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デンシノオト   Dec 14,2016 UP
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 日本のカセット・レーベル〈ダエン〉から、フランシスコ・ロペス、djオリーブ、ローレンス・イングリッシュ、ニャントラ(中村弘二)+ダエンという一級のサウンド・アーティストらによる「時間」をテーマとしたアンビエント・コンピレーション・アルバムがリリースされた。それぞれ20分ちかい静謐なアンビエント/ドローンが収録されており、楽曲単位では4人分のEPといっても過言ではない。そのうえ通して聴くことで、アーティストたちの時間と時間が交錯し、もうひとつの「時間」が溶け合うように生成するのだ。

 そもそもアンビエント的な音楽の再生・聴取は、時の流れを変えることでもある。微細な変化を遂げる音響が空間を満たすだけで、普段の空間と違う時間を生み出すことができるし、ヘッドフォンなどで耳に流し込むような聴取をすれば、外界から分断したような純粋な音響時間に浸ることもできる。いずれにせよわれわれは微細/ミニマルな音楽を聴くことで、はじめは時間を強く意識し、やがてその時間が無化するような感覚を持つことになるだろう。アンビエントとは、われわれのせわしない日常の時間を浮遊させる音楽なのである。それゆえ、ゼロ年代末期以降のアンビエント/ドローンの流行は、情報過多の世界に対する抵抗であり、世界の裂け目への逃避であった。

 その意味でdjオリーブとローレンス・イングリッシュの楽曲は、正しくアンビエント/ドローン的である。柔らかく透明な音色が、まるで朝霧のように持続し、ゆったりと生成変化を遂げる。彼らの音響は、清冽であり、かつ静謐であり、それゆえ世界を浮遊させる透明さがある。音の定位とクリスタルな音色を鳴らすdjオリーブと、半透明のカーテンのようなサウンドをモノラル的な(じっさいはステレオだが)音響空間で聴かせるローレンス・イングリッシュという違いはあれども、聴き続けると互いの音響が侵食しあい、融解するような気分になってくるから不思議だ。djオリーブの“ペア”はA2に収録され、ローレンス・イングリッシュの“バー・フロア・スリーパー”はB1に収録されているので、ちょうどリバースを挟む構成になっており、これが絶妙な継続性とコントラストを演出しているようにも思えた。また、彼らの楽曲を中心に置くことで、アルバム・ラスト曲であるダエンとニャントラの共作“レス”のやや硬い音色のスタティックな音響空間の妙もより効いている。この楽曲はダーク・アンビエントといった趣であり、「陰り」と「透明」の揺れによって、ノイズへと至る直前の不穏さが見事に表現されていた。

 そして本作の1曲めに置かれているフランシスコ・ロペスによる“アンタイトルド #338”。やはり彼の楽曲は圧倒的である。この曲は、近作の『ハイパー・レインフォレスト』に聴かれるような自然界の音響を拡張するハードコア・フィールド・レコーディングの系譜でも、聴こえないほどの微音響によるロウワーケース的な系譜のサウンドでもない。むしろそれらが交錯・接続されたような音響的コンポジションが前面化している。微かな音の蠢きから、やがて生命や自然の進化のように、さまざまな音が接続・多層化されていく。ときに明確なリズムのような反復さえ聴かせてくれる。「時間」を意識したコンピレーション・アルバムで偽装された「自然さ」などではなく、明確ともいえるコンポジションによって、「時間」の崩壊と生成を、はっきりと打ち出してくる彼は、やはり特異な才能の持ち主だ。この曲を聴リスニングすることでロペスの本質が、通俗的なフィールドレコーディングものとは一線を画する音響空間であることが理解できるはず。

 アルバム全体としては、4人の音楽家の楽曲を通して、聴き手の「時間意識」を少しずつ変えていく構成ともいえよう。まず、ロペスが世界の時間の崩壊と再構築を提示し、djオリーブとローレンス・イングリッシュのサウンドは崩壊した世界になる停止する直前の儚い時間の美的なリ・コンポジションを生成する。そして、ニャントラとダエンの共作によって、再びハードコアな現実を再構築し、回帰する。つまり現実、浮遊、現実へ。この浮遊/回帰の感覚は、まるで砂時計のようではないか。砂時計のカタチはミニマムなガラス瓶だが、その結晶の中には無数の砂の蠢きが満ちている。逆さにすれば、いっけん同じ運動を繰り返すが、その運動は以前の砂粒の運動と同じものではない。同一の運動は二度、起こらない。反復/非反復的な時間・音響。その持続と反転。細やかなテクスチャーのミニマルで複雑な生成……。このカセットに収録された音響作品は繰り返し聴くことによって、無数の/未知の音響空間を永遠に鳴り響かせてくれる。「時間」そのもののように。

デンシノオト