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RP Boo

Footwork

RP Boo

Established!

Planet Mu

渡部政浩   Dec 03,2021 UP

 ご存じのかたは多いかもしれないが、2021年はフットワークのビッグ・タイトルが立て続けにリリースされた。いずれもジューク/フットワークを世に紹介した、マイク・パラディナスの〈Planet Mu〉からのリリース。まずは、DJマニーによるロマンティックな『Signals In My Head』から、次にヤナ・ラッシュによるダークでエクスペリメンタルな『Painful Enlightenment』。そのどちらも、シカゴ発のアンダーグラウンドなダンス・ミュージックを背景に、ときに前進を試み、ときにそのサウンドから逸脱しながら、僕らリスナーに素晴らしいエレクトロニック・ミュージックを提供してくれた。そして、その真打ちと言うべきか、今年度の「フットワーク三部作」と形容したくなる一連のリリースにトリとしてドロップされたのが、同ジャンルで最も名高いDJのひとり、RPブーによる『Established!』だ。リリースから随分と時間が経ってしまったが、紹介しよう。

 個人的に、DJマニーやヤナ・ラッシュにしても「これがフットワークなのか?」と思わせる、良い意味でフォーマットに縛られない作風だと感じた。続く『Established!』をその観点から比較すると、どちらかと言えばより正統的な音だというのがおおよその印象。DJマニーの “Havin’ Fun”、あるいはヤナ・ラッシュの “Suicidal Ideation” を初めて聴いたときの、あの「ガツン」としたサプライズ感は正直なところなかった。しかしそれでも、やはりそこはRPブーと言うべきか、いまだにシカゴのローカルなシーンの旗振りをしつつ、フットワークという物語を前進させるDJのひとりなだけあり、そこから繰り出される音は相変わらず最小限で最大限を生み出す類の逸品。まるで何十年もひとつの道を歩み続けてきた職人の、その熟練した技法をまざまざと見せつけられている気分になった。

 RPブー本人によれば、「ハウス・ミュージックの未来がフットワークで、その次に来るものもまたつながっている」と。例えば、“All My Life” のピアノはまさにハウス的であるし、実際、“All Over” や “Beauty Speak Of Sounds” などは「ハウスのコミュニティに捧げた」と語るように、どれもフットワークという短い歴史のスパンだけでなく、シカゴに受け継がれるダンス・ミュージックの長い歴史のスパンを想起させる音だ。つまり細かく言えば、それはシカゴにおいて連綿と続くゲットー・ハウスからの流れを汲むジューク/フットワークの歴史であり、彼はそれを『Established!』のサウンドにおいてひとつの重要なアングルとして提示している。ただむやみに未来を渇望するのではない、むしろ良い未来を作るためにはまず過去を見定める必要があるということだろう。彼はそのアングルを才能あるシーンの後進たちに向けていると語るが、それをフットワークという音の枠組みで完璧に示してしまうところがすごい。無論、それはRPブーというひとの技がすでにヴェテランの域であることを証左している。

 また、僕がフットワークを気に入っている理由のひとつとして、その過激なサウンドの反面、サンプリングされる素材は定番の大ネタも多く、わかりやすいという点がある。DJラシャドがスティーヴィー・ワンダーをズタズタにカットアップしたようにね。その点、『Established!』もサンプリングの側面において素晴らしいフットワーク作品と言える。クラス・アクションの “Weekend” を拝借した “Another Night To Party” は、ほぼひとつのフレーズから最後の奇妙なビッチダウンまで、全てが完璧のクローザーだし、フィル・コリンズのヴォーカルを効果的に利用した “All Over” も独特のミニマルな音のアレンジメントと完璧にマッチしている。そしてなにより、スヌープ・ドッグの “Nuthin But a G Thang” をサンプリングした “How 2 Get It Done!” は、もうそのままあのスモーキーなヒップホップ・トラックがフットワーク・ヴァージョンとして提供される間違いのない曲だ。大ネタをいかにドープに仕上げるか、フットワークにあるそんな精神性においても、彼は職人的な高みへと上り詰めていると感じさせられた。

 結論を言ってしまえば、『Established!』は見逃すべきではない作品。たしかに、これといった目新しさや衝撃はないかもしれない。しかし、今作をそういう視点から語るのはナンセンスだと僕は思う。このシカゴのフットワークの職人が紡ぎ出す音は、熟練された技巧が凝らされており、そこには僕らが耳を傾けるべき意味がある。

渡部政浩