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Bitter Blood: A Collection Of Archival Recordings

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小林拓音   Sep 01,2018 UP
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 労働がしんどいのは、そこに強制が入り込んでいるからだろう。偉い人から命令されていやいや作業するケースだけではない。「こういうことをやってみたいです」と自分から積極的に提案した場合もそうである。一度それが業務として動き出してしまったら、「やっぱりやめた」と放り投げられなくなる。「みんなが迷惑する」「責任を持て」「そもそもお前が言いはじめたことだろう」と、何がなんでもやり遂げなければならない状況に追い込まれる。人の気分はつねに移ろいゆくものだというのに、ある瞬間に抱いた思いを何週間も何ヶ月も維持し続けなければならない。だから、つらい。あらゆる労働はたぶん、そんなふうに人間の自然なあり方をねじ曲げることによって成り立っている。

 ブラック・ロッジことダン・ドウェイヤーは、90年代初頭から活動するマンチェスターのプロデューサーである。かつてはゲスコムの一員だった人物で(いまも?)、ダニエル72名義ではオウテカのファースト・アルバムにもイメージの部分で関わっている。けれどもその詳細は謎に包まれており、またそれほど頻繁に音源を発表しているわけでもない。2000年前後に〈Mo' Wax〉などから数枚のシングルをリリースしており、おそらくその際に繋がりができたのだろう、2010年にはウィル・バンクヘッドの〈The Trilogy Tapes〉からカセットを出してもいるが、目立ったリリースはそれくらいのものだ。
 そんな彼が、なぜか最近になって急に活発に音源を発表しはじめている。去る7月には復活した〈Arcola〉から12インチがリリースされ、00年代初頭に〈Mo' Wax〉から出る予定だったにもかかわらずお蔵入りとなってしまっていた音源たちが、ようやく日の目を見ることになった。そして、それに続く形で送り出されたのがこの『Bitter Blood』である。副題に「A Collection Of Archival Recordings」とあるから、こちらも以前からぽつぽつと作り溜めてきたトラックを集めたものなのだろう。思いついたときに曲を作って、思いついたときに外に出す。とても自然である。

 収録されている曲たちはどれもロウファイで、そこはかとなくシネマティックな雰囲気を携えてもいる。リエディットかもしれないけれど、ぽこぽこしたビートと荒い持続音のうえをかわいらしいノイズとメロディが楽しげに通り過ぎていく“Jamais Vu”や、ご機嫌なブレイクスのうえでノスタルジックなシンセと気だるげなヴォーカル・サンプルが共演を繰り広げる“Wodwo”なんかはとってもチャーミングだし、あるいは、謎めいた音声の反復とむせび鳴く弦の共存が名状しがたい空気を醸し出す“Black & Red”や、不穏な弦がひたすらうねうねと這っていく“A Cross Inverted”など、どの曲も入念に練り上げて作ったというよりは、ぱっと思いついた組み合わせを試しているような仕上がりで、なんとも遊び心にあふれている。

 無邪気というと語弊があるかもしれないけれど、こういう素朴に音と戯れているような感じの曲たちを聴いていると、なんだか朗らかな気分になってくる。これはきっと労働の成果なんかではなくて、遊びの賜物なんだろう。誰から強制されるでもなく、とくに目的もなく、思いついたときに、思いついたまま、えいやっと試してみる。それこそが私たち人間の本性であり、自然なあり方というものだ。とまあそんなふうに、ブラック・ロッジのこの素敵な作品集は、日々の労働に追われてぼろぼろになっている私たちに、たいせつなことを思い出させてくれるのである。

小林拓音