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Purity Ring

Electro Pop

Purity Ring

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三田格   May 05,2020 UP
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 だいぶギスギスしてきた。「あつまれ どうぶつの森」もいいけれど、こういう時は音楽なら「声」に着目したい。各国の感染症対策を見ると、メルケル(ドイツ)、アーダーン(ニュージーランド)、ツァイ(台湾)と女性リーダーの国が比較的うまくいっているという報道が多い。北欧もスウェーデン以外は女性がトップで(ゲイが首相を務めるアイルランドとともに)やはり評価が高い。ウイルスから身を守る時に「女性の声」で自粛を要請された方が国民も受け入れやすいという分析があり、ということは男性の声で「打ち克つ」とか「戦争だ」と勇ましいトーンで呼びかける国はあまり穏やかな気分にならず、実際、リーダーに対する評価も低い。うぐいす嬢が駆り出されて「選挙戦に勝とうとする」構図が繰り返されていると考えればいいだろう。「声」には「顔」や「思想」に匹敵する情報が含まれ、その効果は侮れない。ヴァリエーションもDNAの数だけ存在する。

 とはいえ、自分の「好きな歌声」を正確に把握することはは意外と難しい。言い方は悪いかもしれないけれど、「いい音楽」というファクターに騙されやすいのである。サウンドもある程度はいいものでないと音楽を聴いている意味がなくなってしまうので、そこは自分なりに線引きをすべきだろうけれど、「声」が前景化しているという意味ではラップがいい検討材料となる。去年、湯山玲子とヒップホップについてダラダラと話をしていた時に、サウンドに対して興味がなくても「好きな声」ならいつまででも聴けるという、身もふたもない結論に達してしまった。このサイトに掲載されたリトル・シムズの記事を読んでドハまりしたという湯山さんは『Grey Area』ばっかり聴くようになってしまったそうで、それだったら自分はなんだろうと考えた時に、自分の頭に浮かんだのはエミネムやスラッグ(アトモスフィア)といったハリのある声や、ちょっと変わった声、とくに鼻声ではないかと思い当たった。

 思想家の内田樹はかつてアメリカのポップスには「鼻声」が許容されていた時期があり、それは1977年でピタリとなくなったと書いていた。大国としての自信を失ってしまったアメリカはニール・ヤングやジェームス・テイラーの「鼻声」を受け入れる強さを失い、歌声は怒りや無機的な声に取って代わられたと氏は論じていた。「強い人間だけが、平気で泣くことができ」たし、そういう時代は終わってしまったのだと。世代が違うので、こうした考察を実感として受け入れるのは少しハードルが高いけれど、いわゆる「昔の曲はいい」という意見を聞く時に「昔の曲には現代に特有の感情が歌われていない」とはよく思うことだし、喜怒哀楽が他人事のようにしか感じられないとも思うので、僕がニール・ヤングやジェームス・テイラーの声に物足りなさを感じるのであれば、表現される「弱さ」の質も変化しているということが考えられるから、「怒りや無機的な声」の後で「鼻声」はどう変わったかを追ってみれば、内田樹の理屈にのることも可能になるだろう。そして、実際、僕が1977年以降、最もインパクトを感じた「鼻声」は戸川純とギャビン・フライデー(ヴァージン・プルーンズ)だった。彼らの声は明らかに「怒りや無機質を含んだ鼻声」であり、その延長線上にはビヨークがいたのでる。それこそ音楽はそれほど好きでなくても、僕にとっては「ついつい耳がいってしまう声」の持ち主がビヨークであり、その影響も世界規模に及ぶものだった。さらにいえば、先週、ブレイディ『Exeter』のレビューで、偶然にも書いたように僕が好きなラップはサイプレス・ヒルとTTCだった。声のことなど何も考えていなかったけれど、彼らも見事なほど鼻声である。僕は無意識に「鼻声」ばかり追いかけていたらしい。

 ピュリティ・リングのシンガー、ミーガン・ジェームズも最初から僕の耳を捉えて離さなかった。彼女の場合は「怒りや無機質を含んだ鼻声」ではなく、またしても時代が変わったのか、「甘えを含んだ鼻声」である。去年、繰り返し聴いたベイビーゴスもまったく同じくで、ウィズ・カリファをフィーチャーした“Sugar”は舌ったらずで甘えの要素をさらに強調するような鼻声である。ここまで来ると歌声を聴くためにしか聴いていないことは確かで、「鼻声」に興味がない人は……とっくに読んでいないだろう。ミーガン・ジェームズの歌声はかけらもアホっぽくなくなったというか、多少の無邪気さは失ったかもしれないけれど、軽く詰まったような鼻声はまったく変わっていない。コリン・ロディックによるグリッチを通過したシンセ~ポップ・サウンドも、以前の曲でいえば“Cartographist”を受け継ぐように重々しさを加え(ベースが太くなり、アウトロがしつこくなったかな)、暗くて巨大なものに押しつぶされながら小さなものが光っているという切ない存在感を以前よりも際立たせ、物悲しさやむせび泣くような哀愁をみっちりと伝えてくる。簡単にいえば、たくましくなっている。そして映画『シャイニング』を思わせると評された歌詞は、それこそ戸川純「赤い戦車」や「肉屋のように」とイメージがダブルほど生理的かつ内臓的で、アルバム・タイトルもずばり『子宮』となった。そう、ブレンダ・リー“The End of The World”やジュリー・ロンドン”Cry Me A River”にはない現代的な感情がここにはしっかりと刻み込まれている。

 同じ曲が人によっては違う効果を与えるということもあるだろう。新型コロナウイルスはDNAによって症状が変わるという仮説も浮上しているし、歌声に対する好みが千差万別であることは疑いがない以上、自分が好きな「歌声」は(サウンドとは分けて)自分でしっかりと探した方がいい。ソーシャル・ディスタンシングが叫ばれるなか、セクシャリティを有効に保つためにも(つーか、アベノマクスがまだ来ない〜)。

三田格