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JME

Grime

JME

Grime MC

Boy Better Know

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米澤慎太朗   Jan 23,2020 UP
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 ラップ・ミュージックの面白さのひとつは、それが「お金を稼ぐこと」に関する方法論と不可分に結びついていることである。Jay-Z の「俺はビジネスマンじゃない、俺がビジネス、man (“I’m not a businessman, I’m a business, man”)」というリリックは、彼らが単なる「ラッパー」ではなく、レーベル・オーナーであり投資家であり、ビジネスに長けた一面が凝縮されていることがわかる。あるいは Tohji の「俺の残像を金に換えてそれで乗れるベンツ」というリリックを思い出せば、彼のMVや Instagram での配信が目に浮かぶ。「ビジネスの哲学」を表現するラッパーはその最前線で常にそのバランス感を身肌に感じつつ、そのビジネス=生き様を表現している。

 音楽はテクノロジーとともにあり、ビジネスもまさにその変化の中にある。近年では2000年代後半から2010年代初頭にかけてMP3の普及を背景に、インディペンデントなアーティストが世界的に台頭してきた。USでは Tyler, the Creator 率いる〈OFWGKTA〉が原盤権を持ちながらメジャー契約を結ぶなど、インディペンデントな音楽のあり方を模索していたが、UKグライム・シーンでも2000年代から海賊ラジオ・カセット・DVDなどいち早くさまざまなテクノロジーを駆使して、メジャー・レーベルとは異なる方法で独自の音楽を流通させてきた。イギリスのトップ・グライムMC JME (ジェー・エム・イー)は「ファック・レーベル」と言い続けてメジャー・レーベルとの契約を拒み、クルーの「Boy Better Know」でのインディペンデントなビジネスを10年以上回し続けている。最新アルバム『Grime MC』では、彼流のある種「オールドスクールな」ビジネスや、その裏にある彼のユニークな視点を伝えてくれるアルバムである。

 前作『Integrity>』以降の4年間はリリースが少なかった中で、待望の4作目のアルバムは当初「CDとヴァイナル・オンリー」でリリースされた。自身のレーベル・サイト〈Boy Better Know〉とレコード・ショップのみで販売され、このストリーミング全盛の時代にとっては少し古臭い感じもする。しかし、これまでレコード、Tシャツ、キャップ、CD、カセットなど、様々なアイテムを率先してオンラインで発売してきた JME の活動を考えれば、それは単なる「時代遅れ」ではなく、流行を意識した上での確かなメッセージである。

 幼少期のストリートでの生活や海賊ラジオでの日々を歌った 1. “96 of My Life” で幕を開ける。海外のプレス工場に赴いてCDを作り、それを自分の足でレコードショップを回り売り捌き、メジャー・レーベルに頼ることなくツアーをおこなったことなど、彼独自の音楽活動のやり方についてラップしている。

 音楽ビジネスにとって無視するべきクソ野郎を挙げていく 2. “Pricks” では「ファック、(音楽)産業の野郎、あいつらの仕事はお前をハイにさせることだ」とアドヴァイスし、Stormzy を迎えた 9. “You Know” では「時計に何百万使ったとしてもお前は時間すらわからない」と冷や水を浴びせるが、それはラグジュアリーなものを見せびらかさない彼ならではの説得力がある。Wiley とともに「ベストになるために周りのイエスマンを排除しろ」と歌う 12. “Yes Man” や、Facebook や Instagram といった中毒性の高いSNSを「人を孤独にさせる anti-social」と呼ぶ 16. “Here” など、ユニークな視点が光る。JME の言葉は鋭く「ハイ」を求めるリスナーを諫める。

 ビジネスの話だけでなく 7. “Watch Me”での皮肉めいたリリックはお手の物だし、8. “Badman Walking Through” では客演の Shakka のキャッチーな歌が耳を惹く。トラックにはある種の暗くメランコリックなサウンドが通底していて、Blay Vision や Tre Mission といったグライム・プロデューサーが参加している。

 JME の「シリアス」な音楽は口コミで広まり、オンライン・サイトのCDは即完売となった。「インディペンデント」にこだわり、ビジネスの流れやプラットフォームのトレンドに流されず言葉を伝える。CDリリースという方法が Spotify・Apple Music 等のプラットフォームでのリリースと同じくらいいまだに通用する方法論であることは、このアルバムがリリース初週でナショナル・チャートの26位にランクインしたことにも示されている。JME の真摯な言葉が18曲の大作に詰め込まれている。

米澤慎太朗