ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Yukio Edano つまり……下からの政治とはいったい何なのか (interviews)
  2. 廻転楕円体 - 奈落の虹 (review)
  3. 思い出野郎Aチーム - 夜のすべて (review)
  4. 対談:MIKUMARI x OWLBEATS ルードなRAP/実験的なBEAT/生きたHIP HOP (interviews)
  5. The National - Sleep Well Beast (review)
  6. Wolf Alice - Visions Of A Life (review)
  7. The Cinematic Orchestra - ──ザ・シネマティック・オーケストラが10年ぶりのアルバムをリリース (news)
  8. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  9. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  10. Kamasi Washington - Harmony Of Difference / Ryan Porter - Spangle-Lang Lane / Natasha Agrama - The Heart Of Infinite Change (review)
  11. Marcus Fischer - Loss (review)
  12. interview with Shonen Yoshida 日々の桃源郷 (interviews)
  13. Lana Del Rey - Lust For Life (review)
  14. Jessica × Mizuha Nakagawa × Prefuse 73 ──クラシカルの新たな再生プロジェクト『RE-CLASSIC STUDIES』が始動 (news)
  15. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  16. Kedr Livanskiy - Ariadna (review)
  17. interview with IO - KoolBoyの美学 (interviews)
  18. special talk : Shota Shimizu × YOUNG JUJU 特別対談:清水翔太 × YOUNG JUJU (interviews)
  19. interview with Ryohu ロマンティックあふれ出す (interviews)
  20. interview with YURUFUWA GANGゆるふわギャングがぶっ壊しにキタ! (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Hampshire And Foat- Galaxies Like Grains Of Sand

Album Reviews

Hampshire And Foat

ElectronicaJazzPost Classical

Hampshire And Foat

Galaxies Like Grains Of Sand

Athens Of The North

disk union Tower HMV Amazon

小川充   Jul 27,2017 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 〈アテネ・オブ・ザ・ノース〉はギリシャではなく、スコットランドのエディンバラを拠点とするレコード・レーベルである。レーベル設立者のユアン・フライヤーがレア・グルーヴやディープ・ファンク方面のDJなので、〈アテネ・オブ・ザ・ノース〉も主に1960~1970年代のマイナーなソウルやファンクのリイシューを行ない、リリース・フォーマットも7インチが多い(フライヤーはほかにも〈ソウル・スペクトラム〉や〈ソウル7〉など、やはり7インチ中心のレア・グルーヴ系レーベルをやっている)。アルバムではミルトン・ライト、ペニー・グッドウィンなど、やはりマニア垂涎のレア盤をリイシューしており、最近はロウ・ソウル・エキスプレスの未発表作品集を何と初アナログ化させたばかりだ。こうした中、ハンプシャー・アンド・フォートというアーティストの『ギャラクシーズ・ライク・グレインズ・オブ・サンド』は、〈アテネ・オブ・ザ・ノース〉にとって異色のリリースと言えるだろう。レーベルとしておそらく初めての現行アーティストによる作品で、またサウンドもいままでのレーベル・カラーとはかなり異なるものだ。

 このユニットはウォーレン・ハンプシャーとグレッグ・フォートによるコラボレーションで、おそらく恒久的なものではなく、本作のみのために組まれたものだろう。ウォーレン・ハンプシャーはマルチ・インスト奏者で、ワイト島出身のインディ・ロック・バンド、ザ・ビーズのメンバーである。1960年代のサイケやガレージ・ロックから、レゲエやジャズなど幅広い音楽性をミックスさせ、マーキュリー・アワードにもノミネートされたことがあるバンドだ。一方、グレッグ・フォートはザ・グレッグ・フォート・グループのリーダー及び鍵盤奏者で、〈ジャズマン〉から英国らしいディープなジャズ・アルバムを5枚発表していることで知られる。このふたりがどのような経緯で出会い、コラボレーションするに至ったのか詳しいことはわからないが、ユアン・フライヤーのアイデアで一種のライブラリーというか架空のサントラのようなアルバムを作り出した。ふたりのサポートにはザ・グレッグ・フォート・グループのメンバーが名を連ねるほか、英国ジャズ界の重鎮であるスタン・トレイシーの息子で、彼のバンドでも演奏したドラマーのクラーク・トレイシーから、エディンバラ交響楽団のメンバーも参加している。

 基本的にビートは薄目で、アンビエントやチルアウト・テイストのアルバムとなっており、“ザ・ソーラー・ウィンズ(アンド・カデンツァ)”でのグレッグ・フォートのエレピ・ソロとか、極めてシネマティックな光景が浮かんでくる作品集である。サウンドの軸となるのはジャズだが、ブルースやビ・バップから発展してきたアメリカのメインストリーム・ジャズとは、また異なるものだ。クラシックやモダン・クラシカル、現代音楽やミニマル・ミュージックと交わっており、極めてヨーロッパらしいジャズのあり方と言えるだろう。こうした作曲やアレンジ能力は重厚で深遠な“ハウ・ザ・ナイツ・キャン・フライ”あたりに顕著で、マイク・ウェストブルックやニール・アードレイなど、英国ジャズのパイオニアたちの才能を今に引き継いでいる部分も感じさせる。そして、ブリティッシュ・トラッドやケルティック・フォークからの影響を感じさせるのが英国特有で、そこがエディンバラを舞台にした本プロジェクトの真髄ではないだろうか。宇宙的なタイトルの表題曲はじめ、“ララバイ”や“オール・ウォッシュト・アップ”がその典型で、アコースティックでフォークロアなモチーフの楽器演奏が、むしろ宇宙や自然の神秘性を密やかに物語る。フォーキーなテイストとモーダル・ジャズが見事に溶け合った“エンド・ソング”は、エレピやトランペットのソロに雄大なオーケストラ・サウンドも交え、アルバムのハイライトとなる素晴らしい作品である。

 なお、録音はすべてアナログ・テープにより、エディンバラのスタジオで録音後、スウェーデンのスタジオでミックス・ダウン、フィンランドのスタジオでマスタリングとカッティングを行なったとのことで、ハンプシャーとフォート、フライヤーの音に対する拘りが溢れたものとなっている。いまの時代、ここまで音にお金や時間、労力をかけるのはとても贅沢なことで、それを満喫するにはやはりアナログ盤を購入するのが一番だろう(一応、カセット、CD、デジタルでのリリースもあり)。あと、ジャケットは1960年代に活躍したマイケル・ガーリック・クインテットの『オクトーヴァー・ウーマン』をモチーフにし、〈アテネ・オブ・ザ・ノース〉のレーベル・ロゴも今回はその発売元の〈アーゴ〉を真似ている。そんな細部にまで遊び心と、ブリティッシュ・ジャズへの敬愛が溢れた作品である。

小川充