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木津 毅   Aug 19,2019 UP
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 キャレキシコとアイアン&ワインがコラボレーションしたミニ・アルバム『イン・ザ・レインズ』をリリースしたのは2005年のこと。それは控えめながらもそれぞれの長所がよく混ざり合った作品で、アイアン&ワインのアコースティック・フォークにキャレキシコのややワイルドなブラスが洒落た味つけをしていた。2005年といえばブライト・アイズをはじめとしたインディ・フォークが熱い注目を集めていた時期で、アイアン&ワインは出世作『シェパーズ・ドッグ』(07)をまだリリースしていない。フリート・フォクシーズボン・イヴェールもまだいない。振り返ってみれば、ブッシュ政権期のど真ん中でフォークがある種の説得力を持っていたころで、それは00年代なかばのUSインディ・ロックの隆盛の一部を担っていた。『イン・ザ・レインズ』はそのなかにいる善良なミュージシャンたちの善良な出会いであり、来たるべき変化を予感させもしていたのだった。
 では、その両者が14年ぶりに再び手を取った『イヤーズ・トゥ・バーン』は何を示しているだろうか。ともすれば「良心的な」などという当たり障りのない形容で済まされてしまいそうな、良いアルバムをリリースし続けてきたベテラン同士の地味な作品ではある。シンプルに良い、というのはいまどき惹句になりにくい。シーンにかつてほどの勢いがないいま、この、ただただ良いソングライティングとアレンジと演奏が詰まったフォーク・アルバムを聴くのはたんなる趣味でしかないのだろうか? いや……。

 両者はお互いのアルバムにお互いをゲストで呼んだり、ボブ・ディランのトリビュート・アルバム『アイム・ノット・ゼア』にともに参加するなど、つねに近い場所にいたし実際に共演を重ねている。だが、あらためてしっかり共作した本作を聴いていると、14年前よりもはるかに音楽的厚みがここにあることがわかる。『イヤーズ・トゥ・バーン』に大きく影響を与えているのはおもにふたつ。ひとつは、ある時期ジャズやソウル、ソフト・ロックにも接近し音楽性の幅を広げていたアイアン&ワインが、その時期を経て近作でフォーク回帰していること。もうひとつが、90年代からラテンアメリカ音楽をアメリカ南部のリアルな風景として取り入れてきたキャレキシコが、より「ソング」の体裁を意識するようになっていることだ。その成果がもっとも顕著に出ているのが頭3曲で、レイドバックしたじつにアイアン&ワインらしいフォーク・ロックにふくよかなブラス・アレンジや立体的なバンド・アンサンブル、密度の濃いコーラスが与えられている。
 だが、特筆すべきは8分を超える組曲形式の“The Bitter Suite (Pájaro / Evil Eye / Tennessee Train) ”だろう。冒頭、スペイン語によるアシッド・フォークでヴォーカルを取るのはキャレキシコのトランペッターであるジェイコブ・ヴァレンスエラ。彼がラテンの風景を描き出せば、それはやがてトランペットが咆哮するジャジーなジャム・セッションとなり、最後にはアメリカ内陸的なアシッド・フォークへと帰っていく。「列車がテネシーを去っていく、唸り声を上げて去っていく」……。そこでは南部に吹くラテンアメリカの風が、アメリカの空気も纏いながら内陸部の田舎にまで運ばれていく。アイアン&ワインもキャレキシコも豊かな旅情をその音楽に携えたミュージシャンだが、ここではその旅がより広範で複雑なものになっている。キャレキシコの最近作『ザ・スレッド・ザット・キープス・アス』がトランプの不寛容な移民政策に触発されたボーダー・ポリティクスについてのアルバムだったことを思い出せば、その、現在の国境のムードがアメリカの内側まで届けられているように感じるのである。まるで移民がアメリカの町に根づいていくように……。それこそが現在のアメリカであり、そしてフォークなのだと。フォークロアは伝承であるがゆえに、ひとや時代とともに変化していく。
 サム・ビームの繊細な歌とかすかに聞こえるブラスが穏やかな時間を運んでくるバラッド“イヤーズ・トゥ・バーン”の温かさ、そこで瑞々しく立ち上がるペーソス。この「いい歌」は、ベテランたちからのいまの時代への真摯な想いの表れである。不思議な清涼さを含んだこの歌を口ずさめば、アメリカの狂った時代も、日本の異常な暑さも、何とかともに乗り越えられるだろうか。

木津 毅