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Slowly Rolling Camera

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小川充   Feb 03,2017 UP
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 英国のバンドやミュージシャンの音楽性を形容するとき、折衷的という言葉が使われることがある。いろいろなジャンルの音楽、複数の音楽的傾向を取捨選択し、その融合の中から自身の個性を確立していくことが、英国の音楽には多い。ジャズ・ロックなどはその最たる例であるし、UKソウルやUKレゲエもそうした産物である。アシッド・ジャズからクラブ・ジャズに至る流れは、そうした英国の折衷主義が如実に表れたものである。スロウリー・ローリング・カメラというバンドは、こうした折衷主義という言葉が実によく似合う。まだマイナーなバンドだが、結成は2012年のカーディフに遡り、女性シンガーのディオンヌ・ベネット、キーボードのデイヴ・ステープルトン、ドラマーのエリオット・ベネット、サックスやトロンボーンのデリ・ロバーツから成る4人組である。メンバーはカーディフの音楽サークルの顔見知りで、それぞれ別のバンドでそれまで10年ほど活動しており、デイヴとエリオットはデイヴ・ステープルトン・カルテットで純粋なジャズもやっている。デイヴは〈エディション・レコーズ〉を2008年から運営し、自身の作品のほかにキース・ティペット、ノーマ・ウィンストンなど英国ジャズ界の大御所の作品もリリースしている。ほかにロバート・ミッチェルのパナセア、カイロス・カルテット、ガールズ・イン・エアポーツなど、英国コンテンポラリー・ジャズの最前線も紹介し、非常に意欲的なレーベルだ。

 スロウリー・ローリング・カメラがファースト・アルバムを発表したのは2013年。ジャズにソウルやファンク、ロックを融合したサウンドは、メンバーのほかにゲスト・プレイヤーたちの力を借りて作られた。デイヴはコズミックでフューチャリスティックなシンセからヴィンテージ感溢れるオルガンやローズまで多彩に操り、デリは管楽器意外にエレクトロニクスも担当。そして、ディオンヌの深くエモーショナルな歌声、生ドラムとプログラミングを併用し、ドラムンベースなどを咀嚼したエリオットのリズムといった構成で、重厚なダブル・ベースによるジャズを基調に、ギターなどに見られるロック的なテイスト、ヴァイオリンやチェロなどストリングスの導入による陰影に満ちて壮大なサウンドスケープを見せている。アシッド・ジャズ~クラブ・ジャズ的な要素とコンテンポラリー・ジャズ的な要素が一体となったサウンドで、リチャード・スペイヴンなどに共通するところもあるが、ディオンヌの歌が個性のひとつになっており、よりソウルフルな印象を与える。メランコリックでダークな色彩を帯びたテイストから、ダウンテンポ系ではマッシヴ・アタックやポーティスヘッドからジェイムズ・ブレイクなどを引き合いに出すUKのメディアもあったが、個人的にはシネマティック・オーケストラ、トゥ・バンクス・オブ・フォー、4ヒーローあたりを彷彿とさせる作品だった。

 それから3年ぶりに発表したセカンド・アルバムが『オール・シングス』である。ゲスト・ミュージシャンでは、ギターにシネマティック・オーケストラでも演奏し、リチャード・スペイヴンともコラボするスチュアート・マッカラムを招いている点が目に付く。基本的には前作の流れを引き継ぐ音楽性だが、全体的にエレクトロニックな要素がより強まった印象だ。“ザ・フィックス”や“ハイ・プレイズ”などがその代表で、クラブ・ミュージックとしてのエモーションやダイナミズムが前作に比べて濃厚だ。“ザ・ブリンク”のリズム・セクションとファンキーなディオンヌのヴォーカルは、明らかにクラブ・ジャズを意識したものだ。ビリンバウなどブラジル楽器も用いた“デルーシヴ”、オーケストラルなサウンドの“シニシレーション”あたりは、『トゥー・ペイジス』や『クリエイティング・パターンズ』の頃の4ヒーローが蘇る作品。ダークな味わいに富むコズミック・ジャズの“オビリヴィオン”は、シネマティック・オーケストラやトゥ・バンクス・オブ・フォーなどから受け継がれるUKクラブ・ジャズの神髄と言えるだろう。USのジャズとは全く異なる価値観や方法論を持つこのアルバムは、折衷精神が強い英国だからこそ生まれるものなのだ。

小川充