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Album Reviews

FaltyDL

AmbientElectronicFuture JazzIDMPost Dubstep

FaltyDL

Heaven Is For Quitters

Blueberry Recordings/ビート

Tower Amazon

小川充   Oct 27,2016 UP
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 イギリス発祥のUKガラージやダブステップ、ベース・ミュージックといったダンス・サウンドをアメリカ人サイドから最初に取り入れ、発信してきたアーティストの代表がマシーンドラムことトラヴィス・スチュアートであり、フォルティDLことドリュー・ラストマンである。この秋にふたりは偶然にも新作アルバムを発表したのだが、昔から彼らには共通する点が多い。たとえばUKを代表するエレクトロニック・レーベルの〈プラネット・ミュー〉でアルバムをリリースし、その後〈ニンジャ・チューン〉に移籍したこととか、IDMとの関わり、ジューク/フットワークやドラムンベースなどに対するスタンスとか、ジャズ的な要素の導入といった具合に。お互いに意識しているのかはわからないが、両者の今までの軌跡からは音楽性の変遷にも何だかリンクする部分が感じられる。

 ただし、今回のマシーンドラムの新作『ヒューマン・エナジー』が非常にポップで(曲によってはR&BやEDM的な方向性も持っている)、明るくポジティヴな要素が強いものであるのに対し、フォルティDLの『ヘヴン・イズ・フォー・クイッターズ』はどちらかと言えば地味な印象で、内省的な色合いが強いように感じた。陽と陰、表と裏とでも言うか、そんな2枚のようでもある。クイッターズには止める者、臆病者といったネガティヴな意味があり、そんな逃避者たちの世界がタイトルになっているようだ。アルバムを作るにあたり、孤独な人が癒された気分になる手伝いをしたいとフォルティDLは語っており、クラブのダンス・フロアではなく、ひとりでいるときのサウンドトラックというのが『ヘヴン・イズ・フォー・クイッターズ』の方向性である。フォルティDLは前作『イン・ザ・ワイルド』のときも、その前のアルバムにあたる『ハードコラージュ』でのダンス性やブレイクビーツ感の強いサウンド・コンセプトに対し、アンビエントでリスニング性の高い作品を制作するという方向性を打ち出していた。『ヘヴン・イズ・フォー・クイッターズ』はそれをさらに推し進め、多少のゲスト参加はあるものの、自身のベッドルーム・スタジオで孤独に作品制作をしている姿が目に浮かぶような作品である。〈ニンジャ・チューン〉を離れ、自身が主宰する〈ブルーベリー・レコーズ〉からのリリースという点も、彼が初心に戻り、ひとりでコンパクトに制作できる環境を選んだということの表われではないだろうか。

 その少ないゲストの顔ぶれは、〈プラネット・ミュー〉の主宰者で、多大な影響を受けるとともに盟友でもあるマイク・パラディナス(今回はミュージック名義で参加)、シンガーソングライター、写真家、モデルと多彩な顔を持つハンナ・コーエン、今年デビュー・アルバム『コントロール』をリリースし、ロンドンの新鋭シンガーソングライターとして注目を集めるロージー・ロウである。“インフィナイト・サステイン”でのハンナ・コーエンのヴォイスは、牧歌的で浮世離れしており(たとえるならケイト・ブッシュ的か)、『ヘヴン・イズ・フォー・クイッターズ』のカラーにとてもマッチしている。“ドラッグス”でのロージー・ロウもメランコリックで、アルバム全体がそのように美しくて感傷的な色合いが強い。比較的ビート感の強い“フィジッド・エア”ではマイク・パラディナスのキーボードをフィーチャーし、エレクトロニカとジャジーなブレイクビーツの融合という世界を見せる。ジャズ的な観点から見ると、この曲やサックスのリフが印象的な“ブリッジ・スポット”は、1990年代半ばのジャズとダンス・ミュージックとの関係性を思い起こさせるようで、個人的には何だか懐かしい。

 “リヴァー・フェニックス”は夭逝した映画俳優へのレクイエムだろうか。このアルバムを象徴するような憂鬱さが詰まったような曲である。“ショック・セラピー(ショック療法)”は前作の“デンジャー”を踏襲した作品だが、本作ではずっとアンビエント寄りとなっている。そうした流れのままアルバムは終盤へと向かい、女性スキャットが舞う“ウィスパー・ダイヴィング”では儚く美しい幻想世界を描く。これがフォルティDLの思い描く天国なのだろう。“オオサカ・ファントム(大阪の幽霊)”は来日時の体験などがもとになっているのだろうか。“リヴァー・フェニックス”同様に、何かのレクイエム的なイメージが感じられる。こうした後半のアンビエントな展開は、マシーンドラムの前作『ヴェイパー・シティ』に近いところも見受けられる。そして、最終曲“D&C”は浮遊感を湛えて進む中、終盤で力強いビートが差しこまれ、再生や未来といったイメージを感じさせる。ハンナ・コーエンとロージー・ロウのヴォーカルを除き、ほとんどインストで占められたアルバムだが、それが逆に我々のイマジネーションを喚起するものとなっており、「孤独な人のためのサウンドトラック」という彼の試みは実り多いものになった。

小川充