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Áine O'Dwyer

AmbientDroneExperimental

Áine O'Dwyer

Gallarais

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小林拓音   Dec 15,2017 UP
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 睡眠音楽、冥界。このLPのライナーノーツにはそう書き記されている。なんでもそれは「亡霊の鼓動」のように聴こえたり「窒息させられたような息遣い」に聴こえたりするらしい。執筆者のデイヴィッド・トゥープはまるで降霊術師のようにベケットやダンテ、心理学者のジェイムズ・ヒルマンなどを召喚しながら、なんとも摑みどころのない描写を続ける。「どのようにして言葉で置き換えられることなく音を聴き、その一方で言葉が不在の聴覚体験を言葉で説明するか」という不可能性と向き合うことをこそ己の仕事と見做すトゥープらしいと言えばらしいけれど、でもやっぱり「睡眠音楽、冥界」なんて言われてもなかなかピンと来るものではない。それはトゥープの試みが半分は成功しているということでもあるのだが、少なくともその「冥界」の音楽が、われわれにリラックスを促す類のソフトで快適なものでないことは読み取れる。

 トゥープの筆を走らせたのは、アイルランド出身のハープ奏者、アーニェ・オドワイアーである。彼女は2012年の『Music For Church Cleaners(教会清掃員のための音楽)』という作品で知られているが、その最新作『Gallarais』は教会ではなく、水底トンネルのシャフトで録音されている。とはいえ「Gallarais」という語には「岩の岬」という意味の他に「異国人の場所の教会」という意味もあるそうで、もしかしたら彼女は教会という建造物(=巨大な楽器)が生み出す音の響きに取り憑かれているのかもしれない(ちなみにこの『Gallarais』には“Beansidhe(バンシー)”という曲も収録されていて、それらゲール語のタイトルから察するに、本作にはケルトの伝承も影響を与えているのだろう。そういう意味でこのアルバムはフォーク・ミュージックでもある)。

 ともあれ、まさにその地下トンネルのおどろおどろしい反響音こそがこの作品を特別なものにしている。ハープが美しい旋律を奏でる冒頭の“Underlight”こそヒーリングの効果を期待させるものの、その背後ではひそかに不気味な音塊がこだましており、その異物感を増幅させるかのように2曲め“Corpophone”以降は実験的なトラックが続いていく。いくつかの楽器と具体音、そしておそらくは即興で歌われたと思しきヴォーカルが絶妙なバランスで拮抗する空間に、それこそ冥界から轟いているかのようなトンネルのドローンが加わることで、どこまでも幽玄な音響世界が立ち現れている。

 そういえば教会と同じように、トンネルもまた冥界(=地下)との交通を可能にする場所だ。つまりトゥープが本作を表現するにあたって「冥界」という単語を用いたのにもちゃんと根拠があったわけで、じっさい最後の曲は“Hounds Of Hades(ハーデースの猟犬)”と題されている(ハーデース=冥界の神、その犬=ケルベロス)。では、冥界とはいったいどんな場所なのか? それは端的に言って、われわれが生活している場所とはまったく異なりながらも、われわれが暮らしている場所のすぐ近くにある世界のことだ。ここでアンビエントが、ふだんわれわれが気づかない周囲の音に注意を向けさせる音楽であることを思い出そう。すなわち、さまざまな音とトンネルの反響によって冥界の気配を察知させるこのアルバムは、様式として以上に思想としてアンビエントであろうと努めているのである。

 本作の妖しげなサウンドの数々に、何かしら宗教的なものを見出す向きもあるかもしれない。だがその宗教性はあくまで古来より久しく伝えられてきた類のそれであって、間違っても新興宗教的なそれではない。2017年は海の向こうで日本産アンビエントが高く評価され多くの作品がリイシューされたけれど、それは新興宗教的なもの、すなわちニューエイジ的なものへの志向がジャポネズリーと手を組んで引き起こした現象だったとも言える。そのようなブームのなかでアーニェ・オドワイアーのこのアルバムは、アンビエントがもともと実験音楽であったことを思い出させてくれる。「睡眠音楽、冥界」とは要するに、アンビエントのことだったのだ。

小林拓音