ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Lucrecia Dalt & Aaron Dilloway - Lucy & Aaron (review)
  2. Abstract Mindstate - Dreams Still Inspire (review)
  3. interview with Jeff Mills + Rafael Leafar 我らは駆け抜ける、ジャズとテクノの向こう側へ (interviews)
  4. Marisa Anderson / William Tyler - Lost Futures (review)
  5. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第6回 笑う流浪者、あるいはルッキズムに抗うための破壊 (columns)
  6. Cleo Sol - Mother (review)
  7. Columns 「実用向け音楽」の逆襲 ──ライブラリー・ミュージックの魅力を紐解く (columns)
  8. 地点×空間現代 ——ゴーリキーやドストエフスキー、ブレヒトや太宰の作品を連続上映 (news)
  9. Lucrecia Dalt - No Era Sólida (review)
  10. Wolf Eyes - I Am A Problem: Mind In Pieces (review)
  11. Tirzah - Colourgrade (review)
  12. Lawrence English - Observation Of Breath (review)
  13. P-VINE & PRKS9 Presents The Nexxxt ──ヒップホップの次世代を担う才能にフォーカスしたコンピがリリース (news)
  14. interview with BADBADNOTGOOD (Leland Whitty) 彼らが世界から愛される理由 (interviews)
  15. Columns Electronica Classics ──いま聴き返したいエレクトロニカ・クラシックス10枚 (columns)
  16. Little Simz - Sometimes I Might Be Introvert (review)
  17. Politics 消費税廃止は本当に可能なのか? (1) (columns)
  18. Saint Etienne - I've Been Trying To Tell You (review)
  19. Soccer96 - Dopamine (review)
  20. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第3回 映画『金子文子と朴烈』が描かなかったこと (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Yves Jarvis- The Same But By Different Means

Yves Jarvis

Avant PopElectronicaFolk

Yves Jarvis

The Same But By Different Means

Anti-

Bandcamp

三田格   Mar 25,2019 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 今期はTVドラマに面白い作品が多く、最終回まで見てしまったものが5作品もあった(最後の最後まで低視聴率だった『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』が個人的にはダントツでした)。興味深かったのは登場人物が人の悪いやつばかりという『グッドワイフ』が面白かったのは、まあ、当然だったとして(オリジナルはアメリカ作品なのでキャラクターは日本人離れし過ぎだったけれど)、逆にいい人しか出てこない『初めて恋をした日に読む話』は面白くなるはずがないと思ったにもかかわらず、なぜか最後まで楽しめてしまった。いい人しか出てこないなんて、話に陰影のつけようがないし、そもそも世界が単調で嘘くさいだけだと頭ではわかっているのに……(それこそ『3年A組』は人間の裏表だけで突っ走ったようなドラマだったし……)。音楽も同じくで、少しは毒だったりネガティヴな要素がないとリアリティのあるものにはならないのではないかと頭では思うのに、どういうわけかごくごくたまにピュアなムードだけで押し切られてしまうこともある。ここ1ヶ月ほど繰り返し聴いていたイヴ・ジャーヴィスもそうで、あまりに無防備で素直な作風なのに、それとなく心に引っかかり、何度も聴いてしまったというか。こういう人もたまにはいるんだよな。

 世田谷の空が狭すぎるならケベックの空はもっと狭いのか。弾け出すには何か足りないどころか、弾け出すという考えにも至らないのだろう。モントリオールのジャン・セバスチャン・オーデットが、これまで使っていたアン・ブロンド(Un Blonde)の名義からイヴ・ジャーヴィスに名義を切り替えて1作目はソウルフルな宅録風のアコースティック・ポップで、これがとても心地よく優しい響き。サーラ・クリエイティヴが腰砕けになったようなヘロヘロのヒップホップ調だった初期のアン・ブロンドは、最終的に『Good Will Come To You』(18)でサイケデリック・フォークを志向するようになり、それまでは「楽観的で朝の喜び」を表現していたものにフィールド・レコーディングやエレクトロニックな処理を増やし、さらには「寝る前に感じる苦痛」というテーマを与えることで『The Same But By Different Means(違う意味で同じ)』へとヴァージョン・アップを果たすこととなった。1曲だけヒップホップに揺り戻したようなビートもありつつ(“That Don't Make It So”)、全体としてはソフトで温かみのあるフォーク・ロックを軸に、しんみりと落ち着いた気分にさせてくれる全22曲という構成(曲の長さは14秒から8分12秒までかなり幅がある)。エアリアル・ピンクがスティーヴィー・ワンダーを取り入れたといえば少しは雰囲気が伝わるだろうか。

 ノワール・フォーク・シュールレアリズムと称されたりもしているので歌詞にはけっこう不穏な部分もあるのかもしれないけれど、何を歌っているのかはよくわからない&とくに話題にもされていない。ジャム・セッション風の“Blue V“、鳥の声だらけの“Dew of the Dusk”に“Exercise E”はとても美しいアンビエント・ドローン。よく聴くとかなりハイブリッドな音楽性で、これらを見事にまとめあげているというか、全体を貫くイメージがしっかりとしているので、それらが手法によって引き裂かれてしまうということがない。自分だけに接近して語りかけてくるかのような歌い方のことを枕を意味するピロウィーと形容するらしいけれど、オーデッドのそれはまさに耳元で囁かれているかのごとく。声の調子を変えることもなく、ひたすら穏やかにメランコリーが煮詰められていく。彼の音楽ヴィデオにはいつも彼だけしか映し出されず、ほかはすべて死に絶えたかのようで、まるで地球上で生き残ったのはこの人と僕だけ……みたいな。そんな聴き方も悪くない気がして。

『違う意味で同じ』というタイトルは、なんか、しかし、ジレ・ジョーヌのことみたいだな。

三田格