ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Яejoicer - Spiritual Sleaze (review)
  2. Rond ──デュッセルドルフの伝説のパンク・レーベルのコンピレーションがリリース (news)
  3. Columns Playlists During This Crisis この非常事態下における家聴きプレイリスト (columns)
  4. 吉田アミ - 虎鶫(とらつぐみ) (review)
  5. Politics コロナ恐慌を機に高まった「政府は金を出せ」の声 (columns)
  6. ISSUGI ──中止になっていたリリース・ライヴの振替公演が決定、新曲の配信も開始 (news)
  7. Michinori Toyota ──豊田道倫による路上ライヴの映像が公開中 (news)
  8. Marihiko Hara ──沁みわたる叙情的な響き、ピアニスト/作曲家の原摩利彦による情熱の新作 (news)
  9. DJ Mitsu the Beats - ALL THIS LOVE (review)
  10. R.I.P. Gabi Delgado(ガビ・デルガド) (news)
  11. Caribou - Suddenly (review)
  12. R.I.P. McCoy Tyner 追悼 マッコイ・タイナー (news)
  13. ダニエル・ミラーからのメッセージ ──CDやレコードをレコード店のオンラインで買いましょう!! (news)
  14. 渡邊琢磨の自主レーベル〈Ecto Ltd.〉が『まだここにいる』のサウンドトラックをフリーダウンロードにてリリース (news)
  15. Columns Pandemic Diary (1) パンデミック・ダイアリー (1) (columns)
  16. interview with Little Dragon (Yukimi Nagano) 世界を魅了した歌声、北欧エレクトロニック・ポップのさらなるきらめき (interviews)
  17. Interview with Ryu Okubo 「もう進化しないで!」 (interviews)
  18. R.I.P. Manu Dibango 追悼 マヌ・ディバンゴ (news)
  19. Columns Pandenic Diary (1) パンデミック・ダイアリー (1) (columns)
  20. Random Access N.Y. VOl.123 NYシャットダウン (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Carl Michael Von Hausswolff- Addressing The Fallen Angel

Carl Michael Von Hausswolff

DroneNoiseSound Art

Carl Michael Von Hausswolff

Addressing The Fallen Angel

Sähkö

Spotify HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Jan 22,2020 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 この『Addressing The Fallen Angel』は、スウェーデンのストックホルムを拠点とするヴェテラン・サウンド・アーティストにして、アート・キュレイターとしても著名なカール・ミカエル・フォン・ハウスウォルフ(1956年生まれ)が、2019年にリリースしたアルバムである。
 「CM von Hausswolff」名義でも知られる彼は80年代から活動を開始し、あの〈sub rosa〉、〈touch〉、〈raster-noton〉、〈iDEAL〉などの錚々たるレーベルからアルバムを発表してきた才人。本作『Addressing The Fallen Angel』はトミ・グロンルンドと故ミカ・ヴァイニオ主宰によるテクノイズ・レーベルの老舗〈Sähkö〉からリリースされた作品だ。
 くわえてカール・ミカエル・フォン・ハウスウォルフは音源作品のみならず、インスタレーション作品も制作し、「ドクメンタ」や「サンタ・フェ・ビエンナーレ」などの国際美術展などに参加している。『Addressing The Fallen Angel』もまたブルックリン「ピエロギ・ギャラリー」、メキシコ「ルフィーノ・タマヨ博物館」、ドイツ「カールスルーエ・アート・アンド・メディア・センター」で展示されたインスタレーション作品の音源化という。

 ハウスウォルフは、「電気および嗅覚などの刺激から、音響に加えて光などを組み合わせることで、観客の感覚を変化させる作品」を制作してきた。ゆえにこの種のエクスペリメンタルな音楽作品の中でも音楽から限りなく離れた音響作品となっている。いわば音の彫刻であり、音響によるアブストラクト・アートである。
 もちろん本作『Addressing The Fallen Angel』もまた極度に削ぎ落された痩せたドローンが持続するサウンドとなっている。テープが経年劣化で変化を遂げていったような音響は、ほかのドローン作家の作品にはないマテリアルな幽玄性とでもいうべきムードを放っている。音の肌理と変化に聴き入っていると、覚醒と陶酔の「はざま」の状態へと導かれていくかのようになる。
 本アルバムにもそのような硬派なサウンドオブジェが2曲収録されている。18分19秒におよぶ1曲め “Addressing The Fallen Angel (part one)” は、ドローン(持続音)に加えてテキストのリーディングが重ねられている。15分4秒ほどの2曲め “Addressing The Fallen Angel (part two)” は、機械的な持続音が次第にノイジーな響きへと変化するトラックだ。2曲それぞれドローンの向こうにラジオのノイズのようなサウンドが微細に重ねられたり、音量を微細に変化させたりするなど、シンプルながら効果的な手法を駆使している。近年の作品ではマニアの評価の高い『Squared』(2015/〈Auf Abwegen〉)や『Still Life - Requiem』(2017/〈Touch〉)に匹敵するテクノイズ/音響作品の傑作といえよう。
 これらのアルバムも含めてハウスウォルフの音響作品は、「無常/無情の世界」というか、「人間以降の荒野」というか、「ヒトのいない世界」というか、とにかく無機質な叙情が漂っている。なかでもテクノイズの総本山(?)〈Sähkö〉からのリリース作である本作『Addressing The Fallen Angel』は、非人間的な世界を感じさせてくれるようなミニマルかつハードコアな音響空間を構築していた。ドローンとノイズ、マシンとヒト、無常と無情の世界。
 その結果、ハウスウォルフのサウンドは、「聴いたはずなのに聴き終わった感覚が希薄」な音響の持続になっているように思えるのだ。何回聴いても聴き終えた感覚が希薄なドローン音響。もしくは音響の記憶喪失。そう、ドローンが永遠に続く感覚とでもいうべきか。だからこそ “Addressing The Fallen Angel (part one)” における「声」の存在が、より際立ってもくる。まるで人間とマシンの対比のように。

 ちなみに2019年のハウスウォルフは、コラボレーションも旺盛だった。ジム・オルークとのアルバム『In, Demons, In!』(〈iDEAL〉)、シガー・ロスのヴォーカル・ギタリストであるヨンシーとのユニット Dark Morph 『Dark Morph』(自主レーベル)などをリリースした。これらのコラボレーションでも彼の「無常/無情の音響世界」が見事に作用している。本作『Addressing The Fallen Angel』と共にぜひとも聴いて頂きたい逸品だ。

デンシノオト