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デンシノオト   Sep 28,2016 UP
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 2010年代、アンビエント・ミュージックは変貌を遂げている。アンビエント・ミュージックは環境の音楽なのだから、時代や環境が変われば別のものになる。当然のことだ。いつまでも1978年のアンビエントや、1991年のアンビエントや、2007年のアンビエンス感覚が通用するわけではない。

 となれば「ポスト・インターネット以降の音楽」というものは、つまるところ「2010年代以降のアンビエント・ミュージック」の問題に還元される。インターネットはわれわれの環境だからだ。

 われわれが生きている環境は30年前とは違う。かつてはテレビや雑誌、ラジオが情報メディアの主流であったが、現在は、アイフォーンやタブレット、PCなどのインターネット・デバイスが情報摂取の主流になってきている。それほど、デジタル・デバイスは日常に浸透している。

 これは換言すれば、生活に情報が「過剰」に浸透した時代ということになる。情報がそのまま環境化された社会。環境が情報の流出によって生成されている社会。このような社会=時代において「情報」の音楽であるポップ・ミュージックと「環境」の音楽であるアンビエント・ミュージックは限りなくイコールになる。過剰な情報環境の中で、両者の境界線が融解し、侵食され、80年代から90年代までのジャンル分けがほぼ無効になった。

 そう、いまや情報=環境なのだ。「ポスト・インターネット的音楽」や「OPN以降」とは、そういった時代の音楽=アンビエンスも意味するのでないか。

 そして、モーション・グラフィックスのファースト・アルバムもまた無数のデジタル・デバイスに囲まれた時代特有のアンビエント・ミュージック=ポップ・ミュージックといえよう。より正確には、そういったイメージを喚起する音である。

 結論へと先を急ぐ前に、彼の経歴を簡単に説明しておこう。モーション・グラフィックスは、ニューヨークのジョー・ウィリアムズの変名である。本作はそのファースト・アルバムだ。 シングルは〈フューチャー・タイムズ〉から送り出されたが、アルバムは〈ドミノ〉からのリリースである。

 モーション・グラフィックスとしてはファースト・アルバムだが、ウィリアムズは2007年にホワイト・ウィリアムズ名義でインディ・ダンスなアルバムをリリースしている。また、マキシミリオン・ダンバーのメンバーとしても知られている。さらにはマックス・D率いるレーベル〈フューチャー・タイムズ〉のコア・メンバーでもある。マックス・Dとは、昨年リリースされたコ・ラ『ノー・ノー』(〈ソフトウェア〉)の共同プロデュースを手がけている。くわえて、ウィリアムズは、〈パン〉から発表されたマックス・Dとコ・ラのユニット、リフテッド『1』にもサウンド・エフェクトで参加した(モーション・グラフィックス名義)。私見だが、同アルバム特有のアトモスフィアはウィリアムズの功績が大きいのではないかと思う。

 端的にいって、この二作は「OPN以降」の重要作であった。そして『モーション・グラフィックス』もまた(やや、遅れてきた?)「ポスト・インターネット」「OPN以降」的な作品といえる。

 収録された楽曲は、坂本龍一を思わせるフランス印象派的な和声が印象的な80年代風ポップ・ミュージックをベースにしているが(「高橋ユキヒロ」作品の影響も強そうだ)、加工されたロボ・ヴォイスによるヴォーカルやメロディなどから、どこかプラスティック・ソウルな印象もある。場合によってはジャズの雰囲気も感じる。だが、それらはすべて夢想的な電子音楽が基調となっているのだ。

 だが、もっとも重要な特徴は、トラック内に散りばめられたデジタル・デバイスの発する音=ノイズなどが多層的にレイヤーされている点にあるように思える。サウンド・レイヤーのコンポジション。これは非常に現代的な特徴だ。

 たとえば4曲め“エニィウェア”のイントロはアイフォーンの着信音のようなサウンドだし、9曲め“メゾティント・グリス”や10曲め“ソフトバンク・アーケイド”などはオフィス内に響くキータッチのような音がレイヤーされている。ほかにも水の音から何かをたたく音、ピアノなどの楽器音から鳥の声のようなものまで、さまざまな日常的なサウンド・エレメントを本作から聴きとることができるだろう。そして、それらのサウンド・エレメントは、徹底的に整理され、本作特有のアンビエント/アンビエンスがコンポジションされているのだ。

 この数学的なまでに整理された清潔な音響空間のアンビエンスは、われわれ現代人にとって夢想/理想的環境といえよう。不要な情報に塗れた現代人は流出された情報の層が、きちんと整理・管理された空間を希求するものだ。ノイズを排除するのではなく、ノイズをコンポジションすること。いまやノイズは抵抗の手段ですらない。このような時代において旧来のノイズ・ミュージック論が無効になるのはいうまでもない。

 私は本作を聴いて、ロケーション・サービスのアルバムを思い出した。「人間」のいない世界のアンビエンスが鳴り響いているからだ。だがそれはディストピアですらない。なぜなら情報が管理され、人間による混乱が希薄な世界は、われわれの夢想でもあるのだから。本作はそんな2016年のアンビエンスを反映した現代的なポップ・ミュージックといえよう。人工的で、儚く、インターネットの楽園=夢の表象のような音楽。

 いや、そもそも、クラフトワーク以降のエレクトロニック・ミュージックは、人間の「ロボット」化を希求してもいたのだから、この「人間が希薄化したポスト・インターネット的なアンビエンスを生成する音楽」こそ、テクノ=ポップの理想の実現といえるのかもしれない。

デンシノオト