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Pink Siifu & Fly Anakin

Conscious Jazzy Hip Hop

Pink Siifu & Fly Anakin

FlySiifu's

Lex Records

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野田努   Dec 16,2020 UP

 最近ぼくが好きで聴いているヒップホップといえば、ジェイ・エレクトロニカ&ジェイ・Zの“Ezekiels Wheel”、そして先頃リリースされたピンク・シーフ&フライ・アナキンのアルバムから“Mind Right”、この2曲に尽きるのであった。
 前者に関しては、ジェイ・Z絡みの曲をこの歳になってこれほど好きになるとは思わなかったが、サンプル・ネタがフリップ&イーノ『イヴニング・スター』の収録曲だし(元ネタが良いのはたしかだが、この再構成もみごと)、まあとにかくピンク・シーフ&フライ・アナキンの“Mind Right”とともに雑草(ウィード)が染みこんだ感じがたまらないのである。
 こんなことを書いていると、小林拓音あたりから、この厳しい時代にまどろんでいる場合ではない! などと非難されそうだが、厳しい時代だからこそまどろんでいたいのだ。スー(Sault)もスピーカー・ミュージックも素晴らしい、だが、こういう音楽=怠惰なビートも無くなって欲しくはない。

 アラバマ州バーミンガム出身のMC/プロデューサー、ピンク・シーフ、バージニア州リッチモンド出身のラッパー、フライ・アナキン、ともに近年のUSアンダーグラウンド・ヒップホップのシーンにおける注目株である。シーフは昨年の『Ensley』で脚光を浴び、今年の春に出した『Negro』におけるノイズ・パンクとジャズの壮絶な融合およびその政治性が話題になったばかり。いっぽうアナキンはリッチモンドのヒップホップ・クルーのひとりとしてすでに多くの作品に関わっているが、やはりジャズやパンクともリンクしている。ふたりとも90年代ヒップホップのグルーヴを現代解釈しながら、他方では音楽的にハイブリッドなこともやっていると、今後が期待される才能である。

 このコラボレーション・アルバム『フライ・シーフ』は、ふたりが架空のレコード店〈FlySiifu's〉で働いているという設定に基づいている。アルバムを通してその日常──日々の会話、顧客への対応、失敗、そして黒さ──を描いているという。アルバムの随所にはボイスメールを装ったスキットがあり、たとえば“Black Bitches Matter Hoe”は5日立ってもレコードが届かない客からのクレームに黒人女性が答えるもので、政治的ユーモアにもなっているようだ。
 ときにソウルフルに、ときにコミカルに、そしておおよそ愛らしく描かれる彼らの日常を演出するのは、アンダーグラウンド・ヒップホップの大物マッドリブをはじめとする14人のプロデューサー(オネスト・ジョンズのオーナーの息子、いまはLA在住のDJ/プロデューとして活動するBudgieも参加)。
 ぼくがほかに好きなのはLastnamedavidがプロデュースした2曲、ジャジー・ビートの“Runthafade”、そして“Clean”という曲で、ピアノ・ループを活かしたこの曲もまた“Mind Right”と同様に(最近人気のラッパー、Liv.eがフィーチャリングされている)、いい感じのチルなわけだ。アルバム全体が『Negro』の反動とも言えるほど、メロディアスで、ジャズとファンクがほどよく溶け込んでいながらほっこりしている。なので、これは通して聴くことをお薦めしたい。あたかもレコード店にいるかのような楽しい気分になるかもしれないし、温かく、この空しい冬にぴったりの、ありがたいサウンドトラックだ。

野田努

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