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Kenichi Itoi

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デンシノオト   Sep 19,2017 UP

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 エレクトロニカとリズム/ファンク。このいっけん無関係に見えるかもしれない音楽性は、しかし、唐突な組み合わせというわけでもない。緻密な電子音は微細なプログラムされたビートという共通項によって繋がっているし、その成果は00年代初頭において日本のスケッチ・ショウやドイツの〈~scape〉などのレーベルによって提示されている。
 京都の老舗電子音響レーベル〈シュラインドットジェイピー〉を主宰する糸魚健一もまたエレクトロニカ/ファンクの関係性を深く理解しているアーティストである。彼はサイセクス(PsysEx)名義でポリリズムを追及しながらリズミックな電子音楽/エレクトロニカ・アルバムを計6作ほど発表してきた。エレクトロニカ的な細やかな音響と豊かな中音域を追求したサウンドは本当に素晴らしい。その到達点が2015年に「Ken'ichi Itoi a.k.a. PsysEx」名義でリリースされた『Apex』だろう。高密度にして柔軟という正反対の現象を電子音/ビートという領域に構築・生成した傑作だ。
 そして本作『エン』は、レーベル設立20周年を記念した初の本人名義(Kenichi Itoi)のアルバムである。サイセクス名義とはいささか趣が異なり柔らかで情景的なエレクトロニカを展開している。コンセプトは「縁(えにし)」という。「宇宙、自然、人と人、人と共同体を繋ぐエン=縁=EXN」としての電子音楽とでもいうべきか。まさにレーベル20周年に相応しいテーマといえよう。

 そうしたコンセプトゆえそのサウンドはいつも以上に優しい。情景的/情緒的な電子音楽なのである。精密であっても耳に心地良い電子音楽なのだ。2曲め“Zinew (Zinem OVAL Remix)”の、オヴァルによるリミックス・トラックも本作の意図をよく汲み取ったサウンドとなっている。だが良く聴き込んでみるとさすが糸魚健一のサウンドだ。4曲め“Sigle”など、タメの効いたリズム/ビートが入っているトラックには不思議な音響的ファンクネスが横溢しており、単に優しいだけのエレクトロニカとは一線を画している。5曲め“Auhm”も一聴、ビートレスのエレクトロニカ・トラックだが、音響のリズミックな反復のあいだには不思議なタメとグルーヴすら感じてしまう(ちなみに糸魚は、〈シュラインドットジェイピー〉のほかに、ダンス・ミュージックに特化したレーベル〈ミス〉も主宰している。こちらもぜひチェックして頂きたい)。

 そんな〈シュラインドットジェイピー〉のジャズ/ファンク方面を新たに代表する最新アルバムがカフカ『ポリへドロン』である。彼は大阪を拠点とするビートメイカーだが、そのサウンドの色彩は光のように多様で環境音やギター・サウンドを緻密にレイヤーしたサウンドを聴かせる。加えてNTT/ICCにおけるサウンド・インスタレーションやiPhoneのアプリなど多方面でも活動・活躍しており、ベルリンの〈Project: Mooncircle〉の15周年コンピレーションへの参加やEP「Laws of Nature」をリリースするなど国際的な活動も展開している。
 この『ポリへドロン』は、もともと2016年に〈シュラインドットジェイピー〉のiTunesの配信限定アルバムとしてリリースされたものだが、本年ついに待望のフィジカル/CD化された作品だ。といってもただのフィジカル化ではない。10曲め以降はCD盤用のボーナス・トラックとなっており、既に配信で購入されたリスナーにとっても聴き逃せない構成となっている。
 まるで70年代のハービー・ハンコックが電子音響/エレクトロニカ化したような1曲め“The Light”からアルバム世界に一気に引き込まれる。その後も“Bargaining Point”、“Focal”、“Along the River”など、細やかで凝りまくりながらも肉体的な柔軟性も兼ね備えたリズム/ビートをベースに、エレガントなエレピ、緻密な電子音、ミニマムなサウンドが繊細・緻密にレイヤーされるトラックを続く。そして“Provide”はクリストファー・ウィリッツを思わせるアンビエントなサウンドと細切れにスライスされたマイクロ・ビートが折り重なっていく天国的なサウンドであり、聴き込んでいくと恍惚となってしまうほど。本盤用に加えられたボーナス・トラックもまたアルバムの出来栄えを拡張するトラックばかりなので最後までじっくりと聴き込めるアルバムに仕上がっている。

 聴き手の耳と体をマッサージしてくれるような心地よいエレクトロニカ・サウンドとファンクなビートによるスポーティーなトラックには、10年後も聴ける普遍的な魅力を兼ね備えているように思える。
 そしてこのような「普遍性」こそ〈シュラインドットジェイピー〉が提示するサウンドの魅力ではないか。ファンクネスという普遍性が電子音楽の中で交錯し、融合し、見事にミックスされているのだ。その意味で、糸魚健一『エン』、カフカ『ポリへドロン』もまた末永く聴けるエレクトロニカに違いない。

デンシノオト