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Oren Ambarchi

Oren Ambarchi

Simian Angel

Editions Mego

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山﨑香穂   Jan 08,2020 UP
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 音楽史におけるほぼと言っていい全ての段階で、即興演奏をする楽しみが存在してきた。音楽上のテクニックや作曲形式で、即興演奏による実践から発していないもの、本質的に影響を受けていないものはないからだ。にもかかわらず即興演奏に関する定義や知識にはっきりしたものはない。これはインプロヴィゼーションの「決して止まることなく、つねに変化し状況に合わせて姿を変える」(デレク・ベイリー『インプロヴィゼーション』)性質による。ジャンルを超えた新しいサウンドを作り出し、どの作品も異なるカラーを持つオーレン・アンバーチの音楽も定義できるものではないし、定義すること自体がナンセンスかもしれないが、それこそがオーレンの作品をかたちづくるものであることは間違いないでしょう。

 オーストラリア、シドニー出身でエクスペリメンタル、インプロヴィゼーション界隈で活動を続けている、オーレン・アンバーチが『Simian Angel』を〈Edition Mego〉より2016年の『Hubris』以来の3年ぶりにリリースしている。(2019年7月)(オーレン主宰のノイズ、インプロ、実験的音楽を扱う〈Black Truffle〉のリリースも要チェックです!)

 SUNN O))) のメンバーとしてはもちろん、灰野敬二やメルツバウPhewジム・オルークなど多くのミュージシャンとのコラボレーション作品を制作し、ソロではドラムとギターによる編成を好んできたオーレンだが、今作はジョン・ゾーンやハービー・ハンコック、坂本龍一との共演でも知られるブラジル出身パーカッション奏者シロ・バプティストをフィーチャーし、ブラジル音楽からの影響が濃密に反映されている。

 『Simian Angel』は “Palm Sugar Candy”、“Simian Angel” の2曲からなる。どちらも16分から20分前後の長さで、オーレンの実験的に繰り広げられ、発展し、フェードアウトしていくようなサウンドスケープに没入するには心地よい長さに感じる。“Palm Sugar Candy” はコンガと水のようなシンセがゆったりとした「時間の音楽」を生成していく。“Simian Angel” ではビリンバウのパーカッシヴなパターンが反復されていく。様々な楽器を用いながら、ジャンルを超えた新しいサウンド、楽器、音素材の可能性を拡張し続けてきたオーレンだが、今回はシロ・バプティストの巧妙でリズミカルなハンドリングや、ビリンバウ、コンガの音色を取り入れることによって、ブラジル音楽への可能性を拡張していく。(オーレンはもともとパーカッション奏者という経歴もある)。また本作『Simian Angel』ではエレクトリック・ギターへの新たなアプローチに焦点が当てられている。一聴してオルガンのように聴こえるあの音もギターの音で作り上げられ、スリーブに「guitars & whatnot」と記される。このアルバムはギターとその他のなんやかんやの音でできているわけだ。

 インプロヴィゼーションの世界では、楽器は単なる記号として楽譜に記された音符を演奏するという目的のための手段、道具ではない。ジョン・ケージが言うところの「音そのもの」に興味があるというオーレンにとってもそうであろう。ギターから作られる音色で様々な音色を作り出せるオーレンにとっても楽器は音素材の源であるはずだ。

 また、インド生まれの母親を持つ彼は幼少期からラーガの音楽によく触れてきたようだ。このような音楽では、ラーガのある種の秩序よって素材、その素材を規格化された方法、演奏の骨格が用意されるが、全ては流動的であって、演奏されたときに最終的な状態へと達する。音素材や旋法等に上下関係はなく、装飾音、効果音と聴こえるようなものでもその音が何か別の音の下位に位置しているわけではない。なるほど、彼がラーガに影響を受けてきたことに納得する。オーレンは音素材やメロディに優劣をつけない。一聴して、これはブラジルのリズムだ、コンガの音だと知覚することはあるものの、なにかある音が支配的なものなのではなく、すべての要素を平等に不可欠なものとして解放する。16分から20分前後で展開され発展しては消えていく音たちは何か別の音の上位に存在しているものではないと感じることができるだろう。シンセの音もパーカッションの音もその他のなんやかんやの音として平等に扱われる。

 オーレンが作り出すギターの音、ギターでないようなギターの音、その他の音、メロディ、パーカッション、さまざまなものが合わさったとき、インプロヴィゼーションのなかで、ライプニッツの言うところの「音楽は魂がなにをしているか気づかぬうちにおこなっている秘密の計算」をこの音楽からも色濃く感じることがきっとできるだろう。

 https://orenambarchi.com/

山﨑香穂