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Mica Levi

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デンシノオト   Dec 21,2017 UP

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 いくつものサウンド・エレメントが接続・編集・加工されるミュジーク・コンクレート的な手法を援用しながら、「シネマティック=映画的」な感覚/情感の音楽/音響作品を構築する。2017年のエクスペリメンタル・ミュージックにおいて、そのような映画的なムードを感じさせる作品(アルバム/EP)がいくつもあった。
 それらは皆、音響的には複雑で、多層的で、ときにノイジーですらあっても、しかし聴感上は静謐だった。たとえば坂本龍一の新作『async』における「非同期」の概念とも交錯する。音、音楽、微細なノイズ、楽音などが、まるで映画のシークエンスのように、それぞれが別の層に、イマジネティヴに展開されているのである。
 そもそもミュジーク・コンクレート的な技法を援用することは(サンプリング全盛期の90年代コラージュとの差異だろう)、ヴェイパーウェイヴ~ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー以降、トレンドになっていたし、2010年代のフィールドレコーディング・ブームなども、この「シネマティック=映画的」へと繋がる潮流ともいえるだろう。

 しかし違う点もある。いくかの作品において極めてSF的/終末論的なムードが展開されていたのだ。これは2010年代的なインダストリアル/テクノなどのダークなムードを継承した結果といえよう。「世界の終わり以降の世界」へ。これはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『ブレードランナー2049』と共通するムードでもある。
 映画『ブレードランナー2049』は、『ブレードランナー』のように巨大な虚構世界から消えることのない大きな影響を受けた「子どもたち」(その影響を受けた作家、作品、無数のエピゴーネン、その観客のことだ。そう、われわれは「セカンド・チルドレン」「サード・チルドレン」なのだ)が、しかし、自分たちすべては「その本当の子」ではないという悲しみの映画である。そこにおいて人間/レプリカントの差異は無化してしまう点がポイントだ。主人公「K」もわれわれも正当な「子=続編」になりえないのだ。根拠は最初から剥奪されている。
 根拠を消失したヒトは衰退している。安易な快楽を注入し、遺伝子改良食品で生き延びる。未来都市を濡らす雨はヒトの涙のようだし、降り続ける雪は彼らのヒトの哀しみの結晶である。「涙」も枯れ果てた世界には乾いた砂塵が舞うだろう。そう、『ブレードランナー2049』は、巨大な歴史(文明と文化と科学)以降を生きる「ヒト」たちの「根拠なき生」の哀しみを、映像と音響の力を余すことなく使いながら、まるで約3時間の詩のように構成した映画なのである。

 さらに注目すべきは、そのような世界観/映像を表現するための音楽として、ドローン/ノイズ、アンビエント・サウンドが採用されていた点だ。『ブレードランナー2049』の音楽は当初、ヴィルヌーヴ監督と『ボーダーライン』『メッセージ』などの傑作でタッグを組み、素晴らしい音楽/音響世界を生み出したヨハン・ヨハンソンが手掛ける予定であった。が、しかしその後、ハンス・ジマーも音楽陣に加わったとアナウンスされ、結局、ヨハン・ヨハンソンは降板となり、ハンス・ジマーに一任されることになった。
 この変更には一抹の不安を抱いてしまったが、さすが現代ハリウッドの随一の音楽家の仕事である。完璧だ。この映画の音楽を、オウテカ以降の逸脱するテクノロジカル・ミュージックとしての2010年代的なエクスペリメンタル・ミュージックの潮流に組み込むことは決して不可能ではない。
 ゆえに私は『ブレードランナー2049』の世界観とムード、そして音楽/音響は、2017年の「シネマティックなエクスペリメンタル・サウンド」を考えるうえで重要なポイントと考えている。これらは同時代の作品なのだ。

 ミカチューことミカ・レヴィの新作『Delete Beach』も、そんな2017年的なムードを濃厚に持っているシネマティックな音響作品であった。もともとは日本人アニメーターが参加したノルウェイの短編SFアニメーションであり、本作はそのサウンドトラックである。
 短編SFアニメーション『Delete Beach』は、フィル・コリンズ監督と日本人アニメーター江口摩吏介による作品。制作には日本のSTUDIO 4℃も関わっているという。江口は1985年の杉井ギサブロー監督作品で、細野晴臣が音楽を手掛けた『銀河鉄道の夜』の作画監督を務めたベテラン・アニメーターだ。
 そしてミカ・レヴィにとっては『アンダー・ザ・スキン 種の捕獲』『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』に続く映画音楽の仕事となる。ハリウッド大作ともいえる前2作から日本アニメの「意匠」をまとった外国人による監督のアーティスティックな短編アニメという振れ幅が実に興味深い(ミカチューとしてインディペンデントな活動も展開するミカ・レヴィの魅力だろう)。リリースはデムダイク・ステアが主宰する〈DDS〉から。マスタリングは名匠マット・コルトンが手がけている。

