ele-king Powerd by DOMMUNE

Home >  Reviews >  Album Reviews > Kyle Dixon & Michael Stein- Stranger Things 2 (A Netflix Ori…

Kyle Dixon & Michael Stein

SoundtrackSynthwave

Kyle Dixon & Michael Stein

Stranger Things 2 (A Netflix Original Series)

Lakeshore / Invada / ホステス

Tower HMV Amazon iTunes

近藤真弥   Dec 21,2017 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 ほとんどのリスナーやメディアは、基本的に移り気だ。ある程度食い荒らしたら、次の“最先端とされるもの”に乗り換える。しかしこれは、人が欲望の生き物である以上致し方ないことでもある。筆者としても、より良いものを求める姿勢は大歓迎だし、進化と深化のためにも移り気という名の荒波は必要だ。この荒波があるからこそ、ブリアルの『Untrue』みたいに、リリースから10年経っても注目され、多くの人たちに影響をあたえる作品が生まれるのだから。
 そうした荒波を乗り越えつつあるのがシンセウェイヴだ……と言われても、日本でシンセウェイヴを知る人は少ないと思うので、少し説明を入れておこう。

 シンセウェイヴが盛りあがりを見せはじめたのは、2010年代前半のこと。〈Rosso Corsa〉〈Rad Rush〉〈New Retro Wave〉などのレーベルやその周辺のアーティストたちが旗頭となり、数多くの作品を発表してきた。こうした動きが大手メディアのプッシュではなく、『Synthetix.FM』や『Disco Unchained』といったブログが地道に魅力を伝えつづけたことで広がっていったのも、シンセウェイヴを語るうえでは欠かせない。先に書いたレーベルがバンドキャンプで作品を発表したら、すぐさま集結するサポーターも重要な存在だ。バンドキャンプには、SNSと連動したサポーター欄がある。たくさんのプロフィール写真が並ぶそこでは、ファンがコミュニティーを形成し、新たな音楽との出逢いを促してくれる。こうした草の根的な手法もシンセウェイヴの特徴だ。
 音楽的には、イタロ・ディスコ、ファンク、ハウスといった要素を掛け合わせたものが多い一方で、〈Minimal Wave〉のリリース作品を想起させるミニマル・シンセに近い音もあったりと、バラエティー豊かだ。ドラマ『ナイトライダー』シリーズあたりのレトロ・フューチャーな世界観を彷彿させるアート・ワークが多いのも特徴で、いわゆる80年代のポップ・カルチャーに多大な影響を受けている。

 ここまで書いてきたことからすると、音楽オタクに好まれるニッチなジャンルに思われるかもしれない。確かに、黎明期の頃はそうした側面も目立っていた。しかし、シンセウェイヴの代表的アーティストのひとりタイムコップ1983は、ベラ・ソーン主演の映画『ラストウィーク・オブ・サマー』で楽曲が使われるなど、意外と広く認知されている。さらに、ドナルド・トランプの有力な支持者として知られる白人至上主義者のリチャード・スペンサーが、シンセウェイヴを政治利用したことも記憶に新しい。この動きについて、『BuzzFeed』『The Guardian』『thump』といったメディアが取りあげたことからも、海外では少なくない注目を集めている音楽だとわかる。

 そんなシンセウェイヴが輩出したスターといえば、テキサス州オースティンを拠点に活動するシンセ・バンド、サヴァイヴである。メンバーは、アダム・ジョーンズ、カイル・ディクソン、マーク・ドゥニカ、マイケル・スタインの4人。彼らが脚光を浴びたキッカケは、2012年の作品『Survive』。トロピック・オブ・キャンサーのシングルも扱う〈Mannequin〉からリリースされたこのアルバムは、〈Blackest Ever Black〉や〈Modern Love〉など、当時勃興期を迎えていたポスト・インダストリアル・ミュージックの流れとも共振する妖艶なサウンドスケープが特徴ということもあり、早耳のリスナーたちに支持された。『Survive』以降も彼らは着実にキャリアを重ね、サヴァイヴ以外の課外活動も増えていった。なかでもアダム・ジョーンズは、サウザンド・フット・ホエール・クロウとして、『Cosmic Winds』という印象的な作品を残している。ニュー・エイジやクラウトロックなどの影響が滲むこのアルバムは、聴いていると脳みそが“うにゅ”ってなるほどのトリッピーな音像でリスナーを飛ばしてくれる。
 だが、それ以上に興味深い課外活動は、サヴァイヴの中心人物であるカイル・ディクソンとマイケル・スタインが手がけた、ネットフリックスのオリジナル・ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のサントラだ。2016年にシーズン1が配信されたこのドラマにふたりは、ダークな音像が映えるエレクトロニック・ミュージックを提供し、大きな注目を集めた。それを受けてふたりは、今年配信されたシーズン2でもサントラを担当している。

 そのシーズン2のサントラこそ、本作『Stranger Things 2 (a Netflix Original Series Soundtrack)』だ。シンセサイザーを基調にしたサウンドはサヴァイヴと変わらないが、ふたりなりにサントラという性質をふまえているのか、音数が非常に少ない。シンセ・アルペジオの微細な変化で曲に表情をつけていく手法が目立つ。サヴァイヴの作品では多々見られる、過剰なエフェクト使いがないのも特徴だ。音色を変化させるために、リヴァーブやディレイといったエフェクトを使う場面もあるが、それもシーズン1のサントラ以上に控え目。こうした方向性のおかげで、綿密なプロダクションやストイックなミニマリズムといった、サヴァイヴの作品で見られる要素がより深く楽しめる。強いて言えば、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが手がけた映画『グッド・タイム』のサントラに近い方向性だが、このサントラではハイハットといったドラムの音が使われているのに対し、本作はそうした類の音は一切ない。ゆえにビートはなく、それがシンセサイザーを中心とした本作の多彩な音世界を際立たせることにも繋がっている。

 強烈な金属音が響きわたる“It's A Trap”を筆頭に、インダストリアル・ミュージックの要素が色濃いのも見逃せない。丁寧に磨き抜かれた電子音の中で、殺伐としたドライな音も顔を覗かせるのだ。そこに浮かびあがるスリルと不安は、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の重要な設定である向こう側の世界、つまりアップサイド・ダウンに住むモンスターの恐怖をサウンドで表現しているようにも感じられる。

 シーズン1のサントラと大きく異なる点としては、随所でオマージュ的なサウンドを見いだせることが挙げられる。たとえば、たおやかな雰囲気を漂わせる“On The Bus”の音色は、デヴィッド・ボウイの名盤『Low』に収められた“Warszawa”を彷彿させる。もちろん、そこからもっと遡り、タンジェリン・ドリームやクラフトワークの要素を見つけることも可能だ。他にも、どこか郷愁を抱かせる“Eulogy”ではウェンディ・カルロスの影がちらつくなど、本作はシンセサイザーの可能性を切り開いてきた先達の遺産が多々見られる。

 シンセウェイヴは、海外のサブカルチャーという括りで終わらせるにはもったいないほどの豊穣な音楽的背景を持つ。そう実感させてくれる本作を入口に、シンセウェイヴの深い森を彷徨うのも一興だ。

近藤真弥