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Seefeel

ElectronicaTechno

Seefeel

Rupt + Flex 94 ― 96

Warp/ビート

杉田元一   Jun 07,2021 UP Old & New
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 シーフィールが1994から96年にかけて〈Warp〉と〈Rephlex〉からリリースした作品をまとめたボックス・セット『Rupt+Flex 94-96』がリリースされた。
 まず情報的なことを書いていこう。ボックスは以下の4枚のCDで構成されている。

●Disc1……彼らが〈Warp〉から1995年にリリースしたセカンド・アルバム『Succour』、全11曲。
 このディスクについては、1995年にリリースされたオリジナルの『Succour』と同じソースが使われているようだ。ボックスのクレジットにあるマスタリング・エンジニアの名前もオリジナルと同じ(Geoff Pesche)。2002年と2008年に〈Warp〉から出たリプレス盤も同様だった。オリジナルと同様にGeoff Pescheがリマスターした可能性もあるかなと思ったが、念のためダイナミックレンジやピークレベルを見てみると、過去の音源も今回のボックス音源もほぼ同じだったのでおそらくオリジナルのままのようだ。このアルバムをリマスターしなかったのは、マーク・クリフォードがこのアルバムの音に自信を持っているということなのだろうか。
 ちなみに過去のディスクと今回のディスクの違いがひとつだけある。アルバム最後のナンバーの扱いだ。これまでのディスクでは、アルバムは全10曲収録となっており、8分近くに及ぶ長尺の“Utreat”がラストトラックだった。ただし、元素表を模した表ジャケットには、クレジットされている10曲の斜め下に“( )11”という表記があり、アルバムに隠しトラックがあることが示唆されていた。このことは当時から知られていたことだが、今回のボックスセットではトラック10の“Utreat”が5分8秒で終わり、続く部分は“Tempean”のタイトルで2分44秒のトラック11として初めてクレジットされている。

●Disc2……『Succour (+)』と題された、『Succour』制作期のレアトラック全12曲。
 このディスク以降は、エレクトロニック・ダブ・ユニットで、当ele-king netでもおなじみPoleのステファン・ベトケによるリマスターとなる。これもこのボックスのアピールポイントだ。
 この12曲中、完全な未発表トラックはトラック1、6~12の8曲。
 トラック2から4の3曲はベルギーの実験音楽レーベル〈Sub Rosa〉から1995年にリリースされたエレクトロニック・ダブ系のコンピレーション・アルバム『Ancient Lights And The Blackcore』に収録されたもの。このアルバムは全6曲から成るが、シーフィールはなんとその半分の3曲を提供している。他の3曲はナパーム・デスのドラマー、ミック・ハリスのユニットScornのアンビエント・ダブ、デヴィッド・トゥープによって録音されたヤノマミ・シャーマンズ──ヤノマミ族はブラジルとベネズエラの国境に並ぶ丘陵地帯に住む民──のフィールド・レコーディング、LSDグル、ティモシー・リアリーとDJ Cheb I Sabbahによるスポークン・ワード、と言えばこのアルバムがどういうものなのかは理解できるだろう。
 残るトラック5は、2009年にワープ20周年を記念してリリースされたアルバム『Warp20(Unheard)』に収録されたもの。

●Disc3……〈Warp〉との契約を残しながら、1996年にエイフェックス・ツインのレーベル〈Rephlex〉からリリースされたアルバム(6曲入り、30分弱のミニ・アルバムだった)に、未発表曲6曲を加えて全12曲とした『(Ch-Vox) Redux』。トラック1から6までがオリジナルの『(Ch-Vox) 』、7から12が新たに加えられたトラック。
 
●Disc4……『St / Fr / Sp』と題された全10曲を収録するこのディスクは、1994年に〈Warp〉からリリースされた12インチ・シングル「Starethrough EP」(4曲)と10インチ・シングル「Fracture / Tied」(2曲)、1994年に10インチ3枚組で発表されたオウテカの「Basscadet」にシーフィールがリミックスを提供したことへの返礼として同じ年に制作されながらも、2003年にマーク・クリフォードが運営するレーベル〈Polyfusia〉からリリースされるまで未発表だった“Spangle”の貴重なオウテカ・リミックス、完全未発表の“Starethrough(transition mix)”、2019年にSfl4e名義で配信のみでリリースされたシングル「Sp / Ga 19」の2曲(“Sp19”は“Spangle”の、“Ga19”はアルバム『Succour』に収録された“Gatha”の略称)の、2017年から19年にかけてデンマークとフランスで行われたライヴ音源をエディットしたもの)を収録している。

