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木津毅   Mar 31,2017 UP
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 メタフィジカルなロックンロール、というのは言いすぎだろうか。だが、スプーンほどいまロック・ミュージックをやることの困難に自覚的なバンドもいないと思うのである。本作の1曲め、タイトル・トラックのコーラスはこうだ――「激しい想い(hot thoughts)で頭がいっぱいだ」。それはロックンロールのクリシェなのかもしれない、が、スプーンは絶対にそれをモダンなものとして響かせようとする。どうやって? ――それは録音である。
 バンド名がカンの曲から取られていることからもわかるように、スプーンはミニマリスティックな演奏に音響実験を取りこむことでサウンドを更新してきた。執拗なほど左右に振り分けられた音や、意図的に歪みやノイズが混入されることでざらついたロウな質感を与える試みなどはスプーンの録音における目立った特徴で、7作めとなる『トランスファレンス』はその側面でひとまずのピークを見せたアルバムだった。逆に言えば技巧が技巧として目立っていたとも言えるわけで、前作『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』は熟練のデイヴ・フリッドマンをプロデューサーに迎えることで、よりソングライティングに自然に沿う形でのプロダクションが実現されていた。フリッドマンを再び共同プロデュースとした9作めとなる本作『ホット・ソーツ』は結論から言うとその方向を押し進めたアルバムであり、その水準で言えば相当な高みに達したと言えるだろう。先述の“ホット・ソーツ”を聴けば一発でわかるが、テレヴィジョン譲りの鋭いギターだけでなく、タンバリンや鍵盤打楽器、ハンド・クラップの鳴りのひとつひとつにまでこだわり抜かれている――が、それは曲自体のファンキーさの奥にすっと後退する。ブリット・ダニエルによるしゃがれた声のシャウト――ロック・ミュージックの決まりごとを避け続けてきたことで一周し、ロックンロールの本質、すなわち「hot thoughts」に肉薄せんとする域にスプーンはいる。

 本作のサウンド自体は方法論的にはミニマル・テクノからの影響が目立つ。“ウィスパーアイルリッスントゥヒアイット”のオープニングでループするシンセのシークエンスに顕著だが、あるいは“ピンク・アップ”のダビーなダンス・ビートなどを聴いても明らかにロック以外の音楽に音のヒントを求めていることがわかる。姿勢としてもっとも近いバンドはレディオヘッドだろうが、ただ、スプーンのほうが結論としてはよりバンド・サウンドに落とし込もうとする意志を感じる。リッチなストリングスが彩る“キャン・アイ・シット・ネクスト・トゥ・ユー”にしても、なにやら94年ごろのブラーのようなダンス・ポップ“ファースト・カレス”にしても、コンボ・スタイルのバンドを大きく外れるものではなく、その演奏でよりファンキーなグルーヴが追求されている。スピリチュアル・ジャズのようなサックスが鳴る終曲“アス”はアルバムのなかでは毛色の違うナンバーだが、総じてロック・バンドであることの可能性をディテールを重視しながら拡張するアルバムだと言える。
 その繊細な実践を積み重ねた上で、最良の瞬間は終盤にやってくる。“テア・イット・ダウン”はソウルに多大なる影響を受けてきたスプーンのソングライティングが衒いなく発揮されたナンバーで、ビターなメロディとコーラス、抑揚がきいた演奏が静かな高揚を演出する。「おれたちの周りに壁を作るならそうすればいい/どうでもいい/どのみち取り壊してやる/ただのレンガと悪意/建てるだけ無駄だ/おれが取り壊してやる」――それはロックンロールにおけるラヴ・ソングの踏襲かもしれないし、閉塞的になっていく社会への抵抗宣言なのかもしれない。いずれにせよ、その情熱は普段は秘められているがけっして失われていないのだ。それこそがスプーンのロック・ミュージックである。

 純粋に音の冒険を楽しむのが目的なら現在ロックはもはや限りなく下位にある「ジャンル」だし、時代性や精神性を考慮しても有効ではなくなりつつあるのが現実だろう。スプーンはそのことに真っ向から抗しながらしかし、ひけらかすこともしない。その意志を裏づけるのは音だと彼らは知っているからだ。

木津毅

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