ──〈Warp〉30周年イベントが開催決定! スクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオが一挙来日 (news)
  10. interview with For Tracy Hyde シティ・ポップ・リヴァイヴァルから「シティ」を奪還する (interviews)
  11. interview with The Comet Is Coming ボリス・ジョンソンの名を言うだけで口が腐る (interviews)
  12. interview with Yosuke Yamashita 誰にでも開かれた過激 (interviews)
  13. For Tracy Hyde - New Young City (review)
  14. イギリスでは高校生に授業参観でレイヴの歴史を教えています (news)
  15. Freddie Gibbs & Madlib - Bandana (review)
  16. Nkisi - 7 Directions (review)
  17. BLACK SMOKER × Goethe-Institut Tokyo ──ベルリンの壁崩壊30周年を機に、総合舞台芸術作品『BLACK OPERA』が開催 (news)
  18. Thom Yorke - Anima (review)
  19. Columns ララージ来日直前企画 ──ニューエイジの巨匠、その歩みを振り返る (columns)
  20. FKA Twigs ──FKAツイッグスが3年ぶりに新曲を公開 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Zomby- Ultra

Zomby

ExperimentalGrimeHaunted DancehallPost Post Dubstep

Zomby

Ultra

Hyperdub/ビート

Tower Amazon

小林拓音米澤慎太朗   Sep 23,2016 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王
12

エスキーなストリート・ミュージックが再び鳴り始める米澤慎太朗

 2008年に〈Hyperdub〉からデビューしたZombyが、再び同レーベルからグライム、「エスキー・ビーツ」の影響を強く感じさせる最新アルバム『Ultra』をリリースした。彼はこれまで、常に新しいモードにチャレンジしてきた。ジャングルや90年代レイヴ・ミュージックを強く感じさせる『Where Were U In '92?』〈Werk Discs〉に始まり、〈4AD〉と〈Ramp Recordings〉から4枚のアルバムをリリースしてきた。その後もTwitter上での熱いツイートで話題を常に絶やさなかった彼だが、ビートレスのトラックをWileyのヴォーカルが引っ張る昨年のシングル「Step 2001」〈Big Dada〉が本作『Ultra』を方向づけたように思う。

 収録曲の中でソロで制作されたものは、Wileyが作った(*1)エスキー・ビーツのアイディアを借用し、サウンドを発展させている。例えば、“Burst”の最初の小節に挟まれる一音はWileyの“Ice Rink”に使われていたエスキー・クリックと呼ばれる音である。また、アルバムのオープニング3曲は「Devil Mix」または「Bass Mix」とWileyが名付けたドラムのないインストゥルメンタル・トラックである。しかし、ただエスキー・ビーツをなぞるだけでなく、ハイファイな音作りで現在にアップデートさせた音像を提示している。
 無機質なベース音と、繰り返すビデオ・ゲームの効果音のような音の隙間には、グライムMCの熱のこもったラップが聴こえてきそうだ。DJがセットに時折混ぜるデヴィル・ミックスの淡々としたトラックは、ドラムなしのビートにマイクを握り続けるMCと、「早くマイクをよこせ」と待っているMCの間に生じる緊張感をさらに高めていく。“Burst”からは、そんなロンドンのラジオ局の様子が想像できた。しかし、ZombyはMCと共作する代わりに、ヴォーカルをチョップすることで、ほんの少しだけ緊張感を和らげているようだ。

 なぜ、今エスキー・ビーツなのか? この2~3年の間で、2000年代前半のエスキー・ビーツの再解釈がイギリスのシーンのトレンドになっていることがあるだろう。その背景には、アメリカの「トラップ」と全く異なり、2000年代初期の「エスキー・ビーツ」(*2)のスタイルにイギリス・グライムのオリジナリティを感じ、インスピレーションを求めようとする新世代のプロデューサーがいる。例えば、LogosやRabit、Visionistなどはエスキー・ビーツの影響を受けているし、今年は、2003年リリースのワイリーの曲“Igloo”を下敷きにしたトラックに、人気MC Stormzyが乗っかった“One Take”がクラブ・ヒットした。それに呼応するかのように、〈Local Action〉や〈DVS Recordings〉など名の知れたものからアンダーグラウンドまで、さまざまなレーベルが、2000年代前半シーンの勃興期にDJの間のみで流通していたプロモ盤を再リリース。2000年代前半のローな音への「原点回帰」がトレンドになりつつある。Zomby自身は年齢非公表のため想像にすぎないが、Zombyはおそらくリアルタイムで2000年代初頭のグライムを経験し、このタイミングでグライムの原点の一つであるエスキー・ビーツを自分なりにもう一度消化してアルバムとして提示したのではないか。

 ソロで制作された粗い質感のトラックはアルバムの方向性を決定づけているが、Burial、Rezzett、Darkstar、Bansheeとコラボレーションしたトラックではフロア向けのトラックとは別のベクトルに音楽性を発展させようと挑戦している。特に、Darkstarとのコラボレーションはどのパートをそれぞれが担当したかわかりやすいという意味でも面白い曲。どのコラボレーションもZombyのサービスとして、また息の詰まりそうなエスキー・ビーツの間の休みとして楽しめる。アルバム通してハイファイながら粗いローな感覚に浸れる一枚だ。

(*1)TR.1“Reflection”、TR.2“Burst”、TR.3“Fly 2”、TR.10“Freeze”、TR.11“Yeti”。
(*2)矩形波のベース音やKORGのTritonのプリセット音を使うスタイル。

米澤慎太朗

Next 小林拓音

12