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ドリアン・コンセプトことオリヴァー・ジョンソンは、インタヴューで自身のことを「インプロヴァイズされた音楽とエレクトロニック・ミュージックの真んなかあたりのどこか」に位置すると述べている。「イン・ビトウィーン(中間)」というのは、彼が音楽をやるにあたって常々存在しているもので、デビュー・アルバムの『ホエン・プラネッツ・エクスプロード』(2009年)でのメタリックでインダストリアルなグリッチ・サウンドとアヴァンギャルドなフリー・ジャズ、セカンド・アルバムの『ジョインド・エンズ』(2014年)でのミニマルなエレクトロニカとクラシックや室内楽といった具合に、それぞれ異なる世界の狭間に自身を置いてきた。サンプリングなどのエレクトリックなプロダクション、シンセイサイザーやエイブルトンなどの電子楽器を用いつつ、人間が生の楽器で演奏するアコースティックな世界にインスピレーションを得て作られる彼の音楽は、ジャズの軸となる即興演奏をエレクトロニック・ミュージックの分野で展開するもので、たとえばゴー・ゴー・ペンギンがエレクトロニック・ミュージックをアコースティックな手法で生演奏するのとまったく逆のアプローチで、でも本質的には同じ視点を持つ音楽をやっていると言える。
そうしたドリアン・コンセプトのイノヴェーターである点にフライング・ロータスは共感を示し、これまでも彼のバンドに招へいするなど親交を深めてきた。〈ブレインフィーダー〉で作品をリリースするテイラー・マクファーリンやジェイムスズーも、ドリアン・コンセプト同様に「イン・ビトウィーン」な視点を持つアーティストであり、イノヴェーターたちである。近年はサンダーキャットなどジャズの分野との「イン・ビトウィーン」な作品が目立つ〈ブレインフィーダー〉だが、いまのレーベルの方向性はドリアン・コンセプトのそれにとても合致しており、新作の『ザ・ネイチャー・オブ・イミテーション』がリリースされることになった。『ジョインド・エンズ』から4年ぶりのアルバムで、“ア・マザーズ・ラメント”や“ザ・スペース”のように、『ジョインド・エンズ』で見られた緻密で繊細なアプローチを引き継ぐところもありつつ、“Jバイヤーズ”などでは初期作品で見られた大胆でダイナミックなビート感の強いアプローチもあり、彼自身で振り返るようにドリアン・コンセプトの音楽を総括するような作品集となっている。そして、ドラマチックに幕開けするオープニング曲の“プロミセス”に見られるように、これまで以上にポップな感覚が表れているアルバムだ。もちろん、ドリアン・コンセプトにとってポップであることは実験的なことであり、楽曲は予測不能な方向へとトリッキーに展開していく。“エンジェル・シャーク”のメロディもとてもポップであるが、その実リズムは非常に複雑なもので、楽器演奏など含めてとても高度なところで楽曲が作られている。“E13”はキーボードの生演奏がサンプリングを介して、さらに即興的に構築されていく。エレクトロニクスによるインプロヴィゼイションを示す好例と言えるだろう。
ドリアン・コンセプトは『ジョインド・エンズ』からヴォーカルを披露していて、それはテクスチャーとして人間的な要素を加えるために用いていたわけだが、『ザ・ネイチャー・オブ・イミテーション』においては“ペデストリアンズ”や“ユー・ギヴ・アンド・ギヴ”のように、感情や感覚をより豊かに表現するものとなっている。ただし、それだけが突出することなく、あくまで楽器の一部として作られている。エレクトロニックな要素とアコースティックな要素の中間的な音楽というのは、こうしたところから生まれてくるのだろう。倍速のビートの中で行き来する“セルフ・シミラリティ”では、リズムをポップに展開させることにより楽曲に生命力を与えている。ビートから作品のモチーフを膨らませることの多い彼の真骨頂と言える作品だ。同様にファンク・ビートを基調とする“ノー・タイム・ノット・マイン”や“ディッシュウォーター”も、ドリアン・コンセプトのビート・サイエンティストぶりが際立っている。ポップな感性と高度な技術、実験性を兼ね備えたアルバムが『ザ・ネイチャー・オブ・イミテーション』だ。
小川充