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柴崎祐二   Mar 02,2018 UP
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E王

 90年代からオルタナティヴ~インディ・ロックを牽引し、例えばダーティー・プロジェクターズやフリート・フォクシーズなどといった後進の世代の台頭以前から長く活動を続けてきたようなベテラン・アーティスト達にとって、今このように様々な「ポスト〇〇」が喧伝され、また、インディ・ロック自体の過渡期論が久しく語られる時代において新たな作品をなお発表するということは、一体どういった意義を孕んだことになるのだろうか。
 デビュー以来クオリティの担保された作品を数々リリースし続けその評価を獲得していく中で、品質とオリジナリティを保ち続けているからこそ(それは本当に尊く、多くのアーティストが成し得ないことでもあるのだが)、時には却ってマンネリズムの誹りを受けることもあったかもしれない。彼らの表現はそれぞれ爛熟期を迎え、岐路に立たされていると言っても良い。

 ここでご紹介するキャレキシコも、これまで既に8枚のアルバムをリリースするベテランであり、1996年のデビュー当時から、アメリカン・ルーツ・ミュージック、テックス・メックスやマリアッチなどのメキシコ音楽を融合させた表現を一貫して行ってきた。はじめここ日本では、当時隆盛していたオルタナティヴ・カントリー・シーンの一群のひとつとして認識されていた記憶があるが、その映像的音響センスや、ルーツ・ミュージックに留まらない音楽的射程の広範さなどから、ポスト・ロックの文脈でも盛んに受容されていくようになる。同時期のウィルコがオルタナティヴ・カントリーのシーンを越えて、ルーツ志向と先進性を両輪とする、アメリカのインディ・ロック・バンドの「正しきイデア」を作り上げたとき、キャレキシコもまた、その多様且つハイブリッドなルーツ・ミュージック志向とともに独自の音楽性を築き上げていた。
 そして昨今のウィルコが、そのソングライティングとプロダクションの精度をさらに突き詰め、ロックという形態の内奥へ迫る「偉大なる中庸」とも言うべき地平に至ることで、むしろそのマンネリズムを逆手に取るような戦略を選択し成果を上げていいるのに対し、キャレキシコは常にロック・ミュージック以外の(あえて言えば「非アングロ・サクソン的」)音楽からも多くその滋養を吸収してきたというスポンテニアスさゆえに、ある時期から却ってその達成自体よりも、「アメリカン・ロックとメキシカン・ミュージックを融合した音楽を演るインディ・アクト」、として、記号的に理解されてきてしまったフシがあったように思う。個々の作品性より、バンドに纏わされた総体としてのイメージこそがキャレキシコに付与された評価を牽引し、時には評価を抑えてしまったのではなかったか。「かつて見たアメリカ南部を舞台としたロードムービーのような世界観」「国境エリアで語られる架空のフォークロア」。そういった評価が獏と共有されてきた気がする。
 
