ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns ジャズとアンビエントの境界で ──ロンドンの新星ナラ・シネフロ、即完したデビュー作が再プレス&CD化 (columns)
  2. Oval - Ovidono (review)
  3. Random Access N.Y. vol.132:NYではレコードのある生活が普通になっている (columns)
  4. Floating Points × Pharoah Sanders ──これはすごい! フローティング・ポインツとファラオ・サンダースの共作がリリース (news)
  5. Ehiorobo - Joltjacket (review)
  6. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  7. Jenny Hval ──〈4AD〉へ移籍した北欧のシンガー/プロデューサー、ジェニー・ヴァルの新作が発売決定 (news)
  8. King Krule - You Heat Me Up, You Cool Me Down (review)
  9. Félicia Atkinson & Jefre Cantu-Ledesma - Un hiver en plein été (review)
  10. 年明けのダンス・ミュージック5枚 - (review)
  11. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第3回 映画『金子文子と朴烈』が描かなかったこと (columns)
  12. Kankyō Ongaku ──日本のアンビエントにフォーカスしたコンピレーションが発売 (news)
  13. dj honda × ill-bosstino - KINGS CROSS (review)
  14. Jeff Parker ──ジェフ・パーカーのニュー・アルバムがリリース (news)
  15. Cleo Sol - Mother (review)
  16. interview wuth Geoff Travis and Jeannette Lee 〈ラフ・トレード〉が語る、UKインディ・ロックの現在 (interviews)
  17. Parris - Soaked In Indigo Moonlight (review)
  18. SAULT - Untitled (Black Is) / SAULT - Untitled (Rise) (review)
  19. interview with Kinkajous UKジャズの魅力たっぷり (interviews)
  20. ARTHUR RUSSELL ──アーサー・ラッセル、再々評価のなかのリイシュー4枚 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Laura Cannell- The Earth With Her Crowns

Laura Cannell

AcousticFolkImprovisation

Laura Cannell

The Earth With Her Crowns

Brawl Records

Bandcamp

野田努   Nov 09,2020 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 相変わらず美しく、そして深みのある音楽だこと。心が嬉しくなるとはこういう音楽のことだろう。
 ローラ・キャネルはイギリスのヴァイオリン奏者であり、インプロヴァイザーである。オリヴァー・コーツの新作のように、キャネルの作品もまずはその音(トーン)によって決定する。それは忘れがたいトーンで、あまりに独自なトーンと響きゆえに、一瞬にしてその場の空気を変えてしまう。あるいはまた、静かで情熱的で、ぎょっとするような強度のある倍音を有している。それはまるで、彼女が自然界と話しているかのような、ある種の言語に思える。
 曲のなかには、ヨーロッパ各処の中世の音楽、スティーヴ・ライヒ風のミニマリズム、レデリウス的な室内楽が混ざっている。とくに近代以前の古いもの──国家がとくに誇りとしていないような、中世の旋律や民謡など──を掘り起こすことは、キャネルのおそらく全作品に通底するコンセプトだ(松山晋也氏なら、この曲は地中海のあのエリアで、この曲は東欧のどこそこで、などと言い当てられるかもしれない)。
 そして場所。
 2014年の実質的なソロ・デビュー作『Quick Sparrows Over The Black Earth』によって注目された彼女は、場所を選んで演奏し、録音している。どこでもいいわけではない。2016年の『Simultaneous Flight Movement』は海沿いの灯台で、2017年の『Hunter Huntress Hawker』と前作『The Sky Untuned』は小さな村の古く荒廃した教会で、今作『The Earth With Her Crowns(彼女の冠をした地球)』は水力発電所で演奏し、録音した。場所もキャネルの作品においては、いわばメタレベルでの楽器である。
 
 クワイエタスはキャネルの音楽を“エイシェント・フューチャリズム(古代・未来主義)”と呼んでいる。以前書いたことの繰り返しになってしまうが、最近は、アイルランド出身のアーニェ・オドワイアー(Áine O'Dwyer)、あるいはアースイーターなんか、エイシェント・フューチャリズム的なアプローチをする人が目につくようになった。自然現象と過去への畏敬の念、そこに未来(それは手法的な未来でもあり、必ずしも楽天的ではない未来である)が絡み合う、強い主張のこもったヴィジョンが空の彼方まで広がる。ちなみに、エイシェント・フューチャリズムの始祖をひとり挙げるとしたら、ぼくはサン・ラーだと思う。

 『The Earth With Her Crowns』はリリースされてからすでに数か月が経っているのだが、初夏、真夏、そして秋から冬へと、ぼくは前作同様このアルバムを部屋のなかでなんども聴いている。彼女の高度な演奏技術ゆえに、曲はオーヴァーダブしたかのように聴けてしまうけれど、すべては彼女ひとりによる即興で、驚くべきは、すべては一台のヴァイオリン(そしてリコーダー)によって演奏されている。
 ローラ・キャネルの演奏は、そしてきわめて詩的で、記憶を反響させ、閉ざされた思いを解放するかのようだ。そう、だからためしに空を眺めながら聴いて欲しいですね。胸の奥から得も知れない感覚がこみ上げてくるだろう。

野田努