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木津毅   Oct 28,2016 UP
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 『ミュージック・ハズ・ザ・ライト・トゥ・チルドレン』(1998)の夢はいまも続いているのだろうか。そのドリーミーでヒプナゴジックな感性はインターネットを介しつつ21世紀にあらゆる場所に行き渡り、多くの「チルドレン」を覚醒させずに眠らせた……が、夢は永遠には続かない。いま、その優しいベッドルームからゆっくりと足を踏み出したその例として挙げられるのが、このティコではないかと思う。サンフランシスコ拠点のスコット・ハンセンによるプロジェクトの新作だ。

 5作めとなる本作ははっきりとバンド・サウンドである。ティコが紹介されるときにしばしば使われる「アンビエント・プロジェクト」というタームからは、もはやかなり距離があるように思われる。注目を集めるきっかけとなった『ダイヴ』(2011)、そのボーズ・オブ・カナダからの残響としてのエレクトロニック・サウンドのイメージがいまも強いのだが、前作『アウェイク』(2014)で3ピース・バンドとなって以来、非常にリアルタイム感のある演奏をするコンボ・スタイルの側面が強くなっている。彼らのジャンルはアンビエント、IDM、ダウンテンポ、チルウェイヴ(!)、ポストロックなどと説明されているが、現在このなかでもっとも近いのはポストロックだろう。オープニング・トラックの“Glider”をトータスの曲だと言われたら、信じてしまうひとも少なくないだろうと思う。フローティング・ポインツのライヴにロック的な感性を感じたというレポートが上がっているが、あるいはここにポストパンク/ニューウェイヴの風味を覗かせたニコラス・ジャーの新作を並べてみれば、エレクトロニック・ミュージックのプロデューサーがバンド・スタイルの可能性を更新しているように見えてこないだろうか。
 『エポック』でとくに耳に残るのは、粒の立ったギターの音と生ドラムが織りなす叙情的なシークエンスである。また、多くはシンセで鳴らされるメロディは非常にキャッチーで、平たく言えば歌っている。ヴォーカル・パートに近い感覚だ。わかりやすいのは先行して発表された“Division”で、7/8のリズムでほとんどシューゲイズ・バンドのようなフィードバックが吹きすさんでいる。沈み込むのではなく、上方へ向かっていくような開放感、または恍惚。メロウでアンニュイだが、幸福感がじわじわ滲んでくる。だがそれは「ドリーミー」というよりは目が覚めている……前作のタイトルが『アウェイク』というのがわかりやすい。そんな「ロック・サウンド」で、それこそトータスの『TNT』(1998)を思わせるようなゆらゆらと心地いい感覚がずっと続いていき、時折ドラマティックな展開が訪れる。イーヴン・キックのタイトル・トラック“Epoch”などはダンサブルでありつつ、5分半のなかでスケールの大きな展開を聴かせてくれる。僕はライヴは未見だが、さぞかしストレートに気持ちいいものではないかと思う。
 ロック・ミュージックが衰退していくなか、いまポストロックが再考されているのは理に適っている。2002年辺りから音楽活動を始めていたというスコット・ハンセンはいわばその時代直系の「チルドレン」であり、エレクトロニカと戯れつつここで真っ当なバンド・サウンドに辿りついている。ただ、そこではロックの意味性ではなく、音の快楽が何よりも優先されているのである。

 ハンセンはまたグラフィック・アーティストとしても活動しており、ISO50の名義で検索してみれば太陽を思わせる丸にセピア調の色がつけられているものなど、サイケデリックな作風のデザインが並んでいる。ぼんやりと眺めているとその淡い色彩は、どこまでも心地いいが眠ってはいない……というティコの音の佇まいと絶妙にリンクしているように見えてくる。

木津毅