 『Delete Beach』の作品世界の設定はSF/ディストピアなムードに満ちており、とても魅力的だ。舞台は「無炭素社会」になった地球の未来世界。そこにおいて「レミングス=バーナーズ」という反資本主義組織の活動に身を投じた少女が主人公である。「バーナーズ」は炭素由来の燃料が違法になった世界において、「オイルによって「スローバー」を描いてまわる」組織のこと。この「オイルの完全なムダ使い」がバーナーズからの欺瞞と搾取に満ちた世界へのメッセージらしい。本音源の中で彼女は語る。

私は飛ぼうとした。そして失敗した。地下組織の同志たちに合流して、時間と共にオイルになろうとしてた。海底のパラレルワードとも呼ばれる場所で。旅立って新しい元素として生まれ変わろうと思った。そのつもりだった。

 ミカ・レヴィによるこのサウンドトラックは、単に音楽を収録したものではなく、主人公である少女のモノローグが日本人声優によって語られ、そこにインダストリアル/ノイズなダーク・アンビエントな音響が映画の進行のように展開する音響作品となっている。
 ディストピアSFを思わせる世界観のダイアローグ/ナレーションとノイズ/インダストリアルなサウンドのマッチングが素晴らしく、聴いているだけで世界観の中に没入できる。インダストリアル/ノイズなサウンドにこのような方法論があったのかと驚いたほど。アニメ+ミュジーク・コンクレートだ。
 アルバムには日本語版“Delete Beach (Japanese)”に加えて、本編のサウンドから抜粋されたチェロの低音に電子音/ノイズを走らせるトラック“Interlude 1”、セリフを抜いた“Delete Beach (Instrumental)”、ミニマルで不穏な旋律と音響の“Interlude 2”、英語版“Delete Beach (English)”が収録されている。

 この『Delete Beach』は、ディストピア的な世界で存在の無根拠と生に引き裂かれる少女の存在と言葉を通じて、ポスト・インターネット社会・世界の不穏を想起させる極めてアクチュアルな作品に思えた(日本公開が待たれる)。

 そして、『Delete Beach』と同じくSF映画的なムードを放つアルバムが、謎に満ちたベルギーのサウンド・アーティストObsequiesのデビュー・アルバム『Organn』である。リリースは、〈Planet Mu〉傘下で、あのヴェックストのクエドが主宰する〈Knives〉。

 フランスの詩人ロートレアモンの詩「Les Chants de Maldoror」からインスピレーションを得たという本作は、電子ノイズ、そしてダーク・アンビエントの痕跡のような音楽的エレメントが、霞んだ空気感の中で交錯している。まるで21世紀初頭に復活したロマン主義者の深層心理の彷徨のように。レーベルからは「愛と二重性についての記録」とアナウンスされているが、電子ノイズ、アンビエント、インダストリアル、微かな楽器音などが、ときに複雑に、ときに細やかに、ときにノイジーに、ときにロマンティックに、しかし大胆に、繊細にコンポジションされていくことで、21世紀も都市生活者の実存的な不穏と不安を音響化していく。A4“Asthme”の掠れるような声と暴風のようなノイズの交錯は、孤独な魂の声にならない叫びのようにも思えた。その意味で2013年にリリースされたジェームス・レイランド・カーヴィーによるザ・ストレンジャーがアルバム『Watching Dead Empires in Decay』で展開した都市生活者の孤独な魂が憑依・継承したかのような作品だ。
 もしくは、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの『ガーデン・オブ・デリート』以降の音響世界だろうか。『ガーデン・オブ・デリート』の音響空間は、バラバラに分断した世界を、ジャンクな音楽要素をコンクレートしていくことで、「引き裂かれた世界」を音響化/音楽化するようなムードがある。リリースから2年を経過した現在のエクスペリメンタル・ミュージックは、さらにディストピアな感覚を継承し、新たな音の結晶体として統合するかのような音響/音楽に変化を遂げているのだ(『ガーデン・オブ・デリート』がいかに重要なアルバムであったことか!)。

 そう、『Delete Beach』や『Organn』は、ダークな世界観のSF的ナラティヴによって、われわれ聴き手にロマンティックな哀しみ/悲しみの美学を生成し、人の荒んだ心を沈静化する力を持っている。これらの音楽/音響には、「終わりの世界以降の世界」を生きる「子」たちの悲哀があるのだ。『Delete Beach』と『Organn』が、映画『ブレードランナー2049』と同じ2017年にリリースされたことはやはり重要だ。かたやハリウッド大作、かたやインディペンデントの音響作品と、その規模も表現方法はまったく違いながらも、両極において同時代のムードが紛れもなく共有されているのである。優れた芸術作品は時代の無意識を反映してしまうものなのだ。

デンシノオト