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Home >  Reviews >  Album Reviews > Jeff Parker & The New Breed- Suite For Max Brown

Jeff Parker & The New Breed

Jazz

Jeff Parker & The New Breed

Suite For Max Brown

International Anthem / Nonesuch / HEADZ

Tower HMV Amazon iTunes

小川充   Feb 26,2020 UP
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E王

 トータス、アイソトープ217、シカゴ・アンダーグラウンドなどで活躍し、そもそもはシカゴ音響派~ポスト・ロックの文脈から登場してきたギタリストのジェフ・パーカー。先日もトータスのメンバーとして来日公演をおこなっていたが、そんなジェフにとって2016年の『ザ・ニュー・ブリード』はヒップホップとジャズの関係を探ったアルバムだった。彼にとってヒップホップとはプロデューサーが作る音楽、ポスト・プロダクションによって再構築された音楽であり、『ザ・ニュー・ブリード』はたとえばJ・ディラあたりから影響を受けたヒップホップ的なビートとジャズ・ギターのインプロヴィゼイションを融合し、トータルなバンド・サウンドとして展開していた。ニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズなど、さまざまなメディアで2016年の年間ベストに選出されたこのアルバムによって、ジェフ・パーカーはソロ・アーティストとしての確固たる地位を築いたが、それから4年ぶりのニュー・アルバムが『スイート・フォー・マックス・ブラウン』である。

 『スイート・フォー・マックス・ブラウン』は『ザ・ニュー・ブリード』の姉妹作というような位置づけで、『ザ・ニュー・ブリード』がジェフの亡き父親に捧げられていたのに対し、存命の母親に捧げたものとなっている(マックス・ブラウンは母親の旧姓で、アルバムのジャケットは若いときの彼女の写真である)。制作メンバーも『ザ・ニュー・ブリード』を引き継ぐ形となり、ジェフとポール・ブライアン(ベース)の共同プロデュースのもと、ジョシュ・ジョンソン(サックス、ピアノ)、ジャマイア・ウィリアムズ(ドラムス)というザ・ニュー・ブリード・バンドが演奏の核となる。ジェフはギターのほかにピアノ、シンセ、ドラムなどをマルチに操り、ヴォーカルやサンプラーも担当している。『ザ・ニュー・ブリード』にはトータスのジョン・マッケンタイアがゲスト参加していたが、今回はシカゴ・アンダーグラウンドやアイソトープ217での盟友のロブ・マズレク(ピッコロ・トランペット)、〈インターナショナル・アンセム〉のレーベル・メイトであるマカヤ・マクレイヴン(ドラムス、サンプラー)、『ザ・ニュー・ブリード』にも参加していたジェイ・ベルローズ(ドラムス)のほか、ネイト・ウォルコット(トランペット)、カティンカ・クレイン(チェロ)が参加している。『ザ・ニュー・ブリード』に続いて、ジェフの娘であるルビー・パーカーも “ビルド・ア・ネスト” という曲でヴォーカルを披露している。

 前回はボビー・ハッチャーソンの “ヴィジョンズ” をカヴァーしていたが、今回はジョン・コルトレーンの “アフター・ザ・レイン” (1963年の『インプレッションズ』収録曲)を演奏するほか、ジョー・ヘンダーソンの “ブラック・ナルキッソス” (1969年の『パワー・トゥ・ザ・ピープル』収録で、1976年の同名アルバムでも再演)をもとにした “グナルシス” を作るなど、往年のジャズの巨星たちの作品を取り上げている。その “アフター・ザ・レイン” はレイドバックした雰囲気の漂う演奏で、バレアリックなスピリチュアル・ジャズとでも言おうか。現在はロサンゼルスを拠点としているジェフだが、同じ地域のミゲル・アットウッド・ファーガソンやカルロス・ニーニョあたりの空気に通じるものを感じさせる。“グナルシス” はループ感のあるヒップホップ・ビートに乗せて、演奏そのものもエディットやサンプリングを交えて再構築し、『ザ・ニュー・ブリード』での方法論をそのまま推し進めたものとなっている。ここでのドラムはマカヤ・マクレイヴンだが、同じくマカヤがドラムを叩く “ゴー・アウェイ” はシカゴやデトロイト的なゲットー・フィーリング溢れるもので、言うなればセオ・パリッシュやムーディーマンのジャズ版とでも言えるだろうか。全体的にミニマルな演奏で、ハンド・クラップを交えたビートもハウスとジャズ・ファンクを混ぜたような感じだ。“フュージョン・スワール” の前半部はこの別ヴァージョン的なトラックで、ドラム・ビートとベースのループにハンド・クラップや掛け声を混ぜ込み、初期シカゴ・ハウスからデトロイト・テクノ的なニュアンスを感じさせる。この曲はジェフがひとりでギターやベース、パーカッションからサンプラー、ヴォーカルを駆使して作っているが、カール・クレイグのインナーゾーン・オーケストラによる “バグズ・イン・ザ・ベースビン” とか、今田勝をサンプリングしたパトリック・パルシンガーの “シティライツ” を連想させる。この “ゴー・アウェイ” や “フュージョン・スワール” を聴く限り、『スイート・フォー・マックス・ブラウン』ではヒップホップからさらに発展した幅広いビートの探求をおこなっていることがわかる。

 『ザ・ニュー・ブリード』のリリース後のインタヴューでは、影響を受けたジャズ・ギタリストの中にジム・ホールやケニー・バレルなどトラディッショナルなプレイヤーの名前も挙げていて意外だなと思ったのだが、“3・フォー・L” はそんな大御所たちから受け継いだブルージーな味わいが光るナンバー。“ビルド・ア・ネスト” もノスタルジックな味わいで、ブルースやゴスペルなど古き良き時代の黒人音楽が持つムードを感じさせる。ちょうどアルバム・ジャケットのマックス・ブラウンのセピア色の写真にピッタリのナンバーで、この曲をジェフの娘のルビー・パーカーが歌っているというのも親子孫3代に渡る絆や歴史を感じさせる。母の名前をタイトルにした “マックス・ブラウン” は10分を超える大作で、ミニマルでシンプルなクラップ・ビートに始まって、ジェフやジョシュ・ジョンソン、ネイト・ウォルコットらがじっくりとそれぞれのソロを展開するという構成。比較的淡々と演奏が進んでいくが、後半にいくにつれてジャマイア・ウィリアムズのドラムが次第にインパクトを広げ、終盤はジェフのギターのフィードバックがループしていくという、トータスあたりの演奏に繋がる曲だ。こうした楽曲の間をさまざまな小曲やインタールード風ナンバーが埋めていくのだが、その中の “カモン・ナウ” や “メタモルフォーシズ” はまったくギターを用いずにサンプラーやシーケンサーなどで作り上げたもの。曲間やスペースをビートのループやアンビントなレイヤーで埋めていき、ジェフのサウンド・プロデューサーぶりにますます拍車が掛かっている。

小川充