ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Kelela たとえばビヨンセのアルバムを好きな人は、ケレラもチェックしましょう (interviews)
  2. Ishmael Reed - The Hands of Grace | イシュメール・リード (review)
  3. Columns ギラ・バンド、ガールズ・バンド、そして音楽的不快感 (columns)
  4. Karolina - All Rivers | カロリナ (review)
  5. interview with Young Fathers 日本はもっとヤング・ファーザーズを聴くべき | アロイシャス・マサコイ (interviews)
  6. Kazufumi Kodama & Undefined ──あの素晴らしきKazufumi Kodama & Undefinedのライヴがついに決定 (news)
  7. R.I.P. 鮎川誠 | シーナ&ロケッツ (news)
  8. ダースレイダーとプチ鹿島による破天荒な映画、『劇場版 センキョナンデス』が2月18日(土)よりロードショー (news)
  9. R.I.P. Tom Verlaine 追悼:トム・ヴァーレイン (news)
  10. Columns 高橋幸宏 音楽の歴史 (columns)
  11. TechnoByobu ——君は「テクノ屏風」を知っているか (news)
  12. John Cale - Mercy | ジョン・ケイル (review)
  13. Joesef - Permanent Damage | ジョーセフ (review)
  14. 坂本龍一 - 12 (review)
  15. R.I.P. Yukihiro Takahashi 追悼:高橋幸宏 (news)
  16. Kelela & Asmara - Aquaphoria | ケレラ、アスマラ (review)
  17. Matthewdavid ──LAのマシューデイヴィッドがトリッピーな新作EPを投下、年内には久々のアルバムも (news)
  18. Rainbow Disco Club 2023 ——今年はジェフ・ミルズ登場、ほか豪華キャストで開催 (news)
  19. Weldon Irvine ——ブラック・ミュージックの宝石、ウェルドン・アーヴィンの原盤権・著作権を〈Pヴァイン〉が取得し、リイシューを開始します (news)
  20. R.I.P. Terry Hall 追悼:テリー・ホール (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > 環ROY- Anyways

環ROY

Hip Hop

環ROY

Anyways

B.J.L. X AWDR/LR2

大前至   Jan 21,2021 UP

 前作『なぎ』から約3年半ぶり、通算6枚目となる環ROYのアルバム『Anyways』。全曲セルフ・プロデュースにて制作されたという本作であるが、多彩なプロデューサーを迎えた前作と比べて、音楽的な表現の多様性の幅が狭まったのは否めないだろう。しかし、作品全体に漂う色合いやトーンというものはこれまでの作品と同じ流れの上にあり、自ら全曲のトラックを手がけることによって、伝えたいメッセージのフォーカスはよりくっきりとしたものになったようにも感じる。

 彼のトラックメイキングのスタイルはサンプリングを多用しながら、ブレイクビーツ感の強い曲も一部あるものの、どちらかと言えばシンセのコードやメロディが前面に出た透明感あるサウンドが軸になっている。本作のリファレンスとなった曲の彼自身の作成したプレイリスト「in any case」が Spotify および Apple Music にて公開されているのだが、国内外の様々なヒップホップ・アーティストに加えて、James BlakeRadiohead、Billie Eilish、Nosaj Thing といったメンツの楽曲も並んでおり、これらのラインナップを見れば彼のトラックのスタイルにも実に合点がいくだろう。幅広い意味でのビート・ミュージックが実に巧みに自らのサウンドへと吸収されており、それが彼のスタイルの基盤になっている。さらに “Rothko” という曲では落ち葉を踏む音や子供の声といった生活音さえもサンプリングに取り入れたり、“泉中央駅” では4拍子の中に5連符を入れ込むといった実験的なトライも行なっている。こういった試みはときにミニマルで無機質な方向へも走りかねないが、実際のところどの曲も一貫して温かい。その温かさは “泉中央駅” から感じられるノスタルジーな部分から来るだけでなく、直接的にも間接的にも彼自身の日常生活や家族をテーマとしたリリックからも強く伝わってくるし、「食べる」という人間の生(せい)の根源を扱った一見非常にワイルドな曲調の “life” も同様だ。そして、そんな本作の温度感は、コロナ禍であるいまの時代にも見事にフィットする。

 音源のリリースや通常のライヴに止まらず、劇場や美術館、ギャラリーでのパフォーマンスやインスタレーション、あるいは絵本制作など様々な活動を行なってきた環ROYであるが、トラックメイカーとしてのキャリアはまだスタートしたばかりだ。今後、さらなるトラックメイカーとしての成長が彼のアーティストとしての表現の幅をどのように広げ、どう変化させていくか、実に楽しみだ。

大前至