 シーフィールが1994年に〈Warp〉と契約した時、世間は「あの電子音楽の牙城〈Warp〉がギター・バンドと契約した!」ということで大騒ぎになった……いや、大騒ぎというほどではなかったかもしれないが、中騒ぎくらいにはなったのではないだろうか。いや、しかし実際1995年にリリースされたアルバム『Succour』は驚くほどここ日本では売れなかったと、ele-kingの編集長・野田努は当該アルバム日本盤にライナーノーツを寄せた僕にそう告げたことをいまでもよく覚えている。もっとも、〈Too Pure〉時代のシーフィールは日本ではほとんどメディアに取り上げられることはなかった。当時日本でもその名が轟き始めていたコーンウォールの異能、エイフェックス・ツインとキャリア初期から密接な関係を持ち、そのエイフェックス・ツインがほぼ原曲の骨格を崩さずに彼らの美しいサイケデリック・ギター・ロックな〈Time To Find Me〉にリミックスを施したということで一部の好事家の間で話題になっていたにも関わらず、である。
 シーフィールの音楽は黎明期からそもそも不思議な存在だった。ちなみにマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』はシーフィールの最初のシングルよりも2年近く前の作品である。
 1992年の初頭、マーク・クリフォード、サラ・ピーコック、ジャスティン・フレッチャーの3人がシーフィールを結成した当初は、「3分間のポップ・ソングを作っていた」という。「ヴァース、コーラス、ヴァース、コーラス、ミドルエイト、コーラス、フェード・トゥ・エンド……」というやつだ。しかしすぐに飽きてしまった。その年の夏にダレン・シーモアが加入し、後に最初のEP「More Like Space」となる曲を録音したとき、彼らはそれまで試行錯誤したインディー・ロックの定石を捨てて、サウンドの核心に迫る旅をはじめることにした。〈Too Pure〉からの最初のアルバム『Quique』に至ると、コードチェンジは最小限に抑えられ、キーボードのループ、周期的なギターのフィードバック、ドラムマシンの音などがきらびやかなコラージュとなり、サラの言葉を使わないヴォカリーズが彩りを添え、水のようなレイヤーのシーケンスが重なり、異次元のサウンドスケープが生まれ、ダンスフロアとは無関係のある種のトランス状態を誘発するような音楽を彼らは生み出した。
 彼らの初期の作品のエレガントさを愛していたインディー・ロック・ファンはたしかに存在しただろう。が、彼らはその地点にとどまることなく、ドリーム・ポップ的なサウンドから実験的なアイデアを持ってよりダークでインダストリアルな領域へと急ピッチで進出した。そして彼らはアンダーグラウンドなエレクトロニカ・シーンの橋頭堡とも言えるレーベル、〈Warp〉と契約した。
 同じ頃にシーフィールはジャーナリストのサイモン・レイノルズによって提唱された「ポスト・ロック」というジャンルの代表的なバンドと見なされるようになる。シーフィールのほか、Bark Pyschosis、Pram、Main、Laika、Insidesといった「ロックの楽器を非ロック的な目的で使用し、ギターをリフやパワーコードではなく、テクスチュアや音色のファシリテーターとして使用している」グループの音楽がそのジャンル名で呼ばれるようになり、ロック・バンドにおけるサンプラーの導入やテクノ、ヒップホップ、ダブへのアプローチの呼び水ともなったのである。シーフィールの〈Warp〉時代は、イギリスのロック界におけるパラダイム・シフトの時代とぴったり一致しているのだ。
 だが、残念なことに〈Warp〉に移籍してからの彼らの活動は決して順風満帆ではなかった。バンドの司令塔でもあったマーク・クリフォードはより硬質な音響彫刻ユニットDisjectaを、ダレン・シーモアは初期シーフィールのメンバーであったLocustのマーク・ヴァン・ホーエンとユニットを、マーク・クリフォード以外のシーフィールのメンバーはSeefeelより歌に重点を移したScalaといった課外活動を展開し、シーフィールとしての活動は2010年までほとんど行われなくなる。マーク・クリフォードとサラ・ピーコックに加え、二人の日本人メンバーを迎えて改めて〈Warp〉から2010年にリリースされたアルバム『Seefeel』はいいアルバムだった。だが、このボックスセットに収められたわずか2年ほどの活動期間に創作されたシーフィールの音楽を聴くと、あの激動の時代を反映しているが故の凄まじいばかりの音の強度に頭をぶん殴られたような気分になる。いま聴いても決して聴きやすい音楽ではない。メタリックで、パーカッシヴで、引き裂くようなリズム。しかし音楽は一面的ではない。サラ・ピーコックの幽玄なヴォーカル・サンプルが穏やかさと光をもたらす瞬間があちこちにある。その音楽はストーリーを語るものではない。抽象的で、荒涼とすら表現したくなるような響きだが、それゆえ時代遅れになる危険性とは無縁であるとも言える。抽象的な音楽と言ったけれど、例えば彼らにはスティーヴ・ベケットも愛した“Spangle”といった名曲があるのは強い。オリジナルもいいが、オウテカによってさらなる幽玄空間を現出させたリミックスや、ライヴ・テイクをエディットした“Sp19”の、どちらも12分にも及ぶ天国的な響きに持っていかれて抗えない。

杉田元一