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小川充   May 09,2019 UP
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 今年もサウス・ロンドンを中心とするUKジャズ勢は精力的に活動をおこなっていて、先日紹介したザ・コメット・イズ・カミングヌビヤン・ツイストのほか、ココロコ、シード・アンサンブル、テオン・クロス、サラ・タンディ、ロージー・タートン、イル・コンシダード、ルビー・ラシュトン、アルファ・ミスト、シカダなどのアルバムがリリースされている。そうした中でもっとも注目を集めるのがエズラ・コレクティヴによる初のアルバム『ユー・キャント・スティール・マイ・ジョイ』だ。
 エズラ・コレクティヴはフェミ・コレオソ(ドラムス)とTJ・コレオソ(ベース)の兄弟を中心に、ジョー・アーモン・ジョーンズ(ピアノ、キーボード)、ディラン・ジョーンズ(トランペット)、ジェイムズ・モリソン(サックス)からなる5人組で、これまでサウス・ロンドンのジャズ・シーンを牽引してきたバンドである。トゥモローズ・ウォリアーズで出会った彼らは2012年にバンドを結成し、ライヴ活動中心に名を上げていき、ファラオ・モンチのヨーロッパ・ツアーでも演奏を務めた。作品はこれまでに「チャプター7」(2016年)、「ファン・パブロ:ザ・フィロソファー」(2017年)という2枚のEPをリリースしており、後者はジャイルス・ピーターソンの「ワールドワイド・アワーズ」で2018年度のベスト・アルバムに輝いている(便宜的にアルバムとカテゴライズされているが、実際にはミニ・アルバムだった)。南ロンドン勢の中でも特に高い人気を誇るグループで、ジョー・アーモン・ジョーンズは既にソロ・アルバムの『スターティング・トゥデイ』(2018年)をリリースし、他のメンバーも様々な作品に客演していたのだが、なかなかファースト・アルバムがリリースされてこなかったので、この『ユー・キャント・スティール・マイ・ジョイ』はまさに待望の一枚だ。

 エズラ・コレクティヴの音楽性の柱はジャズ、ジャズ・ファンク、アフロで、そこにレゲエ、ラテン、カリビアン、ヒップホップ、ブロークンビーツなどの要素も混ざってくる。特にアフリカ系のコレオソ兄弟が作り出すビートは、トニー・アレンをルーツとするアフロビートの影響を色濃く受けており、それがエズラ・コレクティヴ最大の特徴とも言える。そうしたアフロビートとジャズの結びつきに、扇情的なホーン・セクションが組み合わさって、エズラ・コレクティヴのサウンドは南ロンドン勢の中でもっともパワフルでダンサンブルなものとなっている。『ユー・キャント・スティール・マイ・ジョイ』はそうした彼らの姿を余すところなく伝えてくれる。演奏は5人のメンバーのほか、“ホワット・アム・アイ・トゥ・ドゥ?”でロイル・カーナーがヴォーカル参加。彼もちょうど『ノット・ウェイヴング、バット・ドローイング』を出したばかりと話題の人だが、そのアルバムにも参加していたシンガー・ソングライターのジョルジャ・スミスも“リーズン・イン・ディスガイズ”で歌っている。ほかにフェラ・クティのカヴァーの“シャカラ”にはココロコのメンバーも参加。パーカッションはファン・パブロというローマ教皇ヨハネ・パウロと同名のミュージシャンになっているが、これは「ファン・パブロ:ザ・フィロソファー」のときと同じくメンバーの変名クレジットだろう。

 オープニングの“スペース・イズ・ザ・プレイス”はサン・ラーのカヴァーで、「ファン・パブロ:ザ・フィロソファー」でもやっていたのだが、今回はそれとは異なるヒップホップ的アプローチによる演奏で、アルバム全体のイントロダクション的な役割を果たしている。アート・アンサンブル・オブ・シカゴを思わせるようなフリーキーなジャズから、最後はヒップホップ・ビートで締め括られる“ホワイ・ユー・マッド?”、レゲエ調の“レッド・ワイン”を経て、“クエスト・フォー・コイン”はブロークンビーツを取り入れた演奏で、クラブ・ジャズとの親和性の高いエズラ・コレクティヴらしいナンバーと言える。ジョルジャ・スミスをフィーチャーした“リーズン・イン・ディスガイズ”はネオ・ソウルを取り入れたもので、ロイル・カーナーをフィーチャーした“ホワット・アム・アイ・トゥ・ドゥ?”はヒップホップと、今のジャズらしいアプローチが続く。
 ここまでの前半の流れも悪くはないが、エズラ・コレクティヴらしさという点では後半のアフロビートを中心とした作品群に圧倒されるだろう。一口にアフロビートと言っても様々なリズムを繰り出しており、“ピープル・セイヴド”のようなロー・テンポのディープなタイプあり、“クリス・アンド・ジェーン”や“サン・パウロ”のようにラテンやカリビアン、サンバ・ビートと組み合わせた躍動的なタイプありと、とても幅広くて表情豊かだ。“キング・オブ・ザ・ジャングル”はスピリチュアルなアフロ・ジャズ、“ユー・キャント・スティール・マイ・ジョイ”はブロークンビーツ+アフロビートというダンサブルなサウンドだ。一方でジョー・アーモン・ジョーンズのソロ・ピアノによる“フィロソファーII”はスパニッシュ調のメロディによるクラシカルな作品。この曲の「ファン・パブロ:ザ・フィロソファー」でのヴァージョンはアッパーなアフロビートだったので、表現力の幅広さに驚かされる。最後はフェラ・クティの作品の中でも屈指の人気曲の“シャカラ”をカヴァーしていて、ココロコを交えた分厚いホーン・セクションが活躍する。エズラ・コレクティヴのライヴ・バンドとしての魅力が最大限に発揮された演奏と言えるだろう。彼らの演奏はリズムから組み立てられることが多く、アフロビートはその端的なものだが、そうしたビートが持つ生命力に貫かれたアルバムだ。

小川充