 しかし、今作『ザ・スレッド・ザット・キープ・アス』で彼らは、これまで培ってきたそういったアメリカーナ的イマジナリズムともいうべき作法に、新たに極めて大きなトピックを持ち込んだ。作詞作曲を担当するジョーイ・バーンズとジョン・コンヴェルティーノの2人は、これまでも2006年作『ガーデン・ルーイン』でブッシュ政権下における状況を反映するなどその萌芽を見せてはいたものの、今回の作品ではトピカルな問題を扱うことについての躊躇をはっきりとかなぐり捨てることにしたのだ。
 前作リリースの2015年以降、アメリカ社会でもっとも大きなトピックといえば、いうまでもなくドナルド・トランプ大統領の誕生であることは論を待たない。アリゾナ州ツーソンというメキシコとの国境の街で活動をはじめ、ヒスパニック系のメンバーも抱えたバンドが、ドナルド・トランプの大統領就任以降に打ち出された国境や移民についての政策に鈍感で居続けるはずはなかった。ここで語られる国境エリア(周縁であり、政策推進側の見方からすればいわば「辺境」)での人間模様が織り込まれた様々なバラッドは、社会と経済が爛熟しまた分断する一方で、ボーダーを行き来し、ときにそこに屯する人びとがいかにハードな時代を迎えているかといったことについての、物語作家としての表明でもあるのだ。同時にそのような状況の中で、我々(彼らは登場人物を「辺境の第三者」と考えず「I」や「We」そして「You」といった人称で歌う)は一体どのような美しさをようやっと見つけていくことができるのか、といったことを問う。
 アルバム・オープナーにして、まるでデヴィッド・ボウイ「ヒーローズ」の荘厳なイントロを想起させるような極めて躍動的なロック・チューン“End of the World with You”で描かれる、終焉の中で生まれるかすかなロマンティシズムは、愛というものこそが、この2018年でも、いや、もっと大きな見取りを取るなら、ポストボダン以降の時代でも決して雲散霧消してしまうことのない価値であり美しさであるという、古くて、しかし同時に圧倒的に新しいメッセージを称揚するものになっている。辛苦と安らぎが複層的に語られることにより、痛烈なオピニオンであると同時に、我々への細やかな慰撫ともなっているのだ。
 また今作は、バンドの本拠地を離れ、北カリフォルニア沿岸の自然豊かな地区に建てられた家屋を改装した「パラミック・ハウス」というスタジオで制作されているが、そこでの制作体験も手伝って、彼らはエコロジカルな問題への意識も強く打ち出している。これまでに無いほどにルーラルでフォーキーな色香が薫る“Girl in the Forest“では、消費主義批判や環境保護、森林伐採抗議といったトピックも織り込まれるなど、アルバム全体を通して、現代社会へのトピカルな視線が様々に語られる。
 
 インディ・ロックの盛夏が過ぎようとしているかもしれないこの時代において、常に真摯に、丁寧に自らの音楽を作り続けてきたキャレキシコが、9枚目にしてこのような作品を世に問うたことの意味は、もしかしたら我々が考えている以上に大きいかもしれない。これまでと同様、アメリカ南部~メキシコ音楽の豊穣をハイブリッドに作品化するという手腕には一点の曇りもないし、相変わらず鋭敏な音響意識も冴え渡る。しかしながら、今作ではそれを上回るインパクトで、肉体的なドライヴ感が各曲に横溢している。ソフトフォーカスのカメラによってファジーに捉えられていたこれまでの世界が、そのフィクショナルな語りに増して、聴き手が感情移入することを厭わせないような堅甲な身体性を獲得した。
 今、明らかにキャレキシコは活動の新たな段階に入っていると言っていいだろう。そしてその新たなパラダイムは、おそらくはキャレキシコ以外の多くのベテランとされるインディ・アーティストたちも見据えていくことになるであろう、時代状況が要請するある種の必然と言えるのかもしれない。

 あのリーマン・ショック以降に、「アメリカ」という高度資本主義体制が緩やかな終焉を露呈しつつあったとき、ほとんど全ての人たちは、無気力と緩慢な諦念をもってそれを見つめていたはずだった。しかしまさかその後に、今直面している、真実(Truth)をも相対化してしまうような、このようにドラスティックな状況が控えているとは予想だにしていなかった。1976年にイーグルスが『ホテル・カリフォルニア』で気怠く描き出したアメリカ建国200週年の風景の後に、パンク・ロックが社会の風景をかき乱したように、ポピュラー音楽の世界でもそういった大きな胎動が再び控えているのかどうかはまだわからない。しかし、倦怠から突如としたカタストロフィを迎えているこの時代それ自体が、我々へ逆説的に見取り図を提示する形で、ポピュラー音楽にも変革を強いているということは紛れもない事実であろう。そしてそれはもちろん、インディ・ロックがこののちに歩んでいく道筋とも深く関連することでもあり、そういった時代状況下で「インディ」というひとつの価値が一体どのように変遷し位置づけられるのかといった議論に、荒ぶる風を吹き込み続けるだろう。

柴崎祐二

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