ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Meitei 海外で評判の新進電子音楽家、日本文化を語る (interviews)
  2. Wool & The Pants ──ウール&ザ・パンツのNTSラジオでのミックスショーが格好いいので共有させてください (news)
  3. Richard Spaven & Sandunes - Spaven x Sandunes (review)
  4. Bill Callahan - Gold Record (review)
  5. Planet Mu's 25th anniversary ──プラネット・ミュー、25周年おめでとうございます (news)
  6. さよひめぼう ──ネットを拠点に活動、ヴェイパーウェイヴ系のレーベルからも作品を発表しているトラックメイカーが新作をリリース (news)
  7. 11月7日、川崎の工業地帯での野外パーティ、Bonna Potあり (news)
  8. BIM - Boston Bag (review)
  9. Autechre - Sign (review)
  10. ギーク母さんの21世紀女児カルチャー観察記 ピンクに塗れ!~現代女児のキラデコ事情~ 第4回:馬に恋する女の子たち (columns)
  11. Young Girl - The Night Mayor / V.A. - A Little Night Music:Aural Apparitions from the Geographic North (review)
  12. R.I.P. 加部正義 (news)
  13. New Order ──ニュー・オーダー来日公演は2022年の1月に決定 (news)
  14. Bruce Springsteen ──ブルース・スプリングスティーンが急遽新作をリリース、発売日は大統領選直前 (news)
  15. interview with Wool & The Pants 東京の底から (interviews)
  16. interview with Trickfinger (John Frusciante) ジョン・フルシアンテ、テクノを語りまくる (interviews)
  17. The Bug ──ザ・バグの最強ダンスホール沼サウンドが〈Hyperdub〉からリリース (news)
  18. Columns King Krule キング・クルール最新作が宿す乾きの秘密 (columns)
  19. LITTLE CREATURES ──デビュー30周年の節目にニュー・アルバムをリリース (news)
  20. 校了しました ──松山晋也による魂の1冊『別冊ele-king カン大全──永遠の未来派』、予定どおり10/31発売 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Satoshi & Makoto- CZ-5000 Sounds & Sequences

Satoshi & Makoto

AmbientNew Age

Satoshi & Makoto

CZ-5000 Sounds & Sequences

Safe Trip

disk union HMV Amazon iTunes

近藤真弥   Dec 11,2017 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ele-kingに寄稿したCHAI『PINK』のレヴューで、「いま、80年代のカルチャーが注目されている」と書いたが、それはエレクトロニック・ミュージックも例外ではない。なかでも特筆したいのは、ヴェロニカ・ヴァッシカが主宰する〈Minimal Wave〉の活動だ。〈Minimal Wave〉は、2000年代半ばから現在まで、チープで味わい深い電子音が映える80年代のミニマル・シンセやニュー・ウェイヴを数多くリイシューしてきたレーベル。いまでこそ、80年代の作品を発掘する流れはブームと言えるほど盛りあがっているが、そんな流れの先駆けという意味でも重要な存在だ。

 そうしたブームは、日本で生まれた音楽を再評価する動きにも繋がっている。この動きに先鞭をつけた作品といえば、ヴィジブル・クロークスが2010年に発表したミックス、『Fairlights, Mallets And Bamboo ― Fourth-World Japan, Years 1980-1986』だろう。細野晴臣やムクワジュ・アンサンブルなどの曲を繋ぎあわせたそれは、ここではない想像上の風景を示すレトロ・フューチャーな雰囲気が漂うもので、時間という概念から解き放たれた自由を感じさせる。
 その雰囲気はさまざまな人たちに伝染した。アムステルダムの〈Rush Hour〉は、パーカッショニストの橋田正人がペッカー名義で残した作品をはじめ、坂本龍一、吉田美奈子、大野えりといったアーティストの作品を再発して大いに注目された。さらに先述の〈Minimal Wave〉も、トモ・アキカワバヤが80年代に残した珠玉のミニマル・シンセが収められた、『The Invitation Of The Dead』をリリースしている。
 変わり種でいえば、ストックホルムを拠点とするナットリア・トゥナーも見逃せない。2016年にウクライナのウェブマガジン『Krossfingers』へ提供したミックスで彼は、アドバルーンス、比企理恵、インプル加工など、80年代のポップスやインディーものを繋いでみせたのだ。彼もまた、〈Rush Hour〉や〈Minimal Wave〉とは違う角度から、80年代の日本の音楽を再評価した1人と言える。

 そして2017年、またひとつ日本のアーティストに注目した作品が生まれた。サトシ&マコトの『CZ-5000 Sounds & Sequences』である。本作は、1986年から日本で活動してきた2人のアーカイヴ音源をまとめたアルバムで、全曲カシオのCZ-5000というシンセサイザーで制作されたそうだ。リリース元の〈Safe Trip〉が選曲し、マスタリングに至るまでの過程もサポートするなど、かなり熱烈なバックアップを受けている。〈Safe Trip〉を主宰するヤング・マルコが、YouTubeにアップされた音源を聴いてサトシ&マコトに連絡したのがリリースのキッカケという物語も、非常にドラマチックだ。
 こうした背景をふまえて聴くと、確かにヤング・マルコが好みそうな音だと感じた。彼はイタロ・ハウス好きとしても知られ、それが高じて『Welcome To Paradise (Italian Dream House 89-93)』というコンピを〈Safe Trip〉からリリースしている。このコンピは、リスナーの心を飛ばすトリッピーなサウンドが印象的で、それは本作にも見られるものだ。さらに本作は、ジ・オーブやYMOを引きあいに語られることも多い。確かに80年代から90年代前半のエレクトロニック・ミュージックの要素が随所で見られ、インターフェロンやフロム・タイム・トゥ・タイムといった、日本テクノ・シーンの礎を築いたアーティストたちの音が一瞬脳裏に浮かんだりもする。

 一方で本作は、2010年代以降の音楽とも共振可能だ。たとえば、本作を覆う夢見心地な音像は、チルウェイヴ以降に一般的となったドリーミーなインディー・ポップとも重なる。エレクトロニック・ミュージックに馴染みがない者でも、サファイア・スロウズや『Visions』期のグライムスなどを通過した耳なら、本作にもコミットできるだろう。
 もちろん、本作は過去の音源を集めた作品だから、現在の潮流を意識して作られたものではない。だが、その過去が時を越えて現在と深く繋がるのは非常に面白い。そこに筆者は、“表現”という行為のロマンと、それを残すことの尊さを見いだしてしまう。

近藤真弥